【ホンダ N-BOX 新型】まわりまわってキープコンセプト[デザイナーインタビュー]

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ホンダ N-BOX
ホンダ N-BOX 全 8 枚 拡大写真

日本カーオブザイヤー2017-2018の10ベストカーに選ばれたホンダ『N-BOX』新型。2017年9月1日に発売以降、約1ヵ月での累計受注台数は約5万2000台と販売計画の1万5000台/月を大幅に上回る順調な滑り出しで、その後も順調に台数を伸ばしている。そのデザインは、キープコンセプトに見えるが、なぜそうしたのか。デザイナーに具体的に話を聞いた。

◇N-BOXらしさを探して

---:先代も含め大ヒットとなったN-BOXですが、2代目となる新型をデザインするにあたり、最初に考えたことは何ですか。

本田技術研究所四輪R&Dセンターデザイン室 1スタジオ研究員の杉浦良氏(以下敬称略):すごく難しい開発でした。当然これだけお客様に支持されたということですので、プレッシャーもありました。実は最初、全くガラッと変えたデザインにしようと考え幅広いアイディアを出したのです。その中には『フィット』の様なモノフォルムの、ボンネットがないデザインもいくつもありました。

しかしそのボンネットのないデザインでモデルを作ってみると、全員がこれはN-BOXではないといい、自分たちもそう思いました。そういったことを何回も繰り返し行っていたときに、N-BOXらしさというのが重要なキーワードになると感じたのです。そこからは割と方向性がきっちり定まりました。そこを見誤っていたら違っていたと思います。

---:そのN-BOXらしさとは何ですか。

杉浦:ぱっと見た瞬間、誰もが見た瞬間にN-BOXだということが認知出来るものです。ティザー広告が始まったときからネットを見ていますと、「どこが変わったのかわからない」とか、「マイナーチェンジじゃないか」という声を目にしました。これは、ある意味間違ってはいません。それぐらいN-BOXだと認知されたということでもありますから、良かったと正直思ったものです。

◇キャビンとロアボディのバランス、そしてボンネットが重要

---:では、N-BOXらしさを具体的にデザインで表現するとどういったところがポイントなのですか。

杉浦:サイドビューで見たときの骨格です。今回はホイールベースも先代と変わっていませんので、そういったところからN-BOXらしさは何かと紐解いていくと、ボディとキャビンとの比率がまずあります。

N-BOXと他車との大きな違いは、ベルトラインの高さがあります。キャビンの大きさに対してロアボディが非常に分厚く安定して見えるのです。他車の同系統の軽自動車の造形では、キャビンとロアボディでは、キャビンが少し大きく見えるようなイメージで、ややもすると少し不安定に見えがちでした。人に例えていうと、頭が大きい幼児体型の様に見えて、そこには、可愛いさやフレンドリーさはあるかもしれませんが乗用車、あるいは自動車といったときに少し足りない部分があると感じていました。そこでベルトラインの高さ、キャビンとボディの比率はしっかりと前のモデルから踏襲しています。

またボンネットの存在感も重要なところです。先代N-BOXはボンネットの存在感が非常に大きいですね。このデザインをするときは、道具っぽさ、道具感というイメージと乗用車らしさといったものがウェルバランス、どちらも1:1に感じるようなさじ加減になっていました。

一方、今回のN-BOXでは、そういった道具感の部分の影を少し潜めさせて、乗用車らしい、乗用価値といったところを伸ばしたかったのです。そのときにボンネットの存在感というものをより主張する方向が、N-BOXの中の乗用車らしさを引き出す手法になると考えました。

つまり、ボンネットの存在感と、キャビンとロアボディのバランスがN-BOXらしさのポイントなのです。

◇ダウンサイザーから支持されたN-BOX

---:乗用車感とフレンドリーさは打ち出したクルマが多い中、先代N-BOXがデビューした際、乗用車感と道具感、ツール感というデザインの説明を伺い、すごく面白い発想だと思いました。これが先代で受け入れられたところだと思うのですが、今回はなぜ道具感を少し抑えたのですか。

杉浦:先代N-BOXのユーザーを見てみると、ダウンサイザーからの支持が多いのが特徴でした。これは他のメーカーにはない強い価値、武器だと思っています。その中でも特に上級のクルマから軽に初めて乗り換えるクルマが N-BOXだったというユーザーが多いのです。そういったユーザーは上級のクルマを見慣れていますから、道具感やツール感よりも、それまで乗っていた乗用車らしいテイストから自然に乗り換えてもらえるのが一番好まれるのかなと考えたのです。そこで今回は、ツール感よりも乗用車感を大事にしました。

◇洗練や上質感から乗用車感を演出

---:それでは乗用車感を演出したところはどういったところでしょう。

杉浦:エクステリアデザインのコンセプトとしてN-BOXらしさはベースにあります。そこに“洗礼”や“上質”というキーワードを与えました。そういったものの表現が乗用車らしさにつながると考えたのです。

例えば、ドアパネルの面のセクションや面の構成の仕方に上質さを持たせたいと思い、先代モデルが1枚の面でパンと潔く出来ていた部分、これはこれでクリーンでシンプルで良いツール感が演出されていましたが、今回はそこにキャラクターラインをフロントからリアまで一気に1本入れることで、前後方向に大きく見せる視覚的な効果を持たせました。更に、そのキャラクターラインの部分を一段折っていますので、非常に豊かな面が限られたサイズの中で作ることが出来ています。これがサーフェス上での上質感です。

また、サイドビューで見たときに動きをしっかり出したいとも思いました。これも先代モデルと比較をすると、 先代は割と円筒形に出来ており、前後ともスラントして、長い楕円の様なイメージで安定感がありバランスが良かったのですが、動きはあえて出しませんでした。それゆえに乗用車感というよりはツール感の方向になっていたといえます。

今回は乗用車側に振りますから、動きを出すことが必要だと考えました。そこで、サイドビューではフロントエンドのスラント具合を、逆スラントになるくらい立たせて、リアエンドの特にDピラーを前傾する様な形にしています。つまり、サイドビューから見ると、Dピラーがルーフにつながるアーチを描く様になり、全体の姿勢を前傾する姿勢にすることによって、箱の形はしているものの、動き出しそうなイメージになっています。

また、そうすることで、グリル周りをぐっと前に出せたので、狙っていた立派さや大きさ感なども同時に表現出来ています。

◇あえて主張しない道具感

---:一方で道具感はどういったところで表現していますか。

杉浦:道具感に関しては、背の高いこのクラスの骨格から滲み出して、誰が見てもちゃんと使えるクルマだと感じてもらえますので、あえて主張しなくても、ぱっと見た瞬間に伝わるのではないかと思っています。

この道具感の表現は、やり方を間違えると、商用車に見えてしまいます。骨格から見ても、商用車にするのはそれほど難しくはないですから、逆に乗用車に見せる方が難しかったですね。でも今回は、そこが一番大事なので、あえて道具感を表現することは抑えて、乗用車感に絞ってデザインしました。

《内田俊一》

内田俊一

内田俊一(うちだしゅんいち) 日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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