【トヨタ カムリ 新型】フルTNGAで既成概念を打ち壊せ[デザイナーインタビュー]

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トヨタ・カムリ
トヨタ・カムリ 全 16 枚 拡大写真

日本カーオブザイヤー2017-2018の10ベストカーに選ばれたトヨタ『カムリ』。そのデザインは、先代とは大きくイメージを変え、非常にスマートな印象を与えている。そこで、なぜここまで大きく印象を変えたのか、デザイナーに聞いてみた。

◇セクシーさをデザインに

---:今回のフルモデルチェンジで、大きくデザインが変更されました。まずはそのデザインコンセプトを教えてください。

トヨタデザイン本部トヨタデザイン部主幹の久保田憲氏(以下敬称略):「“Sensual-Smart” CONFIDENCE(センシャルスマートコンフィデンス)」がコンセプトワードです。これまでのカムリで築き上げてきたイメージをエモーショナルサイドに振ろうと思いました。スマートサイドは、今まで十分カムリの実用的な面で評価してもらえましたので、我々としてはセンシュアル、つまりセクシーに繋がるようなエモーショナルサイドの単語を冒頭に持ってきて、そのイメージを刷新したいと考えたのです。

もちろんトヨタが作るクルマですから、スマートは備わっています。そこは踏まえた上で、プライオリティをエモーショナル方向に振ろうというのがデザインでの狙いです。

また、オールニューTNGAという、クルマの骨格をゼロから計画出来るという、千載一遇のチャンスに恵まれました。そこで、セダンというクルマのデザインをゼロから変えられるとしたら、どこまでエモーショナルなデザインが出来るのか。我々デザイナーが企画の初期から、全高、全幅、全長、ホイールベース、そういった数値それぞれの検討の中に入って、スタイリングに対してデザイナー目線で数値を議論したのです。この経験はデザイナー人生の中で初めてのことで、スタイリングをしていく上で非常に武器になりました。それが出来たからこそエモーショナルサイドに振ったデザインが最初の狙い通りに最後の形に結びついたのです。

◇街で振り向かせたい

---:そもそもセクシーさなどを、カムリで醸し出そうと思ったのはなぜでしょう。

久保田:街を走っていた時に、第一印象で振り向かせたかったのです。商用車が走っていても誰も振り向かないでしょう。まずはカムリだとわからなくてもいいので、目で追って欲しかったのです。その上でこれがカムリなのかと後から気付いてもらう。それで全然OKなんです。向こうからとてもきれいで格好いいクルマが走って来るな、このクルマは何だろう、あ、カムリなんだ、ずいぶんカムリは変わったなとお客様のマインドを持って行きたかったのです。

そのために、グローバルモデルですから、アメリカや中国をはじめ、様々な地域のお客様のマインド、どういうところがお客様にピンとくるのかを事前に調査し、これまで一番トヨタとして足りなかったであろうセクシーなポイントをデザインの基本に据えたのです。

---:そうすると、久保田さんもお客様も、前のカムリについてはその辺りが足りなかったと感じていたのですね。

久保田:お客様からの評価はそういったセクシーさは足りてなかったといわざるを得ないと思います。クルマとしては優秀な実用車でしたが、スタイリングで買ってもらえるようなクルマにはまだなりきれていないということです。

当然トヨタのカムリですから実用的なところは押さえていますし、 そういうところを求めているお客様がいらっしゃることは承知の上で、それでも、スタイリングでこのクルマを買いたいと思ってもらいたいのです。個性を強くしていきますと、もちろん好き嫌いはどうしても出て来るでしょう。そこは承知の上で好きだと思ってくれた方には徹底的に惚れ込んでもらえるようなクルマにしたかったのです。そういうところを開発の中でも後押してもらえましたので、思い切ってデザインすることが出来ました。

◇美的感覚は一緒。だからグローバルで共通のデザイン

---:今回久保田さんがカムリのフルモデルチェンジを担当することが決まった時、どう思いましたか。

久保田:これは大変だと思いました(笑)。トヨタという会社の屋台骨を支える重要な車種ですから、開発に従事すればするほど、プレッシャーがかかって来ましたね。日本で見るカムリと、グローバル展開されているカムリのイメージとでは、だいぶ印象が違っていまして、視野を広げれば広げるほどこのクルマの重要性が後からわかって来るのです。

当初は勉強不足で日本のカムリぐらいのイメージしかなかったのですが、グローバル車種のカムリですから、いろいろ情報が入って来たり、勉強して自分なりに考えたりしていくと、すごいクルマをやっているのだなと、月日が経てば経つほどプレッシャーになっていきました。

---:グローバル展開車はすごく難しいと思います。当然日本のイメージと、それ以外の国々のイメージで違いますよね。その辺りはどうでしたか。

久保田:少なくとも先代カムリは市場の違いによるニーズの違いを踏まえ、日本で売られているアジアを中心としたクルマと、北米で売られているクルマとでスタイリングを分けていました。それが非効率的な開発にもなっていたのです。

今回グローバルで市場調査をしていくと、時代はSNSの発達とともにどの地域も同じ美的感覚であっという間に価値が広がっていくことがわかりました。つまりグローバル市場での美的感覚の差は宗教的なものは別にして、ほとんどないといっていいのです。つまり、グローバルでも、格好いいものは格好いいとなっているのですね。そこで今回はどの地域も基本的に同じスタイリングにしています。

一方で、価格面ではアメリカのようにかなりリーズナブルに販売している国もあれば、中南米のようにお金持ちの人しか買えない価格で売られているところもあります。そういったところは基本統一デザインの中で、加飾や一部装備で差をつけて、その価格に見合った価値を与えています。

◇キャラクターラインにはすべて意味がある

---:新型カムリはシャープなラインを通したり、ボンネット周りにもいくつかのキャラクターラインを入れたりなどの特徴づけがなされています。この辺りの考えを教えてください。

久保田:普通に今までのクルマの感覚からすると、キャラクターラインや、様々なクルマをかたち作る要素は盛り沢山だと思います。ただし、フルTNGAで骨格からセダンを変えられるというチャンスでしたので、スタイリングで何が出来るかを考えた時に、セダンをかたち作るアーキテクチャー、構成をもう一度見直しました。

しっかりとタイヤに向かうピラーや、キャビンの構えなどで、後席の頭上空間をしっかりとセダンとして保ちながらもスポーティに見せるよう、クォーターピラーからトランクに向けての流し方もそうなっています。

また、徹底的にワイド&ローに見せるためには、フェンダーなどのキャラクターラインはタイヤに沿って流すのが常です。しかし、このクルマはドアから来たラインがそのままグリルに抜けています。つまり顔の幅を全幅いっぱいいっぱいまで広げるよう、顔をワイドに見せるという手法のためにこの線を使っているのです。

低重心に見せたいだとか、ワイド&ローに見せたいだとか、そういう手段としての基本骨格をどれだけスタイリングで料理出来るかというところから生まれてきたキャラクターなので、あまり意味のない線はありません。線の数としては多いのですがそれぞれに意味があるのです。

今回、TNGAによる骨格改善をもとに、いかに低重心でワイド&ローなスタイリングにするかがデザインのスタートポイントでした。つまり、それが全部強調出来るようなスタイリングの手法をいろいろなところに散りばめています。

---:そのひとつがドアからの流れなのですね。

久保田:はい。Aピラーにおいてもあまり下すぼまりにする手法はないでしょう。このAピラーはタイヤに突き刺さっていくイメージです。タイヤにキャビンがいかに姿勢良く乗っているかがセダンの基本なので、そういったところを意識した結果、Aピラーの先細りによって視界が広がるなど、副次的な効果も得られています。

◇カムリ“らしくない”デザイン

---:豊田社長はこのクルマに対して、一番カムリらしくないデザインを選ぼうという話をされたそうですね。それは最初に久保田さんが話した、セクシーさなどを追求したデザインという考えなのでしょうか。

久保田:その時はまだセクシーというキーワードみたいなものは社長に伝えてはいませんでした。ただし、フルTNGAでいちからデザインを変えられることは、当然社長も知っていましたので、既成概念を壊したかったのだと思います。

---:そのカムリらしさとは何ですか。

久保田:代々何かしら一歩先を行く価値観を市場に提供し続けているクルマだと思っています。

初代はFRでしたが二代目からこのセグメントでのFFの先駆けのようなクルマとして登場しました。それが定番になったところで、スマートパッケージ、限られた寸法の中で、いかに実用性をマックスまで取るかというのか先代カムリだったのです。新型はそういった歴史の上に立った上で、徹底的にエモーショナルに振ったカムリというものをゼロから作ったということです。

---:そこが時代の先駆けなのですね。

久保田:そうです。

◇ドライバーオリエンテッドながら助手席も快適に

---:少しインテリアについても教えてください。

久保田:今回インテリアもかなり見どころが多いです。運転席ではしっかりと走る楽しさがわかるようなドライバーオリエンテッドタイプの空間を作っています。そういったレイアウトの場合、助手席は大概疎外感があることが多いものですが、このクルマはロワーの柔らかいパットによって助手席でのくつろぎ感を演出しています。

その運転席と助手席を結びつけるのがナビなどがあるセンターパネルです。ナビを中心に少しドライバー寄りに面は寄ってていますが、フラッシュパネルを意識した使い勝手のいい先進デバイス、ナビとメーターとヘッドアップディスプレイの三つの連携によって新しいHMI( ヒューマンマシンインターフェース)が形作られています。

つまり、運転席側から見る風景と、助手席側から見る風景が全く異なる空間を、大きなフラットのナビパネルで上手く結びつけるという、かなり見応えのある構成になっているのです。

特にこだわったのは、センターコンソールの部分で“S”字ラインの部分や、それを取り巻くようにサテンクロームのシルバーアクセントが助手席に伸びていたりしているところです。

かなり長い線の部品を分断することをせずに、ひとつのピースで取り巻いています。全部樹脂同士なので製品誤差もありますし、そもそもひと繋がりのインパネが組めるのかなど、いろいろと声がありました。ただしそれは当初から、細切れの部品を寄せ集めたものではなく、大きく一体的なパネルにしたいということを、開発が始まる前からデザインの狙いとして置いていましたので、長い時間検討も出来、なんとか実現にこぎつけました。

---:相当苦労があったようですね。

久保田:いえいえ、とても楽しかったですよ(笑)。本当にラッキーだったのは普通のモデルチェンジと違ってフルTNGAに上手く乗ることが出来たことです。普段は無責任に絵を描いて、こんなものは出来るわけがないといわれるのが常でしたが、今回は、格好いいという“旗を刺した”ので、みんながそれに向かってぜひやろうと、どんどんサポーターが増えていったのです。トヨタのカーデザイナーとして、一番幸せな仕事が出来たのではないかと思います。

《内田俊一》

内田俊一

内田俊一(うちだしゅんいち) 日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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