ホンダ独自の高圧製造方式でコンプレッサー不要
ホンダが産業ガス大手の岩谷産業と共同でコンパクトな水素ステーションを開発、さいたま市で実証実験に入った。能力は小さいが、大型の水素ステーションに比べて設置が容易など機動性があり、コストも抑制できる。燃料電池車(FCV)の普及に欠かせない水素インフラの一翼を担う装置として期待される。
このステーションは、電力(200V交流)と水道水があれば電気分解によって水素を造ることができ、最大350気圧でFCVに充てん可能だ。製造から貯蔵、充てんまでの機能がパッケージされており、床面は3×2.5mと小ぶり。ホンダと岩谷は「スマート水素ステーション」と命名している。
技術のポイントは、ホンダが蓄積してきた「高圧水電解システム」という製造方式。水の電気分解を密閉した空間で行い、発生した水素を高圧貯蔵タンクに送り込むものだ。閉ざされたプロセスで発生した水素ガスは自ずと高圧になっていくので、多くの水素ステーションには不可欠のコンプレッサー(圧縮機)が不要になる。これによって装置全体をコンパクトにでき、同時にコストも縮減できるのだ。
コストは5000万円をめどに
ステーションは工場で組み立てられた後に配送するので、基礎地盤を除く設置工事は1日で完了する。今回の実験装置の水素製造能力は日量1.5kgで、年間では500kg相当となる。乗用車タイプのFCV1台に換算すると、年間約5万kmを走らせることが可能という。350気圧タイプのタンクを積んだ乗用車だと3分程度で満タンにできる。
製造能力としては、次から次に車両への水素充てんが可能な商用の大型ステーションのようにはいかないが、数台のFCVを利用する法人や自治体などに向けた需要が想定されている。ホンダと岩谷は「2~3年かけて実証実験を行い、システムの改善とコスト低減に取り組む」(岩谷の宮崎淳常務執行役員)方針だ。コストの目標は、5億円前後する大型商用ステーションの「10分の1程度」としており、5000万円水準をめざしていく。
700気圧のタンクにも充てんできる
水素の充てんノズルなどは、すでに規格が確立しているので、ホンダ車だけでなくトヨタ自動車など他社のFCVにも使える。気になるのは、FCVの水素タンクの主流が、これからは700気圧とより高圧になる点だ。トヨタが14年度中に、またホンダが15年に発売する最新の市販モデルは、ともに700気圧タンクを採用する。
ところが、最大供給圧が350気圧のこのステーションでも700気圧のタンクにも相当量充てんできるそうだ。もちろん満タンは無理だが、本田技術研究所によると「タンク容量の60~65%までは充てん可能」(岡部昌規主任研究員)という。
成長戦略のひとつに「水素社会」の構築を掲げる政府は、FCVの市販開始に呼応して15年度中に100か所の商用水素ステーションが設置できるよう民間へのサポートを進めている。ただし、これらは東名大と福岡の4都市圏を中心とした整備となり、面的な広がりには時間を要す。それだけに、ホンダと岩谷が開発したスマートステーションは、そうした地理的制約から解放し、全国のインフラ空白地を埋めながらFCVを走らせる技術となろう。