3月改正から距離も日本一…根室本線の「長~~い」鈍行に乗ってみた

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狩勝峠越えを前に落合駅で長時間停車する、日本一「長~~い」普通列車の2429D。
狩勝峠越えを前に落合駅で長時間停車する、日本一「長~~い」普通列車の2429D。 全 11 枚 拡大写真

いよいよ3日後(3月14日)に迫った今年のJRダイヤ改正。北陸新幹線長野~金沢間の開業や上野東京ラインの運行開始、『トワイライトエクスプレス』の廃止など、例年になく大きなニュースが目白押しだが、その陰で、改正を機にタイトルホルダーが交替するのをご存知だろうか?

そのタイトルとは「日本一長い距離を走るJR定期普通列車」。いわゆる「最長距離鈍行」だ。現行ダイヤでの最長距離鈍行は、中国地方の山陽本線を走る岡山16時17分発~新山口22時02分着の普通列車(列車番号371M)だが、この列車は3月14日から徳山止まりになってしまう。そのため、最長距離鈍行の座は、白河の関はおろか津軽海峡を一気に越え、北海道の根室本線滝川~釧路間を走る普通列車(列車番号2429D)に移るのだ。

改正前の走行距離は、営業距離ベースで371Mが315.8km、対する2429Dは308.4km。ともに300km台ではあるが、371Mがわずかに7.4km長かった。もっとも、始発駅から終着駅までの運行時間となると、371Mが5時間45分なのに対して2429Dは8時間27分と圧倒的に長い。そのため2429Dの車体側面に取り付けられた行先票(サボ)には「日本一運行時間の長~~い定期普通列車(2429D)」と書かれている。3月14日からは「時間」の文字を「距離」に書き換えるのだろう。

50代半ばの私のような世代で最長距離鈍行といえば、30年以上も前に山陰本線門司~福知山間595.1kmで運行されていた客車鈍行(列車番号824)を思い出すので、300km台の距離はやや物足りなさを感じる。それでも滝川駅を9時36分に出て、釧路駅に18時03分に着くダイヤは1日の活動時間の大半を消費するだけに、なかなかの長丁場ぶりだと思う。札幌~釧路間を特急『スーパーおおぞら』で往復すれば、釧路での滞在時間は最大8時間程度確保できるのに、その分をたっぷり移動だけに費やす2429Dののんびりさは半端ではない。

実はこの2429D、歴代の最長距離鈍行のなかで唯一、同一都道府県だけを走る最長距離鈍行でもある。現行371Mの場合は、岡山・広島・山口の3県を股にかけるが、2429Dは北海道だけ。いかに北海道が桁外れに広いかを物語っているとも言えるが、北海道の行政区分で言えば、空知・上川・十勝・釧路の各振興局管内を股にかけている。なかでも、十勝振興局管内と釧路振興局管内は夏場の気候が180度違うし、冬場は積雪の差も激しいので、2429Dに乗れば、同じ北海道でも一緒くたにできないことがわかるはずだ。

その2429Dに、改正を前にした3月7日に乗車してみた。始発の滝川駅1番ホームにやってきたのはキハ40形気動車1両だけ。昔懐かしい国鉄時代の朱色塗装(首都圏色)に塗り替えられた車両もあるが、この日は何の変哲もない、白地に緑と青の帯を入れたJR北海道色。1両ということと、滝川~富良野間は比較的利用者が多いことで、車内は1ボックスに3~4人が埋まるほどの混雑ぶり。最長距離鈍行のスタートとしてはなかなか賑々しい。

富良野駅で大半の乗客が下車した後は、後部に1両増結する。乗客が多い滝川~富良野間が1両で、空いてくる富良野以遠で増結するのは解せないが、これも運用の都合なのだろう。連結作業を撮るついでに増結車へ移動する。

富良野駅を発車すると、右手彼方に芦別岳の山容を見渡せるが、あいにくの曇天模様で拝めず。金山駅を過ぎると、左手に金山ダムの貯水湖(かなやま湖)が凍結した姿を見せ、まだまだ終わらない冬を感じさせてくれた。狩勝峠を目前に控えた落合駅では、帯広駅からの滝川行き普通列車(2432D)と交換するため、なんと20分以上も停車。2429Dから聞こえてくる「ワンマン列車です」の自動アナウンスだけが虚しく響くだけの静かな山間の小駅だ。

狩勝峠を越えると列車は新得駅に滑り込む。停車時間は12分なので、ホームに降りて名物の「新得そば」をすすることにしたが、お店はホーム側と待合室側の両方で対応しているため、なかなかオーダーできず。発車時間が気になってきたので、プラス30円で容器入りの天ぷらそばを注文した。車内で食べる駅そばは久しぶりだが、近年では大都市を中心に普通列車内での飲食が嫌われる傾向にあるので、これも2429Dならではの特権かもしれない。

新得駅から先は石勝線を経由する特急列車や貨物列車が合流するため、その関係の待避や交換がやたらに多くなる。新得~帯広間の営業距離はわずか43.8kmなのに、1時間10分もかかっているのはそのせいだ。なにせ根室本線は全線が単線で、どう頑張っても普通列車は道を空けることを避けられない。この点が全線複線の山陽本線を走る371Mとの大きな違いで、2429Dが日本一運行時間の長い普通列車である所以だろう。

富良野からのんびりムードを維持してきた車内も、十勝清水駅を過ぎると高校生の歓声で賑わい始める。ここで富良野駅から増結をした意味が出てくるわけだ。後ろのシートに座った女子高生グループが笑い転げると、その拍子でシートの背もたれがバタバタと震えるのが、古びたキハ40形らしい。

芽室駅で高校生の大半が下車すると、また同じくらいの高校生が乗車してきて、帯広駅まではなにかと落ち着かない車内になってしまった。なぜか、高校生たちはよそ者がいるボックスには空席があっても決して座らない。警戒しているのか、気を遣っているのか、はたまた人見知りなのか…。学校から指導されているのかもしれないが、この傾向は国鉄時代からほとんど変わっていないから不思議だ。

帯広駅では札幌11時51分発の特急『スーパーおおぞら5号』に道を譲るため、22分停車する。2429Dに乗車するために札幌駅を出たのは6時37分だったから、5時間以上も遅く出た列車にここで抜かれるわけだ。その間、改札口を出て帯広名物の豚丼を調達。紐を引くと温まるタイプのものだが、「プシュ~」という派手な音を出して湯気が立つので、車内ではなかなか恥ずかしくて食べる気がせず、とうとう釧路で泊まるホテルまで持ち帰ってしまった。

帯広駅を出ても1ボックスに2人程度の乗客はあったが、幕別駅を過ぎたあたりから空席が目立ち始めた。池田駅を過ぎると、富良野駅を出た時点と同じくらいののんびりムードに戻ってしまった。

ここから先は、十勝と釧路の分水嶺を越えるため、狩勝峠に次ぐ難所となっている。交換待ちは相変わらず多く、常豊(つねとよ)信号場では赤い色が目立つDF200形ディーゼル機関車けん引の貨物列車と交換。厚内駅に近づくと右手に太平洋が姿を現し、釧路国に入ったことを実感する。十勝国は雲ひとつない晴天だったのに、釧路国は霧に包まれたどんより模様ということも多いので、池田から先の「カルチャーショック」はかなり大きい。

直別、尺別、音別と「別」のつく北海道らしい駅に続けて停車し、白糠駅を過ぎるといよいよ2429Dのゴールも近い。平日なら釧路に近い大楽毛(おたのしけ)駅から再び高校生が大挙して乗り込んでくるが、土曜日だったので、釧路中心部へ戻る地元客が数人乗り込んだだけ。結局、終着・釧路に降り立ったのは、10数人程度で、そのうちの数人は「乗り鉄」だった。「青春18きっぷ」の発売期間中なので、ほぼ連日、2429Dの全区間走破組が乗り込んでいるはずだ。改正後、晴れて最長距離の冠を戴けば、さらに「乗り鉄」たちの注目を浴びることだろう。

ちなみに、上り列車にも釧路から滝川まで通しの列車が存在する。釧路5時42分発の普通列車2522Dで、こちちは帯広駅から先が快速『狩勝』となり、列車番号も3430Dに変わる。快速区間の停車駅は、かつての急行列車を彷彿とさせるほど少ないので、2429Dのペア列車としてはピンと来ないだろう。

《佐藤正樹(キハユニ工房)》

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