【人とくるまのテクノロジー展15】自動運転中の事故、責任の所在は? ADAS時代に向けた法整備の現状と課題

自動車 テクノロジー 安全
明治大学法科大学院 教授 中山幸二氏「自動運転に向けた法的課題と法的責任」
明治大学法科大学院 教授 中山幸二氏「自動運転に向けた法的課題と法的責任」 全 8 枚 拡大写真

「人とくるまのテクノロジー展2015」に合わせて開催されたフォーラム「カー・ロボティクス―自動運転の社会導入に向けた最新動向と課題」において、明治大学法科大学院教授中山幸二氏が「自動運転に向けた法的課題と法的責任」と題し講演を行った。

国際競争視野にいれ、戦略的な法整備を

冒頭で中山氏は、自動運転をめぐる技術開発と関連法規の整備についてのこれまでの対応を、「技術開発が進んで、ある程度の普及と安定が生じたのちに関連する法規が整備されるのがこれまでの歴史であった。ITS関連の技術開発の加速化に対しても、関連法規の整備は非常に遅れているという認識が一般的なイメージとしてあるものの、日本も現在国際競争を視野に入れて、戦略的に国際基準や法整備にかかわっていく姿勢をもっている」と述べた。

続いて中山氏は議論の前提となる、現在の自動車の運転と交通にかかる現行法の構造を説明する。

道路網の整備を図るため、道路に関して路線の指定及び認定、管理、構造、保全、費用の負担区分等に関する事項を定める道路法は、今後運転支援システムや路車間通信に関わっていう法規だという。道路交通法では同法70条に安全運転義務が定められており、ITSによる運転支援および自動運転の規律に大きくかかわってくる。また道路運送車両の保安基準について定める道路運送車両法においては、運転支援機能に関わる操縦装置や制御装置の保安基準が定められているため関連する(同法41条3号、4号)。

◆運転免許制度も変わる?自動運転時代は道路交通法のあり方がカギに

では、運転支援と自動運転システムの技術開発と実用化にともなって、法規制は今後どのように進めるべきなのか。

中山氏は道路交通に関する法規制について「車線、信号機の機能変化が道路法を、運転者責任からシステム責任へ転換することについては道路交通法を、標準化、保安基準の高度化は道路運送車両法を変容させることにかかわる」と解説したうえで、運転支援・自動運転の発展過程において最も大きく変革を求められるのは道路交通法であると述べる。

「今後各種の走行支援システムにより認知・判断・操縦にかかる運転者の責任領域が大きく変容し、機械ないしシステムが代替する範囲が拡大する。完全自動化となれば、運転者責任からシステム責任へと移行せざるを得ないから、現在の運転免許制度はまったく別の制度に様変わりせざるをえない」(中山氏)。

◆運転支援装置のトラブルをめぐる紛争処理上の問題点

また運転支援装置にかかわるトラブルをめぐる、ADR(裁判外紛争解決手続き:身の回りで起こる様々な法的トラブルについて、裁判を起こすのではなく、当事者以外の第三者に関わってもらいながら解決を図ること)上の問題点は、以下の3つに整理して解説した。

ひとつ目は、「誤作動の証明」。誤作動により「怖い思いをした」「再発したらと思うと怖くて乗れない」「実際に損害が発生した」等の申し出につき調査をした場合に、故障個所が見つからず「そのような事象が発生したとは思えない」等の結果が出る。この時、誤作動が生じたのか、生じなかったのかについての証明が困難である。

ふたつ目は「誤作動の原因究明」。具体的に事故が生じ、損害が発生した場合等、誤作動の発生がほぼ確実な場合、消費者はまず、原因究明を求めてくる。これをどのような体制で、どのように対応するか。現状では、消費者への説得のプロセスが準備されていない。

そして最後のみっつ目は「正常に作動して損害が発生した場合の賠償責任」。正常に機能したにもかかわらず損害が生じた場合の賠償責任についてはどう考えればよいか。ソフトウェアの欠陥を争うケースにどのように対応するか。現状はPL法の「欠陥」は動産に限り、過失の立証責任は被害者であるが、ソフトウェアを含めてPL法の改正が行われたならば立証責任が転換されることもありうる。

「従来法規に想定されていなかった電装、PC等のトラブルへいかに対応していくかが今後重要な課題だ」と中山氏は指摘する。

また、現在“自動運転”に対する期待が急激に高まり、新たな枠組みと、自動運転により影響を受ける関連法規を調整することの必要性が指摘されている、との認識を示す中山氏。これについて「自動運転に必要とされる装置類は既に社会に存在し、今後はこれら装置類に関する苦情、紛争が増加、高度化することが予想される」とコメントした。

《北原 梨津子》

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