ジープ ラングラー 新型のデザイン開発はショットガンアプローチ[デザイナーインタビュー]

ショットガンアプローチ!!

ラングラーはポルシェ911

プロファイルでわからせるということ

ジープをデザインするという難しさ

ジープ ラングラー
ジープ ラングラー全 16 枚

FCAジャパンの主力車種であるジープ『ラングラー』が2018年、11年ぶりにフルモデルチェンジし、導入が開始された。そのデザインはジープのDNAを踏襲しながらプレミアムさを感じさせるものを目指したという。

ショットガンアプローチ!!

----:ラングラーは11年ぶりにフルモデルチェンジしたのですが、そのことが決まった時、デザイナーとしてはどういう気持ちでしたか。

FCAジープエクステリアデザイン担当マネージャーのクリス・ピシテリ氏(以下敬称略):私一人だけではなくデザインチームとしてもエキサイティングだと思いました。その理由は、ラングラーはジープブランドのアイコンですから、とても重要なクルマです。そのフルモデルチェンジということでとてもエキサイティングだと思ったのです。

----:実際にデザインをするにあたり、11年間の市場環境の変化等も含めどのようなデザインにしようと考えましたか。

クリス:どんなデザインプロジェクトでもそうなのですが、まずは“ショットガンアプローチ”でスタートしました。これは様々なアイディアをまずは片っ端から試してみるということです。今の規定の路線を守るところから、大きく離れたところまで様々なアプローチをトライしてみたのです。

----:そのショットガンアプローチでは広くデザインの方向性を探ったと思うのですが、最終的にはどのあたりに照準を合わせたのでしょう。

クリス:バランスをとるということを考えました。すなわちジープのアイコンとしての存在であることを踏まえながら、全てのディテールについて再考したのです。全体的なプロファイルでいうと、これまでの規定路線、トラディショナルなところにすごく近いのですが、ディテールについては全く異なっているということです。

実際に駐車場にJK(旧型)とJL(新型)が並んで駐車しているのを遠くから見ると、この2台はものすごく似ていると感じますが、近寄って見た場合には全然違っていることがわかるでしょう。

ラングラーはポルシェ911

----:あなた自身としてはもっと既定路線から外れたデザインにトライしてみたかったとは思いませんでしたか。

クリス:よく我々自身がジョークとしていうのですが、このラングラーは我々にとってポルシェ『911』のようなものです。これはアイコンとなるクルマですから、それをリデザインし、成立させるためにはものすごく細い道(その範囲はすごく狭いという意味)をたどって行くしかなくて、あまりワイルドにやりすぎてしまうとアイコン性が失われてしまうのです。

----:今、「失われる」とおっしゃいましたが、今回のラングラーをデザインする上で最も重要なポイントは何だったのでしょう。

クリス:ぱっと見てすぐにラングラーだとわからなければいけないということと、全ての点においてこれまでのモデルよりも良いと思われなければいけません。これはもっとプレミアムでもっと成熟したものを全てにおいて表現しなければいけないということです。

----:プレミアムで成熟というところは具体的にどういったところで表現されているのでしょう。

クリス:ディテールの全てが洗練された形であり、かつ全てのチリなどがきちんと合っていることが重要です。特にインテリアにおいては、これまでよりもものすごく、何マイルも進化したといってもいいでしょう。素材は本物のオーセンティックなもの、例えば本物の金属を使ったり、ライブステッチングを行なったりもしています。

----:エクステリアではどうですか。

クリス:グリルが良い例ですね。JKのグリルは結構フラットであまり形がはっきりしていなかったのですが、新型ではヘッドライトがグリルの中に入り込んでいたり、横から見ると若干くの字に折れ曲がっているなど、色々なディテールが変わって、そういったところでプレミアムさや成熟したイメージを表現しています。

クルマの周りを一回りすれば、どのパーツも何かしら見直しがなされていることがわかるでしょう。

プロファイルでわからせるということ

----:遠くから見ると同じクルマに見え、近くでは違うクルマに見えなければいけないというのは非常に難しいことだと思います。そこで、遠くから見てラングラーだとわからせるポイントは何でしょうか。

クリス:プロファイルだと思います。フロントウインドウが立っていたり、台形のホイールアーチを備えていたり、そういった具体的なエクステリアの部分がまさにラングラーだとわからせるものです。

----:言い方を変えると、それらがラングラーのデザイン上でのDNAと捉えていいのでしょうか。

クリス:その通りです。台形のホイールアーチ以外にもセブンスロットグリルなどもそういえるでしょう。

ジープをデザインするという難しさ

----:ジープをデザインするというのは非常に難しいことだと思います。今お教えいただいたようにそのブランド固有のデザイン、DNAが決まっていますので、それを踏まえながら改めてデザインすることについての、苦労はどういうものなのでしょう。

クリス:ジープブランドといっても色々なモデルがあります。ポジショニングすると、一方にラングラーがあるとすれば、もう一方に『グランドチェロキー』があります。その間にあるクルマたちは色々なデザインが考えられるでしょう。しかしラングラーはその端にありますから、そこはかなりエスタブリッシュ、確立されているものです。その中でデザインを考えるということが難しいのです。そこで失ってはならない部分が大きくありますから。

----:ではジープブランドの中であなたが「自由にデザインしてもいいよ」と言われたら、どんなデザインのジープを作りたいですか。

クリス:すごく複雑ですね。どのアイスクリームは好きかといわれているような感じ。全部アイスクリームは好きなのでそれを聞かれているみたいです(笑)。

あまりにも広い質問なのでぱっとは答えられないのですが、おそらくはそれぞれのブランドで、限界値を超えてパフォーマンスなりケイパビリティを追求していく、そういったことをしてみたいとは思います。

----:そうすると今のデザインを型破るような、今の世界観から一気に脱出してみたいようなイメージですか。

クリス:デザイナーとしては常に新しいもの、イノベーティブなもの、面白いものを求めていくという傾向ありますので、常にその限界を押し上げていくように進めるという思いはあります。

《内田俊一》

内田俊一

内田俊一(うちだしゅんいち) 日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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