【新連載:今井武のテレマ革命】どんな時でも「伝わる」テレマティクスが必要だ

自動車 テクノロジー カーナビ/カーオーディオ新製品
東日本大震災
東日本大震災 全 4 枚 拡大写真

はじめに

今月より『テレマ革命』というタイトルでコラムを担当させていただくことになった。プロフィールにも書いたが、私はホンダで長年双方向通信型ナビゲーション(インターナビ)や情報系分野の企画開発・事業化を担当し、テレマティクスの道で生きてきた。2015年2月にホンダを卒業し、その後、株式会社アマネク・テレマティクスデザインという会社を起業した。

このアマネク・テレマティクスデザインは「安全・安心で楽しく快適なモビリティ社会の実現」を目指した、日本初のモビリティ専用のデジタルラジオ放送局である。本コラムでは、おやじ起業家が興したデジタルラジオ事業の苦楽と挑戦の日々(現在進行中)と、それに織り交ぜてテレマティクス業界の動向に関して綴っていく。

◆創業の想い…「3.11その時道は圏外だった」

東日本大震災が発生してもうすぐ5年が経とうとしている。まず今回は最初に、現在なぜ私が起業するに至ったのか、そのきっかけである東日本大震災発生時の「ホンダ インターナビ」での気づきについてお話させていただきたい。

2011年3月11日、執務室にいた私たちは揺れが治まった直後、インターナビのサービスデータを扱うサーバーが問題なく稼働しているかどうかを確認した。すると、15時5分、インターナビユーザーのカーナビに向けて、19分後の15時24分には宮城県に大津波が到着する旨の津波警報を配信していることを確認した。サーバーは正常に稼動していたのだ。

しかし、後日、被災地域のインターナビユーザーにアンケートをとってみると、その津波警報は全く伝わっていなかったことが判明した。なぜ、配信されているのに伝わっていなかったのか。その理由を紐解くと、マグニチュード9.0の揺れが被災地を襲った時、携帯通信網では輻輳(ふくそう)が発生し、携帯基地局塔なども揺れでダメージを受けていたため、津波警報を携帯通信網経由で届けてもドライバーに最終的に伝わっていなかったことが判った。

また、当時、石巻を走行していた車両のプローブ情報を検証すると、避難するクルマがつくった大渋滞に巻き込まれるうちに大津波が大渋滞を襲ってしまった事実や、津波の方に向かって走ってしまった車両が存在したことが明らかになった。もしあの時、津波警報がすべてのクルマに伝わっていたら救えたかもしれない命が、その車両の軌跡の中に確かに存在していた。

◆情報は「伝える」のではなく「伝わる」ことが大切

この経験を「たられば」で終わらせてはいけないと感じた。

こうした状況下で何をすべきか。そこで放送の可能性に気付いた。放送は通信と違って輻輳が無いため、放送波が受信できるエリアではあらゆる状況においても情報伝達能力はより確実だ。また1000万台もの受信機に、瞬時かつ一斉に情報を伝えることができる。多くのドライバーが利用するラジオを活用すれば、運転中も音で情報を配信できるのだ。そしてラジオはこれからアナログからデジタルになっていく。これから自分が取り組むべきは、世の中とクルマをつなぐ新しいデジタルラジオの世界ではないか。全国各地を走るドライバーに向けた音声サービスを提供したい、そう強く思った。

「クルマをもっと安全に。もっと快適に。もっと楽しく。」そんな理想を目指し、私はこれからの人生をこのやり残した仕事に捧げようと、アマネク・テレマティクスデザインを創設した。

◆V-Lowマルチメディア放送とは

それでは、本題に入る。ドライバー向け音声サービスを実現するにあたり、キーワードであるV-Lowマルチメディア放送についてご紹介したい。

2011年7月、アナログテレビ放送(1~3チャンネル)が終了した。V-Lowマルチメディア放送はこの周波帯の跡地を使い、クルマやスマートフォンなどの移動体に向けて、音声や楽曲はもとより、様々な情報やデータを送る事ができる新しいメディアだ。これならば、例えば地上波最高音質の心地よいドライブミュージックを聴きながらカーナビの地図をアップデートしたり、コンサートチケットやガソリンスタンドなどの店舗クーポンを車載機に送ることも可能となる。

少々専門的になるが、V-Lowマルチメディア放送で使用する周波数は99MHz~108MHzで「移動受信用地上基幹放送」にあたる。欧米ではFM帯域に該当し、極めてクルマと親和性が高い。そして通信サービスで行っているIPパケットを放送で送信できる「IPDA」(IPデータキャスト)の形式もとっている。

本放送の特徴をまとめると、以下の通りである。
・走行位置(GPS)と連動した様々なコンテンツやデータが提供できる
・種別化されたコンテンツを、その情報を必要とするエリアの全端末に一斉に配信できる
・受信端末が増加しても、輻輳・タイムラグ無くプッシュ送信できる
・災害発生時は、端末がOFFでも強制起動信号によって端末の自動起動ができる
・常時連続放送が可能
・端末がインターネット接続されていれば“放送→インターネット→放送”の循環型サービスが可能

これは、放送×通信×GPS×ビッグデータを融合させた革新的なメディアなのだ。

◆福岡・東京・大阪で今年3月サービス開始

V-Lowマルチメディア放送のもう一つの特徴は、全国を7つのブロック(北海道・東北、関東甲信越、東海北陸、近畿、中国・四国、九州・沖縄)に分けていることだ。ブロックが分かれているため、地域に密着した情報を配信することができる。そのため、今後、地域の活性化やより「安心安全な社会の実現」に貢献する役割が期待されている。いよいよ今年の3月から、福岡・東京・大阪でサービスを開始する。

今回はここまで、創業のきっかけとV-Lowマルチメディア放送の特徴をお伝えした。本メディアの可能性を読者の皆さまに少しでも感じていただけたら嬉しい。次回は、この新しいメディアを活用した“日本初”のモビリティ向け専用デジタルラジオ放送局「Amanekチャンネル」や、モビリティのIoTサービスなどについて書いていく。

<今井 武プロフィール>
株式会社アマネク・テレマティクスデザイン Founder/代表取締役社長。自動車技術会フェロー。2015年2月までホンダに勤める。ホンダでは、ナビゲーション・テレマティクス分野の企画開発・事業化に従事。2002年ホンダ双方向通信型テレマティクス「インターナビ」を立ち上げる。2012年役員待遇参事・グローバルテレマティクス部部長。
2011年、第61回自動車技術会開発技術賞受賞。東日本大震災でのインターナビによる取り組み『通行実績情報マップ』でグッドデザイン大賞受賞。2015年「第6回国際自動車通信技術展」で特別功労賞受賞。

《今井武》

【注目の記事】[PR]

ピックアップ

教えて!はじめてEV

アクセスランキング

  1. 最後のフォードエンジン搭載ケータハム、「セブン 310アンコール」発表
  2. 「やっと日本仕様が見れるのか」新世代ワーゲンバス『ID. Buzz』ついに上陸! 気になるのはサイズ?価格?
  3. 船上で水素を製造できる「エナジー・オブザーバー」が9年間の航海へ
  4. 「三菱っぽくないけどカッコいい」ルノーの兄弟車となる『エクリプス クロス』次期型デザインに反響
  5. 宮崎「シーガイア」にサーキットがオープン! セグウェイの「電動ゴーカート」を日本初導入
ランキングをもっと見る

ブックマークランキング

  1. 米国EV市場の課題と消費者意識、充電インフラが最大の懸念…J.D.パワー調査
  2. 低速の自動運転遠隔サポートシステム、日本主導で国際規格が世界初制定
  3. 「やっと日本仕様が見れるのか」新世代ワーゲンバス『ID. Buzz』ついに上陸! 気になるのはサイズ?価格?
  4. BYD、認定中古車にも「10年30万km」バッテリーSoH保証適用
  5. 「あれはなんだ?」BYDが“軽EV”を作る気になった会長の一言
ランキングをもっと見る