投資か技術提携か? 注目されるイスラエル市場の攻略法…Aniwo 代表取締役CEO 寺田 彼日

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Aniwo 代表取締役社長 寺田 彼日氏
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今、世界中の企業や投資家が注目する市場のひとつがイスラエルだ。自動車関係のスタートアップも増えておりインテル、グーグルをはじめ、ダイムラー、BMW、コンチネンタルといったビッグネームとの提携や投資も相次ぐ。

昨年、日本国政府とイスラエル政府はお互いの貿易や産業協力について覚書を交わし、両国の交流機運も高まっている。CASE車両の開発、モビリティビジネスを考えているなら、イスラエルの技術と企業をスルーすべきではない。

しかし、日本とはあまりなじみのない国に思えるイスラエル。どう付き合えばいいのだろうか。2014年からイスラエルでイノベーションプラットフォーム事業を展開するAniwoは、イスラエル国内3000社以上のネットワークを持ち、日本企業に、投資先、共同R&D先、実証実験パートナー等として関連スタートアップを紹介し、交渉、連携時のコミュニケーション等の実行フェーズまでをワンストップで支援するサービスを提供している。Aniwo 代表取締役社長 寺田 彼日氏(@Ani_Terada)に、イスラエルの自動車関連企業の動向やパートナー探しのアドバイスを聞いた。


10月26日イスラエルのモビリティ最前線セミナーにAniwoが登壇し詳細を語ります。詳しくはこちら。

ADAS、ライドシェア、ビッグデータがキーワード


----:まず、イスラエルの自動車関連企業(スタートアップ問わず)の動向について教えてください。

寺田氏:イスラエルといえばサイバーセキュリティや医療・ヘルスケア産業が有名ですが、全体で6000社以上あるといわれるスタートアップのうち、自動車関係が5~10%前後と成長分野となっています。また、コンチネンタルがイスラエルの「Argus Cyber Security(アーガスサイバーセキュリティ)」を買収したように、コネクテッドカーとセキュリティ技術の接点は今後も増えていくことでさらなる拡大が期待されています。

----:日本では、イスラエル企業というとモービルアイが有名ですが、他にどのような企業があるのでしょうか。

寺田氏:そうですね、イスラエルでこの分野の老舗というと、やはり、20年ほど前に起業した「モービルアイ」になります。大学発の画像処理技術を応用して単眼の車載カメラセンサーを開発して成功した企業です。現在はOEM供給がメインで世界中のADAS市場の約60~70%のシェアを獲得していると言われています。

現在イスラエルの自動車関連企業・スタートアップで注目している分野は3つあります。ひとつは、モービルアイに代表されるADAS、自動運転に欠かせないセンサー技術の分野。2つ目はライドシェアやMaaS関連のビジネス。3つ目はモバイルアプリやセンサー等によって得られたデータを解析するビッグデータ領域です。

センサー技術関連では、モービルアイの他、LiDAR技術でデルファイと提携した「Innoviz Technologies(イノヴィズ・テクノロジーズ)」、3Dイメージセンサーの「Vayyar Imaging(バイアー・イメージング)」などがあります。

ライドシェア関連では、グーグルに買収されたカーナビゲーションシステムに強い「Waze(ウェイズ)」、イスラエル国内で高いシェアを誇る配車アプリを手掛ける「Gett(ゲット)」が、ニューヨークやロンドンに進出、2017年にはイスラエル発の同業スタートアップ「Juno(ジュノ)」を200億円超えで買収して話題を集めました。「Via(ヴィア)」はタクシーより安く、電車やバスより便利な移動手段として、バンを使った乗り合いタクシーの配車サービスの会社です。ここもダイムラーが出資している他、100億円規模の資金調達に成功しています。

プラットフォームに特徴があるイスラエルのビッグデータ


寺田氏:ビッグデータ解析は、自動車のパーツや製造ラインの故障予測からドライバーのマーケティング分析まで幅広い応用範囲があります。「Otonomo Technologies(オトノモ・テクノロジーズ)」という企業は、自動車メーカーと提携し、車両からの情報を収集、データベース化して、その情報自体を販売するマーケットプレイスを展開しています。「iguazio(イグアジオ)」は、リアルタイムのビッグデータ解析プラットフォームを開発。同社は、シンガポールで「Grab(グラブ)」と連携してリアルタイム需要分析により売上向上に直結するようなサービス開発の支援を行っています。

「Anagog(アナゴグ)」はモバイルアプリのSDK(ソフトウェア開発キット)、AIエンジンを開発している会社ですが、そのSDKを使って開発されたアプリから位置情報や移動等を収集し、世界中のアプリユーザーのビッグデータをマーケティングに活用できるしくみを構築しています。

----:イスラエル企業は非常に競争力が高いように見えます。その魅力の源泉はなんでしょうか。

寺田氏:競争力については、やはり歴史と地政学的な影響があると思います。もともと、ギルドに入れてもらえないユダヤ人たちが、金融というシステムを作り出したように、ゼロから1のビジネスの枠組みを創り出してきた歴史背景。また、周辺国との関係や資源が乏しく内需が少ない状況の中で付加価値を生み出さなければ生き残れない境遇にあったことも関係していると考えられます。


10月26日イスラエルのモビリティ最前線セミナーにAniwoが登壇し詳細を語ります。詳しくはこちら。

イスラエル企業の強みは「Out of the box」


そのため、イスラエル企業はアイデアやコンセプトを作る能力に優れています。イスラエルのスタートアップを象徴する言葉に「Out of the box」というものがあります。枠の外、規定外、常識にとらわれないという意味です。

モービルアイが、カメラで距離を測るには複眼でないとできないとされていたものを、単眼でも画像認識アルゴリズムでカバーしたり、「Anagog(アナゴグ)」がデータを集めるのに、アプリユーザーを集めるためのアプリを自社で作るのではなく、SDKを開発して世界中のアプリベンダーに使ってもらうことでデータ収集を実現していること等からもアプローチの違いが見て取れます。

また、イスラエルでは1993年から政策的に海外VCの誘致に力を入れるなどしてきました。イスラエルのスタートアップエコシステムにはすでに25年もの歴史があり、起業・投資の環境が成熟している点も成功の大きな要因です。25年というと、投資から回収のサイクルもすでに5周くらい回っていることになります。自分が起業し、成功してVCやエンジェル投資家になる人も多く、自身の経験・ナレッジを生かした投資、育成、メンタリングなどのしくみも出来ています。イスラエルの新規開業率は12~13%。失敗してもすぐ次の起業を考えることができ、人材も流動性が高く起業のハードルが低いのも特徴です。

日本の自動車産業は現地スタートアップも注目


----:そんなイスラエル企業、スタートアップは日本市場や日本企業をどのように見ているのでしょうか。

寺田氏:日本の自動車産業は、世界でもプレゼンスが高いので、パートナーシップを組みたがっているスタートアップは多いです。イスラエルに最初に目をつけて成功したのは米国のインテルです。1970年代のことです。現在も投資元は米国がトップで、次にイギリス、ヨーロッパの割合が高くなっています。日本は欧米市場で成功したスタートアップが次に狙うマーケットという位置付けです。

日本企業も約60社がイスラエルに拠点を構えています。50代前後のイスラエル人経営者や起業家は、日本のことを過去のビジネスを通してよく理解しており、中国などとパートナーになるより日本のほうが知財保護・流出に関するリスクが低く、時間を掛けて関係構築すれば長期的な利益が得られるということを理解しています。一方で、若い起業家は、日本の商習慣を理解しておらず長期的な視点が欠けていることもあり、双方にとってもったいないと感じる部分がありますね。

提携は補完戦略、投資はまず10億


----:イスラエル企業と日本企業が提携しシナジーを期待する場合、どんな戦略が考えられるでしょうか。

寺田氏:先ほど述べたように、イスラエルはアイデアやコンセプトを作る能力に優れています。日本はそれを実装したり大量生産したりする製造技術が強いので、ゼロから1の作業を彼らに任せ、1~1000、10000にする部分を考えるといいと思います。

イスラエル企業に投資や提携を考えるなら、まず予算をしっかり確保してから臨んでください。スピード感も重要です。NDAのサインに何週間もかかっていてはダメです。コミュニケーションはなるべくストレートを心掛けることが重要です。日本式の「前向きに検討したい」といった表現は通じません。交渉の最後には必ず「次のステップは?」と聞いてきます。とりあえず会って話をしてみようという感覚だと交渉にすらならないと思ってください。

----:予算についてはどのような考え方すればいいですか。どれくらい必要なのでしょうか。

寺田氏:投資で考えた場合、10億円がひとつの目安になると思っています。例えば、シード、アーリー期のスタートアップへの投資は、統計的に10本打ってそのうち1本から大きく回収できるとすれば、1案件1億円として10億円が必要です。ある程度リターンが見えているミドル以降のスタートアップならかなり狙いを絞れますが…そうなると今度は1件が数億から10億円程度は必要になります。

----:交渉スタイルやスピード感は大企業の場合、注意が必要になりそうですね。

寺田氏:はい。例えば、すでに自社で研究しているからと、テーマがかぶっている企業には会わなくていいという声がよくあるのですが、共同開発による新たな発見やアイデアやコンセプトの融合によるイノベーション創出の可能性は十分あるので、これももったいないですね。90年代からの政府やトップティアVCのバックアップもあり、イスラエルの投資環境、起業エコシステム、産業エコシステムは洗練されています。世界中のVCやグローバル企業がシリコンバレーとともにイスラエルに注目する理由はここにあります。


10月26日イスラエルのモビリティ最前線セミナーにAniwoが登壇し詳細を語ります。詳しくはこちら。

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《中尾真二》

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