センシング技術の先端 - 日立オートモティブシステムズ 工藤真氏[インタビュー]

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日立オートモティブシステムズ 先端センシング技術開発部 部長の工藤真氏
日立オートモティブシステムズ 先端センシング技術開発部 部長の工藤真氏 全 2 枚 拡大写真

自動運転の本格普及が始まろうとしているいま、長く日本のADAS(運転支援機能)の進化を支えてきた日立オートモティブシステムズ。アイサイトにも搭載されたステレオカメラは、これからどのように進化するのか。激化するTier1のセンシングデバイス競争に、どう挑むのか。日立オートモティブシステムズ 先端センシング技術開発部 部長の工藤真氏に聞いた。

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ステレオカメラと単眼カメラ


---:日立オートモティブシステムズと言えば、スバル「アイサイト」のステレオカメラを作っているメーカーとして知られていますね。ステレオカメラにはどのような特徴があるのでしょうか。また、単眼カメラとはどういった点が異なるのでしょうか?

工藤:単眼カメラを、片目で運転している状態に例えるとすると、人間が初めて片目で運転すると怖いと思うのですが、慣れてくると片目でも運転できるようになるのと同じで、事前の学習が得意のメーカーさんの単眼カメラが十分使える、というコストパフォーマンスが評価されているのではと思います。

一方で、両目で見ていた方が安心感があるという点に関してはステレオカメラの利点ですので、そこはきっちりお客様に説明していきたいなと思っています。一番違う点は、距離を測る正確度が単眼カメラよりも良いという事です。

---:なるほど、ステレオカメラは奥行きをちゃんと理解できるという事ですね。

工藤:そこが一番違います。単眼カメラもいろいろと技術が進歩しているので距離をある程度出せはするのですが、必ず一つのファクターが入らなければ距離を出せないんです。

---:とおっしゃいますと?

工藤:両目ですと三角法で距離が簡単に出ますけれども、例えば片目ですと、車のサイズがあらかじめ分かっていれば大きさを把握して距離を理解することができますが、車のサイズが想定外になってしまうと別の手法で距離を求めなければなりません。

時間ごとにフレームを見て、動きから距離を出す方法など、いろいろな手段はあるものの、計算するためのひと手間はかかってしまいます。今はコンピューターが進化して、それができるようになってきたという事が単眼カメラが使われるようになってきた理由かと思います。

今後、複雑なシーンに対応した自動運転に対応したいという時に、単眼のままで行くのか、ステレオの方が安心感があるのか、という点がこれからの技術開発をする上でキーポイントだと思っています。

---:なるほど、御社はステレオカメラにこだわっているという事でしょうか?

工藤:会社という意味ではこだわっていますね。現場の技術者はいろいろな技術を学んでいますが、会社としてはステレオカメラの良さという点をしっかりアピールしていきたいと思っています。

ステレオカメラもセンサーフュージョンへ


---:ステレオカメラ以外のデバイスも手掛けているのでしょうか。

工藤:「ADAS(エーダス)」向けのコントローラーは商品化しています。レベル2の機能を盛り込んだものです。あとは車内ネットワークのコントローラーであるゲートウェイですね。そして今後頑張ろうと思っているのがレーダーや地図配信ユニットです。

---:LiDARに関してはいかがでしょうか。参入メーカーが非常に増えている状況ですが。

工藤:品揃えとして扱いたいとは思っています。

---:ステレオカメラとセンサーのフュージョンについてはいかがでしょうか。

工藤:自動運転が進化するにつれて、何らかの二重系・三重系を用意することが必要になると思います。レベル2まではドライバー責任なのですが、レベル3以上はシステム責任になりますので、今までよりも多重度合いを増していった方が良いという事で、ステレオカメラ一つあれば良いというつもりはなく、センサーフュージョン、データーフュージョンなどを、技術の備えとして進めております。

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---:センサーに関して何か特徴はあるのでしょうか?

工藤:カメラ+ミリ波レーダーという組み合わせが一番シンプルな構成で、複雑な事をしたい時にLiDARが入りますし、自動駐車をするときにはソナーを使います、このように目的によってセンサーの選択肢も変わりますが、我々としては一通り評価してお客様のニーズに合わせて提案できるよう技術開発をして準備しています。

---:ステレオカメラという強みがあって、その価値を高めるためにセンサー技術を準備しているということでしょうか。

工藤:ステレオカメラの価値を高めると言うよりは、自動運転システムとして適切である事を目指しております。我々は地に足の着いた適切な構成で、コストパフォーマンスに優れた自動運転を実現していきたいという思いがあって、そういう取り組みをしています。

レベル2の高性能化が進む


---:自動車メーカーと現時点で取り組んでいるのは、数年後のプロダクトになると思いますが、それは自動運転のレベルで言うと2から3が中心になるのでしょうか。

工藤:自動車メーカーごとに差はありますが、基本的にハードウェアの決定は量産の2-3年前なんです。そうすると、現時点で量産のメドが立っている部品を3年後のモデルに搭載することになりますので、レベル4でスイスイ走ると言った事は無いかと思います。

現在市販されているレベル2で、高速道路で道なりに走ったり、車線変更を支援するといった車両が商品化されていますが、そういったもののメニューを増やしながら、レベル2かレベル3かと言われたらレベル2になるのですが、レベル2の中でもハンズオフしている時間が少しでも長くできるようにしたり、60kmくらいの速度領域であればレベル3にしても良い、というように少しずつ進化していくと思います。

お客さんから見たらレベル2やレベル3という数字はあまり関係ないと思いますが、レベル3の自動運転ができる道路やできる長さが徐々に増えていく、という部分を、2-3年後くらいから各社でせめぎ合うことになると思います。

日立グループならではの強み


---:自動運転のカメラやセンシングデバイスは、パーツメーカーの間で競争が激化しいますが、そういう状況の中で御社はどのように存在感を発揮していくのでしょうか。

工藤:日立グループという強みをもっと考えていく必要があると思います。例えば、鉄道を持っている日立と一緒にやるからできる提案もあると思っています。コミュニティカーやコミュニティバスであったり、一人乗りの自動運転カーのようなものは、インフラ連携をきちんとしなければ成立しない部分がたくさんあります。そういった点で日立グループ全体でソリューションを作っていく、という流れはあると思っております。

今のように、各社似たような製品を作ってコスト勝負になってしまうと、どうしてもメガサプライヤーの方が強いので、そこだけで戦うつもりはあまりありません。最後にコスト勝負になると体力勝負になってしまいますので。

一方で、コスト重視の世界標準品だけですと自動車メーカーは特徴のある製品や車を作れませんので、そういった所でこだわりを持った、ステレオカメラの良さを活かす事や、レーダーに関してもステレオカメラと組み合わせた時に一番性能が良い、といった仕掛けを作りながら特徴を出していこう、と日立オートモティブシステムズとしては思っております。

---:日立グループならではの強みをアピールしていく、ということでしょうか。

工藤:そうですね、例えばセキュリティというキーワードでは、銀行系のネットワークもやっている日立製作所の技術が使えますので、例えば無線を使ってECUの中身を書き換える(OTA)という時も、セキュリティの考え方や、外部から攻撃があった時の対処の仕方、そういったノウハウを活かせる部分が多々あると思っています。

それから、CES2018でデモをした自動バレーパーキングの機能は、複数の車両が駐車場に出入りした際も、車同士が交錯しないようにサーバー側でコントロールしているのですが、それには日立が鉄道システムで培った技術も入っていたりします。研究所に相談に行くと、「それはアレアレのコレコレの技術ですね」と言うんですよ、「ちょっと直せば使えますよ」という風に、困ったときに誰かが何かを知っているので、そこが日立の強みです。

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《佐藤耕一》

日本自動車ジャーナリスト協会会員 佐藤耕一

自動車メディアの副編集長として活動したのち、IT企業にて自動車メーカー・サプライヤー向けのビジネス開発を経験し、のち独立。EV・電動車やCASE領域を中心に活動中。日本自動車ジャーナリスト協会会員

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