ホンダの新型軽トールワゴン『N-BOXスラッシュ』を2時間程度試乗する機会があったので、ファーストインプレッションをお届けする。
N-BOXスラッシュは装備が豊富な「X」と簡素な「G」の2グレード構成で、それぞれターボと自然吸気の2種類のエンジン、FWD(前輪駆動)とAWD(4輪駆動)の2種類の駆動方式が用意される。試乗したのはXのターボ・カリフォルニアダイナースタイルとGのAパッケージ装着車。試乗コースは代官山の蔦屋書店と臨海副都心の潮風公園の往復。2名乗車、エアコンOFF、エコモードスイッチONという条件で運転した。
まずはXターボ。ブルーのボディカラーとホワイトのルーフの2トーン塗装は、N-BOX スラッシュのファンクなキャラクターによく似合っていた。スラッシュのエクステリアデザインは、それ単体で見ればベースモデルのスーパーハイトワゴン『N-BOX』に比べてフォルムに伸びやかさがあり、カジュアルなイメージは格段に強まった感がある。一方、屋根を切って車高を下げるチョップドルーフカスタム風として見ると、やや保守的で思い切りが足りないように感じられた。伊東孝紳社長が販売台数至上主義を打ち出し、スラッシュ開発陣もニッチに徹することは難しかったのだろう。
N-BOXのウェストライン以上をリデザインして作られたN-BOX スラッシュ。ドライブフィールについては、N-BOXの美点であるオンザレール感はしっかり受け継がれており、カーブの多い首都高速のクルーズはとても楽しいものであった。スラッシュは単にルーフを下げただけでなく、サスペンションを10mmローダウン、リアショックアブソーバーも大径化するなど、シャシーにも手が入っている。ローライダー感を出しつつ乗り心地も改善するという一石二鳥を狙った措置とのことだが、実際に乗り心地はN-BOXの欠点であった「ガチンガチン」という突き上げ感の強さが和らげられ、快適さは増している。
もっとも、軽量化より強固さを求めた「Nシリーズ」のプラットホームの資質を最大限生かすというところまでは行っていない。ベースのN-BOXには、子会社のホンダアクセスがサスペンションセッティングを行った「モデューロX」というグレードが存在する。その乗り心地の滑らかさとハンドリングの良さは、軽のライバルを完全に凌駕し、輸入車を含めた普通車のサブコンパクトクラスに混ぜてもトップランナーと断言できるくらい良かった。ホンダアクセスのテストドライバーやアドバイザーの土屋圭市氏によれば、タイヤを含めた足回りの部品は量産車と同等品で、テストを重ねて潜在資質を目いっぱい引き出したのだという。本田技術研究所の開発チームもそれくらいの熱意と見識を持ってセッティングを行えば、N-BOXスラッシュをもっと良いものにできるはずだ。
エンジンはホンダの新世代環境技術群「アースドリームズテクノロジー」が投入された「S7A」型直列3気筒。N-BOXの初期型から改良が施されており、アイドリングストップシステムが装備されている。軽自動車のエンジンは各メーカーが激烈な改良競争を繰り広げている。最高出力が64psに制限されていることもあって、ホンダだから優れているというファクターは正直感じられない。CVTの制御も、他メーカーと比べて一長一短といったところで、ドライバビリティも最新の軽モデルとして標準はクリアしているという程度だ。
N-BOXスラッシュ ターボのJC08モード燃費は23.0km/リットルと、ライバルの新世代モデルの中ではかなり悪い数値であるばかりか、前面投影面積の大きなN-BOXと比べても若干低いというちょっと謎な仕様なのだが、一般道、首都高速とも渋滞気味の都内を走った際の燃費計表示は18.2km/リットルで、それほど悪いという印象はなかった。
カリフォルニアダイナースタイルの内装は、真っ赤なシート地にチェッカーフラッグ柄をあしらったワイルドなデザインで、「ホットロッド」風の演出が好きなユーザーにとってはかなり格好良く感じられるものと思われた。ただ、シートの座り心地はノーマルに比べてやや退化した印象。もともとN-BOXと『N-ONE』のシートは体にしっとりとフィットし、長時間の連続ドライブでも身体へのストレスを最小限に抑えるという、シトロエンのシートのような傑作。表皮がファブリックから合成皮革になっただけで張りの強さを感じさせてしまうとは、シートはつくづく難しいものだと思わされた次第だった。
総じてN-BOXスラッシュのXグレードの仕上がりは、軽スペシャリティらしさを感じられるだけのレベルには十分に達している。ちょっと変わった軽が欲しい、内装はお洒落なほうがいいといったユーザーには良い選択になり得る。また、標準装備のハイパワーオーディオを生かすため遮音が徹底されており、クルーズ時のノイズレベルが低いこと、シャシー性能が高いことから、ロングドライブ派のスポーツギアにも向いているだろう。それらの美点が車両価格の高さを押してどう受け取られるか、ホンダブランドの今後を占うという点でも興味深い。