【ホンダ ジェイド 試乗】ドライバーズカーとして上質だが、見た目と価格にギャップあり…井元康一郎

試乗記 国産車
ホンダ ジェイド
ホンダ ジェイド 全 9 枚 拡大写真

ホンダが2月13日に発売した新型ミニバン『ジェイド』を短時間テストドライブする機会があったので、ファーストインプレッションをお届けする。

ジェイドの成り立ちをおさらいしておこう。全幅1775mmに対して全高1530mmというワイド&ローフォルムの3列シートミニバン。「エキサイティングHデザイン」と称する新世代のデザイン文法に沿った造形がベーシックカー『フィット』、コンパクトセダン『グレイス』などとの血縁を連想させるが、サスペンションをはじめクルマの主要部分の多くをアメリカで販売されている『シビック』と共有している。中国戦略車として開発されたモデルだが、日本でのラインナップ増強のため、ハイブリッドユニットを搭載してデビューさせた。

まずは居住性。前席で特徴的なのは、サイドウインドウの下端が下に向かって弧状を描く独特のウエストラインがもたらす良好な視界だ。眺望が良く、周囲の交通状況の把握も楽。また、車内への光の採り入れも豊かだ。ジェイドのインテリアカラーはアイボリーとブラックがあるが、試乗車のブラックインテリアでも車内は明るいイメージであった。ただ、動力用バッテリーが収納されたセンターコンソールが左右席を完全に遮断するように配置されているため、横方向の開放感には乏しい。

売りである2列目シートは左右が完全に分離されたキャプテンシート。シートを後端まで下げると足元空間は極大になり、悠々とくつろぐことができる。ただ、こういった広さの演出は軽自動車のトールワゴンのほうがさらに上で、ジェイドならではの特別感は薄い。また、足を投げ出し、ヒップポイントを前にずらしてだらしなく座るのは万が一のアクシデントのさいの加傷性が高まってしまうので、あまりお勧めできない。

3列目シートは狭い上にシートも薄く、乗り込むのも面倒と、あまり実用的ではない。中国市場ではジェイドのこのシート配列を「4+α」と名づけている。クーペの2+2ならぬミニバンの4+2というコンセプトと考えればわかりやすいが、3列目の実用性があまりに低いというのでは、今後登場が予想される2列5人乗り+大容量カーゴルームというパッケージの『フィットシャトル』との住み分けが難しくなる可能性もある。

実際にクルマを走らせてみてまず印象に残ったのは、静粛性の高さだ。エンジンノイズ、ロードノイズなどクルマ自体が発する騒音だけでなく、外部の環境音の侵入も相当に抑制されている。前後席間でスムーズな会話ができるようにという目標だったそうだが、それは十分以上に達成されている。

乗り心地もまあまあ滑らかだ。まあまあという条件をつけたのは、路面状況によって得手、不得手がはっきりしていることによる。舗装状態の良い路面での乗り心地は文句なしに良い。また、試乗した浦安の港湾地区では補修跡だらけの悪い路面が続いたが、不整な微小振動のカットも、1.4t台の乗用車としては高レベルにあった。反対に悪かったのは、橋梁における路盤の継ぎ目など、大き目の衝撃が一発ドンと来るような入力にはやや弱く、突き上げ感は大きめ。一番悪かったのはゼブラ状の減速帯の通過時で、上下への揺すられ感がかなり大きめに出る。ただし、『ヴェゼル』のようなガチンガチンのセッティングとは異なり、しなやかさは一応出ていた。

最後に動力性能と燃費。ジェイドのハイブリッドシステムはエンジンとバッテリーが同時に発生できる最大出力が152psと、フィットハイブリッドやグレイスより強力。また、一般走行での使用頻度が高い中間域でのトルクもきわめて厚いため、動力性能は余裕たっぷりに感じられた。体感的には2400cc級か。ただ、フィット3を皮切りに展開が進められている「i-DCD」の悪癖であるキックダウン操作に対する応答性の鈍さは解消に至っていなかった。東京ディズニーリゾートのある舞浜と千葉の浦安、市川との間を市街地中心に2度走行したさいの燃費計表示は、普通に運転した1回目が19.5km/リットル、意図的に少々ラフに運転した2回目が18.9km/リットルだった。

合計2時間という短いドライブを通じて得られた率直な感想。快適性や安定性は高く、ドライバーズカーとしては比較的よくまとまったモデルに仕上がっている。4人までしか乗らないのであれば、ミドルクラスのセダンやステーションワゴン代わりの上質なランナバウトとして十分に利用価値があろう。

一方、3列シートのミニバンとしてみると、3列目がほとんど用をなさないパッケージングがいかにも中途半端で、ミニバンユースには耐えられなさそうだった。見た目は完全にミニバンなので、放っておくと乗用車ユーザーは寄ってこない。また、車両価格とエクステリアデザインがマッチしていないのも弱点。サイズもシャーシメカニズムもれっきとしたCセグメントなのだが、フロントマスクがフィットと被るため、下位のBセグメントに見られがちになるという事態に陥る恐れは多分にある。見た目と商品性、見た目と価格のギャップを埋めるべく、ユーザーコミュニケーションをどう工夫するかがセールススコアを左右することになりそうに思えた。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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