中学受験は親の受験と言われるほど、入試に向けた準備には、子ども本人だけでなく、親も一緒に取り組まなくてはいけないことが多い。塾選びから、受験生である子どもに対する親の関わり方まで、30年以上の中学・高校受験指導実績をもち、「塾ソムリエ」として活躍中の西村則康氏の助言をもとに、一緒に考えてみたい。
中学受験決定の時期と入塾時期、そして入塾準備
「受験勉強は小学4年生から始めるのがいいと思います」と西村氏は語る。しかしこれは、受験に向けて本格的に勉強をすることを意味する。小学校に入学したときから読み書きなどの基本を身につけておく必要があり、小学3年生では、入塾のための準備をし始める必要があるそうだ。言い方を変えれば、塾に通うのは小学4年生からでいい。しかし、その前に盤石な基礎学力(読み書きそろばん)を身につけることが大事になってくる。
入塾時の学力がその後に影響
入塾に当たっては、なるべく入塾テストでよい点数を取り、上のクラス(難関中学校対策クラス等)に入ることが大事だと西村氏は言う。これは、下のクラスから始まると、上のクラスに上がるのが難しいからだそうだ。このため、入塾に当たって、家庭教師や個別指導を活用するという選択もある。
さらに、一般には「塾は大手塾に入塾するべき」と西村氏は言う。中学受験に当たっては、教材の開発力やノウハウの蓄積で大手塾にアドバンテージがある。また、各塾にはそれぞれの特徴があり、その特徴を見極めて、子どもの性格に合った塾を選ぶべきだと西村氏は語る。
塾の選び方のポイント
西村氏は、塾の選び方のポイントを3つあげる。
1つ目は、志望校。志望校によっては、公式などのパターンで解く問題を多く出す中学校や記述式の問題を多く出す中学校など傾向があり、志望校の問題傾向に対応している塾を選ぶのがいいそうだ。
2つ目は、子どもの特性。たとえば、テキパキと物事を推し進める子ども、納得するまで考える子どもなどいろいろなタイプがいる。子どもの特性を見極め、塾を選ぶようにしなければならない。
3つ目は、塾が使用しているテキストから考える。テキストには、カラーが使われているか、テキストにストーリーがあるかなど、吟味する必要がある。
以上の3点を特に注視して塾を選んでほしい。
家庭教師や個別指導併用のポイント
塾での成績が伸び悩んだり、スランプに陥ったりしたときには、家庭教師や個別指導の併用を検討するのも一つの方法だ。
個別指導塾を選ぶ際には、体験授業を活用することをお勧めする。その際には、保護者も見学し、子どもと先生の相性や授業風景を確認したい。何かしらの理由をつけて、親に授業を見せない教室には通わない方がいい。そして、教えるだけで終わっていないか、つまずきポイントをきちんと見つけ指導してくれているかを見る必要がある。また、楽しそうに授業を受けているかは、何よりも大事なことだ。
期間を決めて、つまずいているところを見つけてもらい、その克服を目標にして、達成した場合には、「家庭教師や個別指導を一旦やめるのもひとつの方法です」と西村氏は語る。併用は経済的な負担になる場合もあるので、子どもがどこかでつまずいたら、そのつど、家庭教師や個別指導を利用する方法をとってみるのもいいのではないだろうか。
親は子どもにどう関わるか
子どもに、「あなたは●●だから、××をしないといけない」と言ってしまう人は多いのではないだろうか? こうした言い方はやめたほうがいい。もし、子どもに声をかけるなら、「あなたは○○といった良い面をもっているから▲▲すれば、□□しそうね」と成功を想像させるような言い方をするのがいい。このように、一声のフレーズの選び方が重要だと西村氏は言う。
また、会話のすべてが勉強のことだけでは子どもは伸びないそうだ。「勉強をしろ」と言うのではなく、普段の生活のこと、学校であったことなど日常の会話を大事にすることも重要なことだそうだ。
丸つけは、4年生までは親がしていい。ただし、記述問題は塾の先生に任せるほうがいい。さらに、算数の難易度が上がり、親が見ることが困難になってきた場合は、「家庭教師などの助けを借りるのもいいです」と西村氏は言う。そして、親が関われるうちに、間違えた問題の原因を明らかにして、自分で見直しができるようにしておくことが重要だ。
また、塾の送迎についても、きちんと目をかけてやる必要がある。授業が終わったあとも、質問などをしていると、どうしても夜遅くになってしまう。できるだけ送迎をしてあげることで、子どもが勉強に集中できる環境を整えてあげたい。
そして、子どもの体調にも気を配りたい。勉強を続けるうえで、睡眠時間は大切な要素だ。ついつい夜遅くまで勉強をすることになってしまう子どもがいるかもしれないが、できるだけ睡眠はとった方がいい。睡眠時間は、子どもによって個体差があるが、気持ちよく起きているかどうかを観察してあげてほしい。起きたくないというのは、睡眠が足りていないか、起きるのが楽しくないことなどが考えられる。寝る前に、労いの言葉をかけてあげることも重要になる。
過酷な中学受験、しかし決して無駄にはならない
中学受験をするにあたり、「今は塾に通わないと合格することはできない」と西村氏は言う。塾に通うことはもはや必須になっている。それゆえに、子どものスケジュール管理も大切になる。しかし、子どもは機械ではない。なんでもかんでも時間通りにしなくてはいけないと押さえつけないようにしたい。柔軟に対応し、いい気分で勉強ができる環境を築いてあげることが何よりも大事だ。
最後に、進路はひとつではない。残念ながら志望校に行けないことになり、併願校に行くことになることもあるだろう。そうなったときのために、「併願校のよさもきちんと説明してあげることが大事」と西村氏はアドバイスする。「行きたくなかった学校に行く」と思うのではなく、「新しい学校に行く」と思えるようにしてあげたい。勉強を通して、受験をすることによって、「自己を肯定する力」を養うことも受験の大事な要素なのだから。
・西村則康氏(名門指導会代表・中学受験情報局主任相談員・塾ソムリエ)
35年以上、難関中学・高校受験指導を一筋に行う家庭教師のプロフェッショナル。これまでに男子御三家の開成、麻布、武蔵、女子御三家の桜蔭、女子学院、雙葉をはじめ、灘、洛南高附属、東大寺学園、神戸女学院などの難関校に合格させた生徒は2,500人以上にのぼる。著書に「中学受験は親が9割」(青春出版社)、「御三家・灘中合格率日本一の家庭教師が教える 頭のいい子の育て方」(アスコム)ほか多数。