【マツダ デミオ 3400km試乗 前編】「長距離ドライブを可能にする究極の人馬一体」は本当か…井元康一郎

試乗記 国産車
マツダ デミオで長距離性能を検証。写真は周防灘を航行する貨物船をバックに。
マツダ デミオで長距離性能を検証。写真は周防灘を航行する貨物船をバックに。 全 19 枚 拡大写真

昨年秋にマイナーチェンジを受け、パワートレイン、シャシーチューニング、装備など多岐にわたって変更を受けたマツダのBセグメントサブコンパクト『デミオ』で東京~鹿児島間を3400kmあまりツーリングしてみたのでリポートをお届けする。

試乗車は1.5リットルターボディーゼルを搭載する「XDツーリング」の6速MT仕様で、アクティブハイビームやレーダークルーズコントロールなどのオプションデバイスが装備されていた。参考車両価格は約219万円。

試乗ルートは東京~鹿児島の往復および九州域内の周遊で、総走行距離は3441km。おおまかな道路比率は市街路2、郊外路5、高速道および有料道路2、山岳路1。路面コンディションはドライからヘビーウェットまでさまざま。往復区間は1名乗車、九州域内では1~3名乗車。エアコンAUTO。

グランドツアラーとしての資質はピカイチ

ツーリングを通じたトータルのインプレッションから。少人数乗車でロングドライブをこなすような使い方をする場合、デミオは素晴らしいクルマだった。路面状況によらず操縦安定性は良好で、変な緊張を覚えることがない。疲労蓄積度も小さく、連続運転時間が2時間、3時間と積み重なっても身体の違和感は少ない。対向車や先行車をよけてハイビーム照射を行うインテリジェント配光機能付きアダプティブヘッドランプは夜のドライブをとても安心、安全なものにしてくれた。最高出力105psのターボディーゼルは、6速MTが燃費重視のギア比になっているためスポーツ性は感じないもののパフォーマンスは十分。ツーリング燃費は筆者が過去にロングドライブを行ったクルマのなかで最高値を示した。

マツダはデミオについて「ロングレンジドライブを可能にする究極の人馬一体」を標榜していたが、その文言はマイナーチェンジによってある程度本物になったと感じられた。サブコンパクトクラスでありながら、グランドツアラーとしての資質はピカイチで、上位クラスを食うと思われるほどである。

一方、小さなクルマを大きく使うという日本的なファミリーカーユースという見地に立つと、デミオはスペース、乗り心地等、いろいろな面でビハインドを負っている。車内のスペースが狭いうえ、リアドアの実効開口面積が小さく、かつルーフの切り欠き線が低いため、高齢者が後席に乗り込むのはいささか難儀だった。また、アンジュレーション(路面のうねり)が大きめな道路で揺すられ感が強く出るなど、快適性も凡庸であった。

一般的に、日本のメーカーはBセグメントモデルを作る際、室内をできるだけ広くすることを開発の最重要項目とするのだが、そのなかでマツダはデミオを、後席は時々人を乗せる程度でクルマの持っているリソースの多くを走りに振り向けるという欧州車のBセグメント的なキャラクターに仕立てた。その割り切りゆえ、ライフスタイルに合うカスタマーにとっては愛着もひとしおのクルマになるであろうし、合わないカスタマーにとっては最初から選択肢に入らないという感があった。

フィエスタやポロに負けないロードホールディング性

では、個別の項目について見ていこう。まずはロングツーリング耐性を左右する最重要ファクターであるシャシー性能およびチューニングはデミオのハイライトと言っていい部分だった。出色だったのは、きついコーナーが連続する山岳路や高速道路の山岳区間など、強い遠心力がかかるシーンでの安定性の高さだった。

デミオのシャシーは現行モデルになるときに一新されたもので、もともとポテンシャルは高かったのだが、マイナーチェンジで動きがとてもナチュラルになった。新たに「G-ベクタリング コントロール」という名の操縦安定性を向上させるデバイスが装備されたが、その有無以前に、前後サスペンションのロールバランスのファインチューンを徹底させた効果のほうが大きいように思えた。

直角コーナーや鋭角コーナーのようなところでも前輪のグリップが抜けてダダダッとアンダーステアに陥ったりせず、かといってフロントグリップにリアが負けて不意に滑ったりもせず、とても良い前傾姿勢を保ちつつ“ぐりっ”と曲がる。

絶対性能がタフなことに加えて限界に近い領域でのロバスト性(外乱に対する強さ)も高く、かなり強い遠心力がかかっている状態でもステアリングの切り足し、切り戻しによるコントロールがとてもやりやすかった。その特質がドライ路面だけでなく、滑りやすいウェット路面でも同様に維持されるため、安心感が高く、かつファントゥドライブに感じられた。

ステアリングフィールの方向性は、フォード『フィエスタ』のようにステアリング操作量にロール角がぴったり一致するタイプではなく、フォルクスワーゲン『ポロ』のように四輪がぐねぐねと粘るように路面をホールディングし、インフォメーションはシートやステアリングから伝わるG変化で把握するというタイプだった。山岳路でのロードホールディング感の良さに限って言えば、マイチェン版デミオはその2モデルに負けていない。

過去のロングドライブ経験に照らし合わせてみても、現行の国産Bセグメントモデルでデミオに匹敵する足の良さを持っているのは、地味なことこのうえないのに実力値は無駄に高いホンダ『グレイス』の16インチモデルくらいのもの。ちなみに旧型スズキ『スイフト』がフィエスタ型のチューニングでなかなか良い味を出していたが、新型ではフィールがだいぶ変わった感があった。新型のロングドライブをまだやっていないので、いずれ試してみたいところだ。

次はぜひ低負荷領域のチューンを

正確なハンドリングと柔軟性を兼ね備るというデミオの特性は、ロングツアラーにとっては大変にポジティブに感じられることだろう。ロングドライブをしていると、いろいろな道に出会う。ときには「この道は険しいかもしれないが、走ればかなりのショートカットになるんだがなあ」というような道もある。

足の良くないクルマの場合、そういう道を避けたくなるものだが、デミオの足は幅員が狭かろうが曲がりくねっていようが、舗装されていて通行止めでさえなければ、どんな道だってOKという気分にさせるものだった。

気分の問題だけでなく、そういう道を安全に速く走り抜けるという点でも足の良さは重要だ。速度レンジの低い日本の道路では、高速道路、一般道とも足の良し悪しでパフォーマンスにそう大きな違いは出ない。唯一、大きな差が出るのは山岳路。それも険路になればなるほど差が広がる。対向車やサイクリストに十分に注意を払い、安全に徹して走るとしても、スムーズに走れるクルマとそうでないクルマでは平均車速、所要時間がまるで違ってくる。これは過去、さまざまなクルマでさまざまな道を走ってみて嫌というほど体験したことだ。

東京から鹿児島へ向かう途中、三重と奈良を結ぶ名阪国道が工事で大渋滞していたため、奈良の山深いところを走る狭い地方道を迂回した。鋭角コーナーの回りこみやS字などが延々と続くルートで、路面もウェットだったのだが、そんな道でもデミオは終始、抜群のライントレース性を示した。クルマの挙動に神経を尖らせずにすむことは、そのぶん注意力を他に振り向けられることを意味する。ツーリングにおいてクルマの足が良いことは大事だとあらためて思った次第であった。

デミオでもったいないのは、上記のようにある程度の荷重がかかる領域では素晴らしいフィールを持つのに対して、直進や緩旋回など、シャシーの負荷が小さい領域ではとたんに手応えが失われることだ。その弊害は平時の直進感のゆるさとなって表れた。

前出のフィエスタやポロは、低負荷のときの手応えが素晴らしい。スキーで直進するとき片足に荷重がかかるように、クルマが真っ直ぐに走るのも実はごく緩い旋回の一種である。そこの味付けをモノにできたクルマは、遠くの目標に向かって吸い寄せられるようにすーっと直進するように感じられる。前出のフィエスタの直進感はまさにプレミアムセグメントのごとく、糸を引くように滑らかなものであったし、ポロもまたそれに近いものを持っている。

その味付けを欠いているのがデミオの弱点といえば弱点だろう。高速道路やバイパスを平和にクルーズするとき、またワインディングでもスローペースで走るとき、デミオのドライブはとたんに退屈なものになる。良さを味わうためにはスピードを出さないといけないのだ。

国産車のBセグメントでこの味付けが出来ているモデルはほとんどないので、決定的な短所とは言えないが、マツダはそういう味がわかる顧客に“イン”できるような、先進国ターゲットのクルマづくりでブランド力を高めようとしているのだから、他もできていないからということで済ませるべきではないだろう。

低負荷での動きが研ぎ澄まされれば、デミオは今の何倍もいいクルマに感じられるようになるであろうし、市街地でちょっとテストドライブをするだけでも運転する人に“これはいいクルマだ”と訴えかける力も増す。デミオに限らず、マツダの開発陣には次はぜひ低負荷領域のチューンを頑張っていただきたいところだと思った。

アクセラに次ぐ疲労の少なさ

ロングドライブ耐性で重要なもうひとつの要素、疲労軽減という点については、デミオはきわめてハイレベルであった。筆者は昨年2月にCセグメントの『アクセラ』ターボディーゼル+6MTで3200kmツーリングを行い、そのさいにノンプレミアムとしては世界屈指の疲労の少なさであることに驚いたのだが、デミオはそのアクセラスポーツほどではないにしても、それに近い疲労の少なさであった。

ドライブも終わりに近づいたとき、奈良の天理から浜松まで4時間半ほど連続で走った。長旅の疲労がいい加減蓄積している状態で、出来の良くないクルマだったらあっという間に運転が嫌になってしまうところだが、デミオの場合、そんなコンディションでも運転への集中力を切らさないで済むくらい、ごく普通に長時間運転をこなすことができた。

次に乗り心地や快適性。デミオは疲労蓄積度は極小だが、乗り心地はいささか質感に欠けるものだった。滑らかな路面は問題ないが、アンジュレーションのきつい老朽化路面では、上下方向の揺すられ感が強く出てしまう。段差通過時の突き上げ感も強い。また、舗装が荒れてざらつきが大きいような場所では、ゴロゴロとした雑な振動、騒音がつきまとった。そのストレスはドライバーより同乗者、とりわけリアシートのパセンジャーが強く感じる傾向があった。

マツダが高付加価値を狙うにあたっては、このフィールも改善したいところだ。しっかりとした操縦安定性を確保したままホイールの上下動をいかにスムーズにいなすチューンは、固い、柔らかいといったレベルではなく、実に繊細で難しい分野。コスト制約の厳しいBセグメントでそれをやるのは大変なことだろうが、かつてマツダの親会社であったフォードが2008年デビューのフィエスタでそれをやりおおせていたのだから、マツダもそこはプライドにかけて頑張ってほしい。

乗り心地の改善でユーザー側が手軽に行える対策はタイヤチェンジ。試乗車のタイヤはトーヨーゴムの「PROXES(プロクセス)R39」という新車装着用モデルであった。これをもう少ししなやかな特性のものに変えてみるのも面白いかもしれないと思ったが、調べてみると185/60R16というサイズはあまり一般的でないらしく、これは!と思うようなモデルはなかった。ちょっと悩ましいところである。(後編へ続く)

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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