メルセデスベンツ Gクラス 新型…“463”がキーワード、商品企画責任者[インタビュー]

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ダイムラー社商品企画責任者ミヒャエル・ベルンハルト氏(左)とメルセデス・ベンツ日本代表取締役社長の上野金太郎氏(右)
ダイムラー社商品企画責任者ミヒャエル・ベルンハルト氏(左)とメルセデス・ベンツ日本代表取締役社長の上野金太郎氏(右) 全 16 枚 拡大写真

メルセデスベンツ『Gクラス』の商品改良が行われ、日本でも販売が開始された。骨格となるラダーフレームをはじめ、エクステリア、インテリアとも大きく変更されたが、フルモデルチェンジではないという。そこで、本社Gクラス商品企画責任者にその理由などを聞いた。

◇“463”が重要

----:早速ですが、今回フルモデルチェンジではなく、商品改良としたのはなぜでしょう。ラダーフレームは新設計、エクステリアやインテリアのデザインも刷新されていますので、フルモデルチェンジの域だと思うのですが。

ダイムラー社商品企画責任者ミヒャエル・ベルンハルト氏(以下敬称略):答えは2つあります。ひとつは463の型式を継承することにありました。463のままにすることによって、全くの新しいモデルではなく、これまでのヘリテージをきちんと踏襲しているということを示したかったのです。

次に、正直にいってしまいますが、全く新しいGクラスとして出した場合、市場がどう捉えるかが少し心配だったのです。今更なぜGクラスを新しくするのかという反応があったらどうしようという怖さがありました。しかし新しいGクラスを見てもらうと、古いものとそれほど見かけは変わらず、しかし中身は大きく変わっているという話題で持ちきりになるので、ほっとしています。

----:例えば、今回のような改良をせずにそのまま継続生産ということもあったかと思います。なぜこの時期に改良を行ったのでしょう。

ベルンハルト:法規制等で、歩行者保護をはじめとして様々な安全基準や対策を行おうという傾向がどんどん強くなっています。そこでこの先10年間Gクラスがきちんと対応出来るように今回思い切って刷新を行いました。その一例がステアリングです。以前のGクラスは技術的にも非常に古いものでしたが、今回電動パワーステアリングを導入することで、アクティブレーンキープアシスト等、我々の最先端の安全性も導入することが出来ています。

もうひとつ理由を挙げるならば、Gクラスの内装のレイアウトやデザインが古くなったと思っていたのです。そこで、内装に限ってはとにかくより現代的にしたい、そしてより高級感を与えました。これはユーザーの方々の声でもあったのです。

◇インテリアからもGクラスとわかるように

----:確かにインテリアのデザインは刷新され、最新のメルセデスベンツのデザインが取り入れられましたね。その一方、エクステリアはかなりキープコンセプトを取りながらも、様々な工夫を凝らしモダンナイズされました。そこで具体的なデザインの特徴を教えてください。

ベルンハルト:まず内装ですが、デザイナーは女性です。彼女が最初に考えたのはGクラスの典型的で、個性的なエクステリアを室内でも表したかったということでした。そこで、左右のエアベントをヘッドランプと同じような形でデザインし、その上のスピーカーを、外付けのターンシグナルのようなイメージにしました。その結果、ドライバーはいつもGクラスと対面しているような感覚となるでしょう。このデザインの考え方は、Gクラス独特のものであって、他のメルセデスベンツのモデルでは全く見られないものです。

そしてエクステリアでは、最初から角ばったエッジーなデザインはキープしなければいけないと決めていました。この独特の外観を失ってしまうと、市場に溢れている他のSUVと同じものを作ってしまうことになりかねませんからね。

様々な要素に対して議論を重ねたのですが、まずフロントウィンドウからルーフに向けて走っているトリムがあります。エアロダイナミクスという面ではこのトリムは何の意味もないものなので、一旦このトリムを取ってみたのです。そこで皆で集まって見てみたのですが、これがないとGクラスには見えないということでした。

またサイドのドアなどにあるボディを保護するためのモールがありますね。これは元々駐車場などで止めた時に、他のクルマのドアがぶつかって自分の車体に傷がつかないようにするものでしたが、それも新しいデザインではホイール部分が出っ張っているのでいらなくなりました。しかしこのトリムがないとGクラスらしさがなくなってしまう。このようにひとつひとつ検討を重ねながら残すものを決めていったのです。

ちょっと質問をしてもよいでしょうか。エクステリアの中で改良前と全く同じ部品を3つだけ使っているのです。それはどれかわかりますか。

それはドアハンドル、スペアホイールカバー、ヘッドライトウォッシャーノズルだけなのです。従ってこの新型Gクラスはほぼ全てのものに手を加えているのですが、外から見たイメージはそれほど変わったようには見えない、良い結果になったと思っています。

◇最新技術と使いやすさ

----:なるほど、昔からのオリジナリティを残すか、現代的にするかの議論をかなりしたのですね。その時のエピソードなどあれば教えてください。

ベルンハルト:ありすぎてどれを話せばいいか……(笑)。

まずよく覚えているのは最初にデザイナーのところに、新しいGクラスを作るよといいにいったら、やっとあの古いクルマを新しく出来るとデザイナーは大喜びしたんです。そのあと、我々はこう付け加えました。最終的には前と同じような形で見せてねと(笑)。その時デザイナーはまだGクラスについて理解していないところもあったので、歴史をはじめ、GクラスのDNA、ユーザーの要望などを説明して、我々の方向性を理解してもらいました。

もうひとつ覚えているのは、スクリーン上で様々なものを制御する表示パネルを、タッチパネルにして、センターコンソールのコントローラーを無くそうとデザイナーが提案したのです。このアイディアを実際にオフロードで使っているユーザーに話をしたところ、オフロードというのはデコボコで大変な状態、クルマがゆすられている状態なので、タッチパネルなんかでコントロールは出来ないという反応でした。そこで、指で握って回せるコントローラーと、タッチパネルの両方を採用したのです。

◇Gクラスのコア

----:これまでの話の中でGクラスの“コア”であるとか“DNA”というワードが出て来ました。これを具体的に表現するとすれば何なのでしょう。

ベルンハルト:これも答えは2つあります。まずひとつめはデザインです。このデザインによってユニークなGクラスの形をキープしているのです。

例えばフェンダー上にあるターンシグナル、ドアハンドルも古いままで変わっていませんし、室内の3つのデファレンシャルロックスイッチもそのままです。

その外付けのターンシグナルですが、採用にあたってエピソードがあるのです。歩行者保護の観点から、ぶつかった時に外付けは危ないと、実はエンジニアリングから一度クレームがついたのです。しかし我々はそれを拒否しました。なぜならばこのターンシグナルはGクラスの顔だからです。そこでエンジニアは外付けのターンシグナルを取るのではなくて、衝撃があった時に車体の内側にへこんで入ってしまうようにしましたのです。その結果飛び出て人を傷つけることがなくなりました。

そして2つめはオフロード性能です。Gクラスに乗っていればどこへでも行けるということがこのGクラスのうたいどころなのです。オフロード性能に関しては、市場には他にも高いオフロード性能を持ったクルマはあります。しかしGクラスは唯一オフロード性能と高級感の両方を兼ね備えたクルマなのです。

◇ラグジュアリーさを増したい

----:さて、ベルンハルトさんは、数年前からGクラスを担当されているということですが、今回、会社からこの製品改良の指示があった時に最初に何をしたいと考えましたか。

ベルンハルト:実際にGクラスを担当するようになってから合計6年経ちました。最初の2年間はおかしなプロジェクトを担当していたのです。例えば6×6やクレイジーカラーなどでした。この新型Gクラスの開発はだいたい4年ぐらい前からスタートしています。私が新型Gクラスの商品担当となった時にひとつ頭に浮かんだのは、古いGクラスの内装はブラック一色でしたので、そこをちょっと変えたいと思いました。私が目指したのは例えば白系の内装で、こういった色を採用することでラグジュアリー感を向上させ、現代性、近代的な雰囲気を押し出したいと思っていました。そうしたことから、白系も採用出来て、ラグジュアリーさもより感じていただけるようなものになったと思っています。

《内田俊一》

内田俊一

内田俊一(うちだしゅんいち) 日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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