機回し、登り坂、息づかい、バイバーイ…東武SL「大樹」の走りと出会い

鉄道 企業動向
東武鉄道SL「大樹」試運転(2017年7月)
東武鉄道SL「大樹」試運転(2017年7月) 全 18 枚 拡大写真

浅草を11時ちょうどに出る東武特急リバティけごん17号・会津117号で1時間40分。下今市駅で降りると、浅草方に向いた蒸気機関車がわずかに、けむりを吐いていた。

東武鉄道のSL列車「大樹」。8月10日からの営業運転開始を前に、営業区間の下今市~鬼怒川温泉間12.4kmを行ったり来たり、試運転中。線路脇には、試運転にもかかわらず、列車が通過する時間になると地元の人たちが現れ、汽車旅の人たちに手を振る。「バイバーイ」。

鬼怒川温泉へ向け、13時ちょうどに下今市を発つSL大樹3号は、最も大谷川側(大谷向駅側)の留置線にいた。この時点でC11 207は浅草側(南栗橋車両管区)を向く。

蒸気機関車C11 207と車掌車ヨ8634が、12・14系客車と切り離され、前向きで浅草方に引き上げる。ヨ8634に設置された後退灯を点してバックで転車台に入ると、ぐるっと一回転。蒸気と車掌車がいっしょになって転車台上をまわる姿も、SL現役時代からすれば珍しい光景。

最も外側の電留線にとまる12・14系客車とディーゼル機関車DE10 1099。次はDE10が、大谷川側の車庫線へと入り、転車台へ。転車台で本線方向へと向きを変えて、本線手前まで前進。その後に後退して電留線へと渡り、先ほどと逆側の14系客車に連結する。

ちなみにこのSL列車がとまる電留線は、架線柱はあるけど架線はない。

25パーミルを越える登り坂、14系から垣間見えるC11の力走

汽笛一声。頭上に黒煙、両脇に白い蒸気を吹き出すと、客車がコツンと動き出す。ヴォッヴォッヴォッ。SL大樹3号が、大きく右へカーブしながら大谷川橋梁を渡り、鬼怒川線の連続する上り勾配に挑む。

車内には懐かしいスピーカー音のアナウンスが流れ、地元日光市在住のSL観光アテンダント(日光市観光協会)が車内をめぐる。アテンダントは、大樹1~6号の各列車ごとに異なる「SL『大樹』3D記念乗車証」を配り始めた。

アテンダントの次はワゴンサービス。東武商事の女性たちが、SL石炭あられ、SL大樹黒いアイスなどを「いかがですか」とくる。

車窓へ視線を向けると、14系やオロ12の横長一枚窓が気持ちいい。窓が開く客車もいいけど、密閉型の大きな窓は14系らしいアイテムのひとつ。

大桑駅を通過し、右手に国道121号 会津西街道が近づいてくると、コツンとブレーキがかかる。鬼怒川の右岸から左岸へと渡るS字カーブにさしかかる手前だ。

右へ大きく曲がり始めると、先頭のC11の力走が車窓に映り始める。鬼怒川を渡り、こんどは左へとカーブし、新高徳駅にさしかかる手前、急坂が待ち構えている。この登り坂を煙と蒸気を吐きながら、ズッハズッハと行く姿は、思わず拍手したくなる……。

線路脇から、運転台から、客車から手を振って

既出のとおり、東武のSL大樹は、「鉄道文化遺産の保存と活用に賛同してくれた全国の鉄道会社から協力を得て、車両の譲渡・貸与を受けた車両構成」(同社)。

蒸気機関車C11 207のみJR北海道から借り受け、東武博物館が保存。そのほかディーゼル機関車DE10 1099はJR東日本から、12系(オロ12)や14系客車はJR四国から、車掌車ヨ8634はJR貨物から、ヨ8709はJR西日本から譲り受け、車掌車を東武博物館、そのほかを東武鉄道が保有する。

インフラも各会社の遺産を活用。下今市駅転車台は、JR西日本 長門市駅から、鬼怒川温泉転車台は同 三次駅から譲り受けた。

「あーっ! もう東武ワールドスクウェア駅ができあがってるね」

右手に新駅のホームや駅舎が見え、さらに緩やかな坂を駆け上がると、あっという間に鬼怒川温泉駅。登り坂が連続する下りは所要時間36分。坂を下る下今市行きはそれより2分早い34分。

坂を駆け上がってきたC11 207の所属区札は「今」。運用札には「今試712 イマ 7001 7002 7003 7004 7005 7006 キヌ」と記されていた。彼はこの駅でひと息つく間もなく、こんどは坂を下る準備に入る。ホームでカメラを構える人たちに手を振りながら「機回し」を見せ、駅前に設置された転車台に載る。転車台でまわっているときも、多くの人たちの視線を浴びていた。


(取材:7月19日)

《レスポンス編集部》

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