9月4日、千葉・舞浜で新型『ロードスター』が初公開された。4代目となるライトウェイトスポーツのデザインはどのようにして生まれたのか。デビューイベントの会場で、デザイン本部長 前田育男氏に話を聞いた。
----:ステージに新型が登場した瞬間、「ずいぶん変わったな」と感じました。「魂動のデザイン」をやるからにはNC型(先代)から変わるのは当然ですが、過去3代のロードスターから具体的に受け継いだところもないですよね。だけど、見ているうちにロードスターらしさが滲み出てくる、というのが不思議なところで…。
前田育男氏(以下敬称略):開発を始めるときから、デザインの最終的な落とし所はピンポイントだと思っていた。ロードスターの伝統はもちろん大事だけれど、一方で現行世代のマツダ車で取り組んでいる「魂動のデザイン」という大きなテーマがある。
マツダブランドの大事な一員だから、「魂動」から外したくない。でも、『アテンザ』や『アクセラ』、新型『デミオ』でやってきた表現とはまったく違うものにしよう。ロードスターらしさについては、記号ではなく、匂いにそれを込めよう。「過去のこの特徴を受け継ぎました」なんていう幼稚なやり方ではなくてね。そう決めてスタートしたのですが、かなり苦心したのは確かです。
----:プロポーションで言うと、ロングノーズになったのが印象的です。
前田:「魂動」の新しい表現とロードスターの匂いの両立に加えて、もうひとつ重視したのが骨格です。本物のスポーツカーとしての骨格を持たせたい。過去3代続けて良いデザインをやってきたと思うけれど、プロポーションや骨格という視点では100点満点ではなかった。
----:でも、例えばNC型では「人馬一体」を追求するために、タイヤとドライバー席の位置関係に非常にこだわった。そうすれば自ずと本物のスポーツカーのプロポーションになるのでは?
前田:我々もそう思ってやっていたのですが、今回いろいろスタディしてみたら足りないところに気付いた。開発の初期段階でデザインテーマは入れずにプロポーションだけを表現したモデルを作って、例えば人がどこに座ったらデザイン的に最も美しいのかを検討したんです。あるいは、ピラーの位置と傾きはどうあるべきか、フェンダーとタイヤの関係をどうするか…とかね。
古典的なスポーツカーもいろいろ見てみたのですが、やはりボディの重心がきちんとタイヤにかかっている。頭(キャビン)が小さくて、ボディがしっかりとタイヤに乗っているのがスポーツカーとしての「大人の骨格」なのだろう。それを目指すには、まだやらなくてはいけないセオリーのようなものがある、と思ったわけです。
----:その結果、ロングノーズにした? ホイールベースを少し短くして、シートと後輪の距離を短くすることで、比率としてロングノーズに見えるのかな、とも思いますが…。
前田:ホイールベースはそれほど大きくは変えていません。おっしゃるように比率を変えた。例えばNA(初代)はキャビンがボディほぼ真ん中にあったでしょう? それを今回はキャビンを後ろに引いて、明らかにフロントの比率を大きくしました。さらにキャビンをできるだけ小さくしよう、と。
----:キャビンを後ろに引くのは、『CX-5』以来、「魂動」のなかでずっとこだわってきましたよね。でも、ロードスターはもともとエンジンが縦置きのフロントミッドシップだから、これ以上どうするのかなと思っていました。「魂動」をやっても、Aピラーの位置はあまり変わらないのではないか、と。
前田:なるほど、確かに寸法の自由度はあまりない。ボディサイズを大きくしたくない、と考えていましたからね。しかし、フロントフェンダーのピークから、スーッと後ろにハイライトが延びていく。ここで長さを感じるようにすることで、物理的な位置以上にキャビンが視覚的に後ろにあるように見えていると思います。
----:広報の方から「全長はNAより短い」と聞いて驚きました。ステージに現れた新型を見て、NC型(先代)より大きくなったと感じたので…。
前田:「大きく見えた」というのは、実は大事なポイントなんです。物理的にボディを小さくして、軽量化するけれど、第一印象で「なんだか小さくなったね」と言われるようなデザインには絶対にしたくなかった。
本物のスポーツカーの骨格を持たずに、ただ小さくしただけでは、弱くなっただけになってしまう。コンパクトになっても「強くなった」と言われたい。プロポーションを完璧にしないと、このクルマの価値がないと考えました。