【スズキ スイフトハイブリッド 500km試乗】欧州車的な乗り味が濃厚、唯一の弱点は価格か

スイフトハイブリッドの長所と短所は

燃費は条件付きで良好

欧州車のような挙動と乗り心地

スズキ スイフトハイブリッド
スズキ スイフトハイブリッド全 14 枚

第4世代も「泣く子が黙る」のか

スズキのBセグメントコンパクト『スイフト』のハイブリッドモデルで500kmほどツーリングする機会があったので、ドライブインプレッションをリポートする。

スイフトの現行モデルが発売されたのは2017年1月。もともとはアメリカで販売していたミニセグメントの名称だったスイフト(当時の日本名は『カルタス』)をいただく初代が2000年にデビューした時は「泣く子も黙る79万円」というテレビコマーシャルのキャッチフレーズからもわかるように、とにかく安いというのがウリであった。

実はその精神は現行スイフトまで連綿と受け継がれており、装備なども考え合わせるとライバルに比べて明らかに低価格だ。が、この日本では安いだけでは顧客の心をつかめない。第2世代モデルでは、その安いに“良い”が加わった。欧州車ライクな走りとスタイリングを持ち、それでいて価格は安い。モデルライフ途中でアイドリングストップ付きの1.2リットルエンジンが投入された第3世代を2013年に900kmほどテストドライブした時には、抜群の燃費と出色のハンドリング、悪路でもたおやかな乗り心地を持っていることに驚かされた。

そして現行の第4世代。スズキはクルマづくりのアーキテクチャを一新し、ベースモデルで800kg台という超軽量モデルとして生まれ変わらせた。デビュー後間もなくテストドライブした時は、いかにも軽量というクルマとしての動きを持っている半面、この軽いボディでいい乗り味を出すチューニングをつかめないでいるという印象を持った。昨年、マイルドハイブリッドのスポーツグレード「RS」を中距離ドライブしたときも同じ印象であった。
スズキ スイフトハイブリッドスズキ スイフトハイブリッド
今回乗ったのはマイルドハイブリッドと異なり、電気モーターのみでも走行可能なハイブリッドモデルの装備充実グレード「HYBRID SL」。試乗ルートは東京を出発後、茨城、群馬を経て長野の軽井沢に至り、東京へ戻るというもので、総走行距離は500.7km。道路比率は市街地3、郊外路5、高速1、山岳路1。最高気温39度という高温環境で、路面コンディションは全線ドライ、1~2名乗車、エアコンAUTO。

では、テストドライブを通じて感じられたスイフトハイブリッドの長所と短所を5つずつ挙げてみよう。

■長所
1 .車両重量が増えたからか、俄然マイルドになった乗り心地。
2. 欧州向けの足であるRSよりはるかにヨーロッパ車らしい懐の深いハンドリング。
3. クルマの構造、ハイブリッドの特性を頭に入れておけば伸びる燃費。
4. Bセグメントのなかでも短めの全長ながら、4人が座るに十分な居住空間。
5. 簡素ながら十分に高機能な運転支援システム。

■短所
1. クルマの特性に合わせないで運転すると燃費が落ちる。
2. 蓄冷エアコンをおごっているが、ハイブリッド走行が続くとそれでも車内が暑くなる。
3. ハイブリッドシステムにスペースを食われ、狭くなった荷室。
4. 舗装のざらつきが強い場所でのロードノイズの抑え込みは凡庸。
5. 充実装備グレードとはいえ車両価格194万9400円では泣く子が黙らない。

ハイブリッドのパフォーマンス

スズキ スイフトハイブリッドスズキ スイフトハイブリッド
では本題に入る。まずはハイブリッドパワートレインのパフォーマンスから。エンジンと電気モーター1基を組み合わせたパラレルハイブリッドというシステムだが、その電気モーターは出力10kW(13.6ps)、最大トルク300Nm(3.1kgm)と、トヨタ『アクア』、ホンダ『フィットハイブリッド』などのライバルよりずっと小さい。スズキはフルハイブリッドと主張しているものの、モーター走行は限定的であろう――と予測していたのだが、オンロードにおける緩加速時やクルーズ時のエンジン停止状態は予想を大きく上回り、フルハイブリッドに十分区分できる水準だった。

エンジン駆動の割合はノーマルモードとエコモードでかなりの違いがあり、エコモードだとハイブリッドらしさは結構濃厚。速度域が高くなければクルーズや滑走状態だけでなく、ちょっとした緩加速まで、この小さな電気モーターだけでこなすという感じであった。スイフトハイブリッドSLの車両重量は960kgと、仕様や装備が類似している非アイドリングストップグレード「XL」の890kgに対して70kgくらいしか重くなっていない。軽ければ小型モーターでもフルハイブリッドらしさが出せるのだなあと感心しきりであった。

パラレルハイブリッドの場合、制御が適当だとあっという間に駆動モーター用バッテリーの残電力量が足りなくなるであろうところだ。が、スズキおよび部品メーカーの開発陣は能力の小さなこのシステムの制御を相当頑張ったとみえて、回生できるところではこまめにしっかり回生し、モーター走行の粘りを出すことに成功していた。今、自動車の世界では完成車メーカーと部品メーカーの連携に頭を悩ませているが、スズキは部品メーカーとのコラボが上手い。その特質がよく表れているように感じられた。

燃費は条件付きで良好

これは市街地が得意、高速が得意といった話ではなく、ハイブリッドが燃費良く走れる理由のひとつにエンジンを停止できるということがあるということを理解し、どうすればエンジンが止まるのか、クルマの慣性や電力を無駄遣いしないで走れるかといった視点を持っているかどうかという話である。

そういうファクターをガン無視している間は、スイフトハイブリッドの燃費はそれほど良くなかった。せいぜい市街地走行で18km/リットルほどだ。ところが、ホンダのDCTハイブリッドや欧州メーカーが最近展開を始めているスイフトと同じISG(エンジンスタート、発電、駆動の3役をこなす電気モーター)タイプのマイルドハイブリッドで高い効率が得られる、すなわちエンジンストップを意識して作り出すような運転をすると燃費は伸びる。

郊外路、奥軽井沢を走る最高標高1400m超の白糸ハイランドウェイへの駆け上がり、高速道路、都市部などが入り混じったルートでは、燃費は2名乗車で26km/リットル。他のロングドライブレポートに比べて運転が大人しめだったという点を差し引いても、十分に経済的と言えるレベルであろう。

もっとも、モーター走行ばかりしていると夏の暑い時期には快適性が落ちる。ドライブ当日は群馬県の平地で最高気温が39度に達する猛暑であった。そういうときもシステムの特徴に合わせて走ってやれば、スズキのハイブリッドシステムはミニマムな能力を最大限発揮し、エンジン停止状態の時間はかなりの長さになる。それが仇となって、エアコンが効かなくなるのだ。

スイフトハイブリッドの蓄冷式エアコン「エコクール」は、アイドリングストップ状態でもすぐにエアコンの風がぬるくならないような構造を持っているのだが、ちょっとエンジンが動いては延々と止まるという走行パターンが続くと、さすがに蓄冷不足になってくる。ルーフ部や前面ガラス、ドアガラスの断熱性は決していいほうではないという感じで、快適性の落ち幅も大きい。そういう時はエコモードを切り、エンジン走行の比率を高めてエアコンのコンプレッサーを回してやると一気に解決する。

欧州車のような挙動と乗り心地

スズキ スイフトハイブリッドスズキ スイフトハイブリッド
自動クラッチ式の機械式5速AT「ASG」は電気モーターと組み合わされることで変速時の失速感が大幅に緩和され、なかなかいい具合であった。もちろん遊星ギアを用いたトヨタのコンバインドハイブリッド「THS II」やデュアルクラッチ変速機+モーターのホンダ「i-DCD」ほどにはスムーズではなく、強めの加速のときには加速の息つきが発生する。が、シフトチェンジの間もモーターが走行パワーを供給するので、ハイブリッドではない軽自動車『アルト』のAGSに比べればはるかにスムーズだった。手動変速も可能だが、基本的にはDレンジに放り込んだままほっといて一向に構わない。

操縦性および快適性に話を移す。乗り心地とハンドリングは電動システムと並び、スイフトハイブリッドのドライブで印象的だった一点であった。スイフトにはマイルドハイブリッドとダウンサイジングターボの2つのパワーユニットを持つ欧州チューンモデル「RS」もラインナップされているが、乗り心地、クルマの挙動とも、今回乗ったハイブリッドのほうがはるかに欧州車っぽい。車両重量の小さな非ハイブリッドのXLも同じ傾向を示していたので、軽量モデルには柔らかいサスペンションのほうが合うということなのだろう。

今回走ったルートのなかで最も路面が悪かったのは前出の白糸ハイランドウェイ。有料道路だが路面は並みの林道よりも悪く、アンジュレーション、路面のひび割れや損傷などが延々と続くのだが、そういうルートでのサスペンションの不整のいなしぶりはなかなか良い感じで、旧型である第3世代の素晴らしいテイストが一番残っているような感じであった。国道18号線碓氷バイパスや軽井沢と群馬の草津温泉を結ぶ国道146号線は一転、路面の整備状態が良く、高速コーナーの多い路線だったが、そこでも速さはともかくロードホールディングの粘りやクルマの姿勢変化のつかみやすさという点ではRSより印象が良かった。

荷室の使い勝手は限定的

スズキ スイフトハイブリッドスズキ スイフトハイブリッド
車内の居住感は、全長が3840mmとBセグメントのなかでも短いことを考えれば上々であった。フロントシートは旧型第3世代モデルのシートが運転姿勢をしっかり支えてくれる秀逸さを持っていたのに比べるとやや後退した感があるが平均レベルにはある。今回のような500km程度のドライブであれば、大きな不満は出ないだろう。リアシートは作りは簡素だが、ニールームは狭苦しいというほどでもなく、4人ドライブも無理なくこなせる水準。今回は後席で移動する機会はなかったが、これまた東京~軽井沢周遊程度の距離なら何の問題もないだろう。

ハイブリッド化の割りをモロに食っているのは荷室。本来はラゲッジルームの一部である場所をハイブリッドシステムのPCU(パワーコントロールユニット)がガッチリ占有しており、置ける荷物の大きさは限定的だ。もっとも、旅行用トランクを積んだりしないのであれば、大型のボストンバックくらいは十分置ける。もちろんちょっとした日常のお買い物程度なら何の支障もなさそうだった。

運転支援システムはミリ波レーダー方式。昨年にテストドライブしたRSと同様、簡素ながらなかなか高機能だった。車線認識率、車線逸脱のアラートの出し方は、Bセグメントの平均より上で、システムとクルマのマッチングが丁寧に取られている印象であった。前車の速度に合わせてスロットルを自動制御するアダプティブクルーズコントロールもついていて、その制御も悪くなかった。単純なハイ/ロー切り替え式ながらアクティブハイビームも装備されていて、夜間にいちいち手動でハイビーム、ロービームを切り替えないですむのも快適だった。

唯一の弱点は価格か

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スイフトハイブリッドは小さなモーターを使った簡素なシステムながら、モーター走行も可能なフルハイブリッドとしてちゃんと成立しているクルマであった。乗り心地も現行スイフトのなかでは最も良く、ハンドリングもしなやかと、ドライビングの質感も悪くはなかった。荷室は狭いがキャビンは4名乗車には十分の広さで、ベーシックなトランスポーターとしての能力も十分だ。

そんなスイフトハイブリッドの弱点は、価格であろう。ベーシックなハイブリッドSGは泣く子も黙る166万8600円だが、運転支援システムやサイドエアバッグがオプションでもつけられない。一般的に選ばれるであろう今回のハイブリッドSLは194万9400円。同等装備でハイブリッド、アイドリングストップを持たないMLセーフティパッケージは155万5200円で、約40万円もの差がある。そのMLが遠乗りや田舎道では燃費良好だけに、選択が難しい。

敵は身内ばかりではない。最大ライバルであるトヨタ『アクア』に対しては運転支援システムやタイヤ性能、乗り心地で勝つものの、同じような走りをすると燃費性能では負けるし、静粛性もアクアのほうが上。そのアクアにサイド&カーテンレールエアバッグを追加した総額とほとんど価格差がないというのは少々痛い。スズキにとって低価格はブランドの象徴であるだけに、現行装備で179万円くらいにできれば“やっぱりスズキ”と消費者に印象付けることができるであろうし、またハイブリッドモデルへの客付きも良くなるだろう。技術パッケージ自体は非常に良かっただけに、今後に期待したいところだ。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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