カタログ燃費が変わる…新しい燃費モード「WLTC」と「JC08」の違いとは

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いち早く新しい燃費測定モード「WLTC」を取り入れたマツダCX-3のガソリン車
いち早く新しい燃費測定モード「WLTC」を取り入れたマツダCX-3のガソリン車 全 3 枚 拡大写真

現在の「JC08モード」に代わる新しい燃費測定モード「WLTC」。マツダは6月2日、小型クロスオーバーSUV『CX-3』に追加されるガソリンエンジン搭載車がそのWLTCモードによる認証を受けたと発表した。WLTCへの正式な切り替えは2018年10月で、マツダはそれを先取りした格好だ。

◆「WLTC」と「JC08」の違いとは

WLTCは燃費・排出ガス測定法の世界共通化を目指して策定された「WLTP」のテストサイクルである。JC08モードは市街地から高速までを1サイクルとしていたため、出てくる燃費値はひとつだった。それに対してWLTCは市街地走行を模した「Low」、郊外路に相当する「Medium」、制限速度の低い高速道路に相当する「High」、世界の一般的な高速道路相当の「Extra High」の4種類のサイクルがある。欧州では4モードすべてを計測するが、日本では最高速度131.3km/hのExtra Highを除く3モードだ。

3モードではあるが、走行パターンはJC08と異なる。最高速度はJC08の81.6km/hから97.4km/hへと引き上げ。停車時間がほぼ半減することとあいまって、モード通算の平均車速は24.4km/hから36.57km/hへと、ほぼ50%高速化される。また、JC08は暖機されていないコールドスタート1回、暖機済みのホットスタート3回の計4サイクルで計測するが、WLTCは100%、コールドスタートだ。

JC08からWLTCへの切り替えにより、公称燃費がより実走行に近づくという解説も散見されるが、実際には審査値はJC08と大きくは変わらない見込みだ。

◆ハイブリッド車、軽自動車のカタログ燃費に影響
WLTCモード表記によりハイブリッド車、軽自動車はカタログ燃費値が悪化する可能性が高い
WLTC導入を進めてきた国土交通省は2015年時点で、JC08モードと同等という研究結果を出している。コールドスタートのみであること、試験車両の重量を決めるプロトコルが厳しくなることが燃費悪化の要因になる一方、平均車速の上昇など燃費に有利となる変化もある。最高速度は引き上げられたが、最大加速Gはほとんど変化なし。エアコンや車載電装品のエネルギー消費分が考慮されないという点も変っていない。

事前研究でさまざまなクルマをJC08、WLTC両サイクルで走らせて比較してみたところ、JC08に対して相応に数値が悪化するのは低速走行が得意なハイブリッドカーや軽自動車くらいのもので、通常のエンジン車は僅差。アイドリングストップが未装備のモデルなどは、停止時間が半減した効果で数値がむしろ向上するものもあったという。

マツダCX-3の例では、FWD(前輪駆動)がJC08モード燃費17km/リットルに対し、WLTCが16km/リットル。AWD(4輪駆動)がそれぞれ16.2km/リットル、15.2km/リットル。両者とも燃費値の差は10%以下で、経産省の「JC08モードと同等」という見解を裏付けるものと言える。

◆よりユーザーに寄り添った燃費表記へ

「これではJC08モード燃費値がアテにならないという問題は解消されないじゃないか」という不満が聞こえてきそうである。が、そうとばかりも言えない。前述のようにJC08モード燃費は市街地から高速道路までを含めたトータルのもの。燃費が低下する都市走行の比重が高ければ、カタログ燃費と大きく乖離するのは当たり前だ。

それに対し、WLTCでは市街地、郊外、高速の3パターン、およびサイクル通算の、計4つの数値が明示される。CX-3・FWDのWLTC燃費値16km/リットルというのはあくまで通算値で、内訳は市街地12.2km/リットル、郊外路16.8km/リットル、高速18km/リットル。これからは自車の走行状況に応じてこれらの数値を目安にすればいいことになる。

6月末時点でWLTC燃費値が発表されたのはこのCX-3のみで、これから事例が増えてくるものと思われるが、クルマの燃費は高速で燃費を伸ばす、市街地の燃費低下の小ささで稼いでいる等々、モデルによってポリシーが結構異なるものだ。WLTC燃費値の公表が進めば、「遠乗りが多いから郊外路での効率がいいクルマにしよう」「もっぱらお買い物と送り迎えに使うから市街地が得意なものを」などと、カスタマーそれぞれの使用パターンに合わせたクルマ選びをするのにも役立つようになるだろう。
6月28日に発表したマツダCX-3のガソリン車「20S L Package」

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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