60年近い歴史を持つホンダCB。その伝統を受け継ぐ『CB1100EX』は、トラディショナルなオートバイらしいシルエットをそのままに新型へとまた進化している。
実車を目の当たりにして感じるのは、高級感が増したこと。彫りの深い曲面基調の燃料タンクは張り出しがある形状となり、底板を縁取るシーム溶接のフランジをなくした手間のかかる製法を用いた。塗装もより美しいし、クロームを施した「HONDA」の立体エンブレムも誇らしげだ。
手仕上げによるヘアライン加工が施されたアルミ製のサイドカバーもお見事。樹脂やクロームメッキ処理にはない独特な渋い輝きは、高いクオリティを隅々まで徹底追求した証といえる。
しかしなんと言っても、圧倒的な存在感を誇るのは剥き出しになった空冷直4エンジンで、DOHCヘッドといい美しく刻まれた冷却フィンといい、これを搭載しているだけで嬉しくなる。
低速域から力強いトルクを発揮し、新たに追加された『CB1100RS』より落ち着いて回る味付け。RSより上半身が起きたライディングポジションということもあって、低い速度域での加速感はEXの方が強く感じた。
そして、その排気音がたまらない。全長を70mm短縮し、内部構造を見直した新設計マフラーは直4らしい音色を奏で、必要以上に高回転域まで引っ張り上げたくなる。「4発っていいな」と、見た目にも音にもウットリしてしまう。
フロントフォークは減衰力を発生させるバルブを2つ持つショーワ製SDBV(デュアルベンディングバルブ)で、RSよりソフトなセッティングになっているリアショックも相まって乗り心地がいい。
ソフトといっても、高負荷がかかったときにはしっかり踏ん張りの効くコシのあるサスペンションで、ドッシリと乗るEXのキャラクターによくマッチしている。
前後18インチの足まわりは落ち着いていて安心感を感じるが、決して懐古的なだけではなく、スポーティな走りにも対応する次元の高いもの。ホンダの空冷フラッグシップに死角は見当たらない。
■5つ星評価
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
コンフォート:★★★★
足着き:★★★★
オススメ度:★★★★★
青木タカオ|モーターサイクルジャーナリスト
バイク専門誌編集部員を経て、二輪ジャーナリストに転身。国内外のバイクカルチャーに精通しており、取材経験はアメリカやヨーロッパはもちろん、アフリカや東南アジアにまで及ぶ。自らのMXレース活動や豊富な海外ツーリングで得たノウハウをもとに、独自の視点でオートバイを解説。現在、多数のバイク専門誌、一般総合誌、WEBメディアで執筆中。バイク関連著書もある。