【川崎大輔の流通大陸】インドネシアの中古車ファイナンス会社、統合への潮流

エマージング・マーケット 東南アジア
インドネシア自動車ローン市場
インドネシア自動車ローン市場 全 6 枚 拡大写真

拡大するインドネシアの自動車ローン市場

アセアン10か国の中でも名目GDPが最も多く、中国、インド、米国に次いで世界第4位の人口、2億4000万人の巨大市場であるインドネシア。若年層の人口が多く、人口ボーナス期(15歳~64歳の生産年齢人口が多い状態)が2030年まで続くとみられ、豊富な労働力を背景に経済成長が期待されている。

旺盛な内需に引っ張られる形で2014年の新車販売台数は、120万8019台であった。アセアンで最大の新車販売台数を誇っていたタイを抜き、存在感が大きくなっている。このような国内における市場成長に伴い自動車ローン市場も拡大をしている。

◆長期的な視野で考える必要がある自動車ローン市場の動向

インドネシア経済は踊り場である。自動車ローン市場の規模は拡大をしているが、今後の動向は長期的な視野で考える必要がある。日本からインドネシアをみれば経済の成長性がクローズアップされている。しかし、足元でのポジティブな意見が少ない。インドネシアにおける直近の課題として(1)ルピア安、(2)金利高、(3)コスト高(賃金)、による経済停滞の可能性があげられるためだ。

インドネシアの主な輸出品である石油・天然ガス、石炭などの資源価格の下落、更に付加価値製品の輸出が伸び悩む一方で、成長する内需を背景に、輸入増加で経常赤字体質が継続。またアメリカの量的緩和策の縮小を受けリーマンショック直後の通貨安水準になっている。更に、インフレ抑制に向けた数回にわたる利上げが続き、経済の踊り場にきている。

筆者の現地における金融関係各社へのヒアリングによれば、低金利競争を中心とした市場激化、信用情報機関の未発達、OJK(金融庁)による外資金融への規制強化の問題が顕在化してきているようだ。このような外部要因を鑑みれば、近いうちに自動車ローンのプレーヤーは徐々に統合されていくのではないだろうか。

◆自動車ローンのプレーヤー

自動車ローンのプレーヤーは、1.キャプティブ系、2.地場銀行系、3.独立系ノンバンクがある。

キャプティブ系には、日系キャプティブ(メーカー出資の正式キャプティブ)と地場キャプティブ(メーカーのパートナー資本の準キャプティブ)がある。地場キャプティブとはトヨタはアストラ、ホンダはプロスペクト、日産はインドモビルなどで、これら地場のコングロマリット資本で独自のファイナンス会社を設立し準キャプティブとなっている。この地場キャプティブの存在がインドネシアファイナンス市場の1つの大きな特徴となっており新車ローンのみならず、優良な中古車ローンの顧客も積極的に手掛けている。

キャプティブ系はメーカーと同じ動きをして、最もよい層の顧客をディーラーから引き継いでいる。優良顧客がくるため金利で極端な勝負はしておらず、市場の中で圧倒的に強い状況にある。

地場銀行系は親会社の銀行サポートを背景に低い預金調達コストを獲得。一般的にインドネシアでは、銀行系はファイナンス専門の別子会社を設立している。顧客に対して低利キャンペーンや通常より期間の長いプランを提供し新車に特化している。市場における金利の低下及びローン期間の長期化を主導しながら、キャプティブ系の顧客層を奪いにきている。

独立系ノンバンクは、日系商社系と地場独立系にわかれる。インドネシアにおいては日系商社系が比較的大きな存在感を持っており、日本の大手商社が何かしらの展開をしているのもインドネシア自動車ローン市場の特徴である。独立ノンバンク系は、独自のノウハウ、そして地場のネットワークを活用して、キャプティブ系、地場銀行系などの大手が限定的にしか参入していない中古車ローンを中心としている。

新車ローンはキャプティブ系、地場銀行系で牛耳られているが、収益性が低いため新車ローンから中古車ローンへ対象変更を検討しているところも出てきているようだ。

◆国の規制によって独立系は統合への動きが加速

2014年11月末にノンバンク系のマルチファイナンス会社に向けて規制(28、29号)が出され、10億円の最低資本金が義務付けられた。マルチファイナンス会社とは、1.Customer Finance、2.Leasing、3.Factoring、4.Credit Card、の4つのコアビジネスで分類されている。自動車ローンが含まれているCustomer Financeは全体のおよそ65%を占めている(図表1参照)。

インドネシアにはおよそ200社のマルチファイナンス会社が存在する。そのうちのおよそ60社で90%の市場が占められている。残りは数多くの小規模マルチファイナンス会社が存在している状況で、まだ条件を満たしていないマルチファイナンス会社も多数あり、これらの多くは独立系ノンバンクである。既存のファイナンス会社は最終的に2019年までに条件を満たさなくてはならない。独立系ノンバンクが生き残りを図るのであれば、パートナーを探し統合するといった動きがここ3年以内に加速する可能性が高い。旺盛な内需に引率されて中古車ローン市場の拡大が期待される。

◆統合後の社内体制再構築がポイント

ローンの審査はいまだに1人1人の家庭を訪問し人海戦術で返済能力を確認したり、ローンを回収する、とういうようなことが行われている。特に中古車の場合は、厳格な与信管理と中古車査定の技術・経験の両方がなければ不良債権が発生しやすい。需要の拡大に対応できる迅速な審査、厳格な与信管理、効果的な債権回収などをしっかり行える体制を整えられるかが、統合後の大きなポイントとなってくるだろう。

<川崎大輔 プロフィール>
大学卒業後、香港の会社に就職しアセアン(香港、タイ、マレーシア、シンガポール)に駐在。その後、大手中古車販売会社の海外事業部でインド、タイの自動車事業立ち上げを担当。現在、プレミアファイナンシャルサービス(株)にてアセアン事業展開推進中。日系企業と海外との架け橋をつくるべく海外における中古・金融・修理などアフター中心の流通調査を行う。経済学修士、MBA、京都大学大学院経済研究科特別研究員。

《川崎 大輔》

【注目の記事】[PR]

ピックアップ

アクセスランキング

  1. 「ミニGSX-R」をスズキがサプライズ発表!? 鈴鹿8耐マシン以上に「サステナブルかもしれない」理由とは
  2. 車検NGの落とし穴!? シート交換で絶対に知っておくべき新ルール~カスタムHOW TO~
  3. “プチカスタム”でサマードライブの楽しさをブーストアップ![特選カーアクセサリー名鑑]
  4. メルセデスベンツ車だけに特化!走りを静かにする「調音施工」認定店が埼玉県三郷市にオープン
  5. 次期BMW『X5』の車内を激写! メーターパネル廃止、全く新しいパノラミックiDriveディスプレイを搭載
  6. トヨタの大型ピックアップトラックの逆輸入に期待? 新型発表に日本のファンも熱視線
  7. 新型ドゥカティ『パニガーレV2S』日本上陸に「スイングアームアームすげー」「日本じゃ全力は使えない」など驚きの声
  8. 約10万円で200km以上走るEVバイク登場に「現実的な選択肢」、ベトナムから日本上陸に期待の声
  9. ジープの小型SUV『アベンジャー』、発売2年で20万台受注…電動車比率は66%に
  10. 21車種・64万台超、トヨタ自動車の大規模リコールに注目集まる…7月掲載のリコール記事ランキング
ランキングをもっと見る

ブックマークランキング

  1. 「AIディファインド」の衝撃、日本の自動車産業は新たな波に飲み込まれるのか…アクセンチュア シニア・マネジャー 藤本雄一郎氏[インタビュー]
  2. ステランティスの水素事業撤退、シンビオに深刻な影響…フォルヴィアとミシュランが懸念表明
  3. EV充電インフラ-停滞する世界と“異常値”を示す日本…富士経済 山田賢司氏[インタビュー]
  4. SUBARUの次世代アイサイト、画像認識技術と最新AI技術融合へ…開発にHPEサーバー導入
  5. ブレンボが新ブレーキ開発、粒子状物質を削減…寿命も最大2倍に
ランキングをもっと見る