【ホンダ フリード 3800km試乗 前編】シエンタ とは明らかに違うキャラクター…井元康一郎

試乗記 国産車
フリードハイブリッドで3800kmのロングツーリングへ。九州山地深部で写真を撮ろうとしていたところ、ちょうど観光列車「ゆふいんの森」号が通りがかった。
フリードハイブリッドで3800kmのロングツーリングへ。九州山地深部で写真を撮ろうとしていたところ、ちょうど観光列車「ゆふいんの森」号が通りがかった。 全 20 枚 拡大写真

ホンダが昨年秋にフルモデルチェンジした1.5リットル級ミニバン『フリードハイブリッド』第2世代モデルで、東京鹿児島間を3800kmほどツーリングする機会があった。

試乗車は先進安全技術「ホンダセンシング」を装備した「ハイブリッドG ホンダセンシング」のFWD前輪駆動、7人乗り。オプションとしてインターナビ+6スピーカーオーディオ、先の信号が赤になりそうかどうかを教えてくれる信号情報活用システムなどが装備されていた。

ドライブルートは東京鹿児島間のツーリング。東京名古屋間は往路、復路とも東海道および東名高速。近畿中国は往路が中国山地を縦貫しながら広島に出るコース、帰路は山陰道若狭湾経由。九州域内は往路が国道3号および九州自動車道、帰路は熊本、大分の山岳地帯を通るコースを選択した。総走行距離は3791.7km。おおまかな道路の比率は市街地2、郊外路4、高速3、山岳路1。乗車人員は長距離運転時1名、九州域内では2~6名。エアコンは常時AUTO。

思いのほかロングツーリングに向いている
山間部でもへこたれない足回りを持っていた。
フリードは宿命のライバルであるトヨタ自動車の3列シート小型ミニバン『シエンタ』と熾烈な競合関係にある。地域によってはまさに“仁義なき戦い”が繰り広げられているケースも見受けられる。商品性が似ている以上、正面からの激突は避けられないと思っていたのだが、ロングドライブをしてみると、両者のキャラクターは思いのほか異なっていることがわかる。

シエンタは2015年に現行型にスイッチしてから販売は絶好調。エクステリアはスポーツバッグをモチーフにした非自動車的デザイン、インテリアは一転、差し色を効果的に使い、非ミニバン的にかっちり作りこまれた乗用車デザインという独特の意匠性が大受けした最大要因と推測されるが、ドライブをしてもなかなか見所のあるモデルだった。昨年夏、500km弱の近距離ツーリングを行ってみたが、路面状況が悪くなければ山岳路もミズスマシのようにスイスイと駆け抜けられる、軽快でファンなハンドリングやすっきりとした乗り心地を持っており、トヨタのラインナップ全体のなかでもまとまりの良さではピカイチというのが率直な印象だった。

フリードの初乗りは昨年秋、現行フリードが登場した直後に行われたメディア向け試乗会。そのときは市街地と首都高、横浜横須賀道路など低速な自動車道路などを交えた2時間ほどのチョイ乗りであったが、シエンタに対して燃費や前方視界の良さではアドバンテージを持つものの、ファントゥドライブ性ではシエンタに明確に負け、ゴロゴロ感が目立つ乗り心地でも劣っているように感じられた。

3列目を補助席程度と割り切っているシエンタと異なり、フリードは3列それぞれに大人が座れるという、モロにミニバン的なスペース優先パッケージングを持っている。実用性が高い半面、運転席をホイールベース中央よりかなり前寄りに配置することになるため、宿命的にクルマとドライバーの一体感は希薄になる。

今回のロングツーリングでも、序盤の印象はそれとほとんど変わらなかった。サブコンパクトとはいえ200万円台後半というお高いクルマなのだから、市街地や一般郊外道の走行フィールがもう少し滑らかになればいいのに---と、箱根峠を越え、静岡から愛知にかけて延びる長大なバイパス群をクルーズしているときまでは思っていた。
人形峠付近にて。アンジュレーションだらけの道でもロードホールディングは良かった。
ところがその後、京都から丹波高地、氷ノ山、人形峠、湯原温泉という道の悪い中国山地ルートを進むにつれ、印象は変わっていった。フリードは良路を主体とした近距離ドライブではシエンタに負けるが、路面が荒れている、雨が降っているなど、条件が悪いところでのドライバビリティの悪化はシエンタにくらべてはるかに小さく、道を選ばず安心してドライブすることができた。また、九州ではドライバー以外に4人ないし5人を乗せて走る機会が何度かあったが、300kgを大きく超えるような荷重が余分にかかっても乗り心地やハンドリングがそれほど悪化しないのも好印象だった。

結果、ショートドライブのときの印象の悪さとは裏腹に、フリードのロングツーリング耐性は実用ミニバンとしては望外に高かった。一般的に、ドライビングプレジャーの希薄なクルマは運転のモチベーションが失われ気味になるため、ロングツーリングには不向きだ。フリードも最初はそのクチかと思ったが、悪コンディション下でも信頼のおける走り、ゆったりとしたGのかかりかたによる疲労の少なさ、そしてパノラミックな前方視界等々の長所が運転のつまらなさを十二分に補完し、それで3800kmツーリングを押し切った格好となった。ドライビングプレジャーはないが、ドライブプレジャーはあるのである。

ツーリング性能だけを取れば、それを目的のひとつとした背の低いBセグメントハッチバックモデルにはもちろん負ける。が、日常の近距離移動のための足としてフリードを買った顧客がたまにファミリーやグループで長旅をしたくなったとしても、そのニーズをわりといいレベルで満たしてくれるというのは、フリードの大きな美点と言えそうだった。走行シーンや使用条件は限定されるが走りがめっぽう楽しいシエンタ、フィールは退屈だが良心的で手堅い作りのフリード---かつてのトヨタとホンダのクルマづくりが入れ替わったかのような感があった。

滑るように走る高速走行
福岡・筑紫平野の筑後川堤防にて。
では、特質を要素別に見ていこう。まずはクルマのツーリング性能や快適性を左右するシャシーについて。

フリードの走りは、最大のライバルであるシエンタが旋回性能重視のキャラクターを持っているのとは対照的に、徹底的に安定志向に振られていた。サスペンションは基本的に柔らかく、コーナーにおけるロール角は深めに出る。シャシーのポテンシャルが低いクルマだとぼよんぼよんとした動きになってしまうところだが、フリードはサブコンパクトクラスとしてはサスペンションストロークに余裕があるためか、四輪のロードホールディングは良好だった。

とくに好感が持てたのは前サスペンションのストロークが素直で、前輪の路面への食いつきが良かったこと。山岳路のきついコーナーでも、コーナー入口でちょっとブレーキをかけて前傾姿勢を作ってやれば、その食いつきを生かしてぐりっと回り込むことができる。ベースとなった『フィット』のマイナーチェンジ前モデルやステーションワゴン『シャトル』よりずっと好フィールだった。また、悪い道でのコーナリング途中でアンジュレーション(路面のうねり)に足を取られてもグリップがすっぽ抜けたりせず、四輪でしっかりと路面をホールドする。この高い柔軟性も持ち味のひとつだ。

乗り心地は状況次第だ。市街地や速度の遅い郊外路などではサスペンションやブッシュのしなやかさが足りず、ゴロゴロ感や段差乗り越えのショックはいささか強め。もう少しもっちりとした油圧感のある乗り心地にできればもっと質感が高まるのにと、惜しく思われた。一方、路面状況の悪い山道や高速道路など、ホイールの振幅が大きく、上下動のスピードも早くなるような道を走るのは得意で、サブコンパクトクラスとしては十分な滑らかさがあった。

フリードが最も好フィールを示したのは、高速道路でのハイスピードクルーズだった。全般的に流れの速い九州自動車道で、最速のレーンにまじって走るような時でも安定性は良好。ある程度速く走ったほうがむしろ車体が安定し、ステアリングの据わりも良い傾向すらあった。

車高が高く、前面投影面積の大きなミニバンづくりにおいて、燃費と空力のバランスはエンジニアにとって悩みのタネだが、フリードは低抵抗一辺倒ではなく、高速走行の後方乱流の制御や高速走行時の浮き上がり防止にも結構なリソースを配分した空力デザインがなされているものと推察された。乗り心地も市街地やバイパス走行時のようなゴロゴロ感は弱まり、滑るように走るフィールがあった。筆者は高くて遅い日本の高速道路が嫌いで、高速を極力避けてツーリングするのが常なのだが、高速を走るのがいちばん気持ちよく感じられたため、今回はツーリングのうち約1000kmは高速を走ったくらいだった。

あってよかったと思えるホンダセンシング
夜間の舞鶴若狭自動車道にて。運転支援システム「ホンダセンシング」はクルマのコントロールは荒削りな一方、車線認識能力はおおむね良好だった。
次に先進安全システム「ホンダセンシング」について。フリードのシステムは全車速対応ではなく、市街地や渋滞区間ではほとんど役に立たないが、今回のようなロングツーリングにおいては有効活用できるタームが多く、安心感の向上や疲労軽減の観点ではあってよかったと思えるものだった。

ホンダセンシングは単眼カメラとミリ波レーダーを組み合わせ、前車追従クルーズコントロールやステアリング介入を伴うレーンキープアシスト(車線維持アシスト)など“擬似レベル2自動運転”機能を持たせている。

ライバルのアベレージよりやや上と思われたのは車線認識の精度。老朽化で車線のラインが少々かすれ気味になっているような場所でも車線認識率は高いほうだった。高速道路のようにラインがしっかり引かれたところでは車線をほとんど見失わなかった。バイパスにおいては状況次第となるが、センターラインに樹脂製のポールが立つ対面通行区間など、カメラが認識率はわりと良かった。

その認識の良さに対し、アベレージよりやや下だったのはオートドライブのチューニング。最近は手を軽く添えていればほとんど力を入れずに走れる装置も出てきているが、ホンダセンシングはそこまでは行っておらず、アシストに頼った走行をしているとぎくしゃくするし、路外逸脱防止のための修正も心もとないものだった。一番いいのは装置の存在を忘れて運転すること。ステアリング操作にアシストが働くので、それで疲労軽減の恩恵はちゃんと受けられる。

前車追従オートクルーズは、前にクルマがいるときの速度調節はまあまあナチュラルでストレスは感じない。欠点は速度の遅い先行車がどいてもなかなか加速に移行しないことで、速度回復は自分でスロットルを踏んだほうがずっと素早く、ストレスも感じなくてすむ。全般的には全車速追従化したうえで、もう少し熟成させてほしいと感じられた。

試乗車のヘッドランプはLEDロービームで、夜間走行時には近距離を明瞭に照らした。おお、これはいいなと思うのだが、ハイビームは一転、キセノンバルブでもない普通のハロゲンランプで、落差にがっかりする。また、200万円後半という価格帯であることを考えると、マツダ『デミオ』のようなインテリジェント配光機能つきとまでは言わずとも、ハイ/ロー自動切換えのアクティブハイビームくらいは欲しくなるところだ。
ヘッドランプはロービームはLEDだが、ハイビームはハロゲン。インテリジェント配光とまでは言わないが、ハイ/ロー自動切り替えのアクティブハイビームくらいは欲しいところだ。
後編ではパワートレインのパフォーマンスと燃費、ユーティリティなどについて述べる。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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