【土井正己のMove the World】初代プリウスから“1/3化”への挑戦、アクアで実を結んだ連続イノベーションの成果

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トヨタ アクア(参考画像)
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8月の車名別新車販売ランキングを見ると、またもや『アクア』が1位となっている。発売4年目にして、5か月連続の1位だ。発売当時から、「このクルマは売れる」と思っていたが、これほどロングセラーになるとは開発者ですら想像していなかったのではないだろうか。私は、このクルマこそトヨタ技術部門の凄さを物語っていると思う。そのキーワードは、「連続イノベーション」だ。

トヨタは、1997年の秋に初代『プリウス』を発売した。ただ、価格は高く、購入者も政府の補助金が無ければ、なかなか手の出ない価格であった。また、ハイブリッド・コンポーネントの重量やのスペースの関係から、Bセグメント(『ヴィッツ』クラス)のクルマに乗せることはできず、かなり「特別感のある代物」となった。

◆初代プリウスの発売の日から「3分の1化」に挑戦

トヨタのイノベーションの考え方は、「どんな素晴らしいイノベーションも普及しなければ意味がない」というものである。「特別感のある代物」では、本来のトヨタの考え方には合わない。開発陣の努力は、初代プリウスを発売したその瞬間から、第2ステージが始まったといえる。これが、先ほど述べた「連続イノベーション」ということだ。トヨタが目指したのは、ハイブリッド・コンポーネントについて重量3分の1、容積3分の1、コスト3分の1という「普及」に向けたチャレンジだ。この「3分の1化」で、Bセグメントや価格競争の激しい『カローラ』クラスにも導入が可能と考えた。

2003年に発売された第2世代のプリウスでは、「3分の1」にはまだ届かなかったが、かなり近づき、販売は急激に伸びた。そして、2011年に発売されたアクアが「3分の1化」の完成版といってもいい。ただ重量、容積、コストを「3分の1」としただけでなく、出力が2倍近くなっていることから考えると、6倍の性能向上ということができる。初代プリウスの発売から14年の歳月を必要としたが、6倍の性能向上は大きな数字だ。

もちろん、初代プリウスも素晴らしいイノベーションだ。従来の自動車の燃費を一挙に2倍とし、それを量産化できたという意味では、自動車の歴史を変えたと言える。しかし、もし、トヨタがあそこで満足し、それ以降の「連続イノベーション」を行っていなかったら、ここまでのメインストリームの車種にはならなかったであろう。

◆なぜトヨタは「連続イノベーション」にこだわるのか

では、なぜトヨタは「連続イノベーション」を行うのか。その答えは、トヨタ創業の精神である「豊田綱領」にある。豊田綱領は、次の5項目から成る。

・ 一、上下一致、至誠業務に服し、産業報国の実を拳ぐべし
・ 一、研究と創造に心を致し、常に時流に先んずべし
・ 一、華美を戒め、質実剛健たるべし
・ 一、温情友愛の精神を発揮し、家庭的美風を作興すべし
・ 一、神仏を尊崇し、報恩感謝の生活を為すべし

これを見て分かるように、一つ目と二つ目の項目で、「研究開発によりイノベーションを起こし、社会に貢献すべし」と謳っている。すなわち、「イノベーションは普及し、世界に貢献できなければ意味がない」ということである。多くの会社は、こういう社訓というのは、長い歴史の中で形骸化するものであるが、トヨタは形骸化させていない。従業員の大半が、真剣にその意味を考えながら、仕事をしている。「どんな素晴らしい技術も普及しなければ意味がない」という考え方は、トヨタの技術部門で普通に語られている。最も、ビジネス的にいっても、イノベーションを普及させることで、初期コストが回収され、また、世界で技術のデフォルトを握ることにもなる。結果として、ビジネスの大きな利点になることは明らかである。トヨタの経営の強さは、ここにあると言ってもいいのではないだろうか。

まもなく、「次期プリウス」が発売されるという。1997年に初代プリウスが発売されて、すでに18年を迎えるが、トヨタはその間「連続イノベーション」を繰り返してきた。今度のプリウスも、その期待に応えてくれるものになると確信している。

<土井正己 プロフィール>
グローバル・コミュニケーションを専門とする国際コンサル ティング・ファームである「クレアブ」副社長。山形大学 特任教授。2013年末まで、トヨタ自動車に31年間勤務。主に広報分野、グローバル・マーケティング(宣伝)分野で活躍。2000年から2004年まで チェコのプラハに駐在。帰国後、グローバル・コミュニケーション室長、広報部担当部長を歴任。2014年より、「クレアブ」で、官公庁や企業のコンサルタント業務に従事

《土井 正己》

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