「eモビリティには年々投資を増やしている」、ボッシュの近未来モビリティ戦略とは?…東京モーターショー2019[インタビュー]

ボッシュ 取締役のシュテハン・ハルトゥング氏(右)とボッシュ ジャパンのクラウス・メーダー代表取締役(左)
ボッシュ 取締役のシュテハン・ハルトゥング氏(右)とボッシュ ジャパンのクラウス・メーダー代表取締役(左)全 20 枚

ボッシュ(BOSCH)の歴史は、クルマの進化の歴史でもある。1886年に創設されたボッシュは、ドイツに本拠を構える老舗の自動車機器サプライヤー(部品メーカー)だ。日本はもとより、グローバルな市場への対応を積極的にサポートし、現在も新世代のエコロジー&エコノミー技術や安全技術、次世代のエネルギー技術など、未来を見つめた技術に挑戦を続けている。また、その革新のテクノロジーをベースに、さまざまなフィールドへと活躍の場を広げるようになった。

このボッシュ・グループの日本とアジアにおける戦略的な拠点となっているのが、日本のボッシュだ。日本で事業を開始したのは、1911年(明治44年)である。以来、ボッシュはモビリティソリューションズや産業機器テクノロジーなど、4つの事業領域において強固な基盤を築き上げ、ユーザーのニーズに応じたサービスや製品を提供してきた。

東京モーターショー2019のボッシュブースにおいて、ロバート・ボッシュGmbHの取締役会メンバーであり、モビリティソリューションズ事業セクターを統括している取締役のシュテハン・ハルトゥング氏は、ボッシュが進める電動化と自動化、そしてネットワーク化に関する概要についてコメントした。また、今後はパーソナライズ化を含めた「PACE(パーソナライズ化、自動化、ネットワーク化、電動化」を通じてソリューションを展開していくことも説明している。

ハルトゥング氏と、ボッシュ ジャパンのクラウス・メーダー代表取締役に直接インタビューする機会を得たので、e(電動)モビリティを中心に、今後のボッシュの技術戦略について話を聞いた。

全てを一貫したeモビリティソリューションの強み

ボッシュブース(東京モーターショー2019)ボッシュブース(東京モーターショー2019)----:2019年のIAAでは「2018年初頭からeモビリティ領域の受注総額が130億ユーロを達成した」と発表がありました。

ハルトゥング氏(以下敬称略):eモビリティに関しては年々投資を増やしています。その結果、受注が増え、売り上げも伸びてきました。私たちは、このeモビリティの市場は今後も成長を続けていくと思っています。そのためのテクノロジーを研究し、磨くために、かなりの投資を続けているのです。

----:競合する他のメーカーに対し、ボッシュが持っているアドバンテージはどのようなところにあるのでしょう。

ハルトゥング:成功している理由は、eモビリティのソリューションというものが、比較的長く、簡単に作れる部分にあります。性能的にもよいことが立証されているので安心して使ってもらえます。他社ブランド製品をを製造するOEM(相手先ブランド名製造)にとっても使いやすいから選んでくれるのでしょう。テクノロジーについては、今後も技術を磨いていきたいと考えています。もうひとつの強みは、単にソリューションということではなく、半導体レベルからコンポーネンツに至るまで、すべて統合するところまで一貫してできているため使いやすいことです。

----:これから先、電動化は避けて通れないと思います。今の時点での電動化のトレンドと今後の電動化戦略について教えてください。

ハルトゥング:持続可能性のあるモビリティを基本に置いています。そのために多岐にわたってオープンな形で対応しているのです。いろいろなコンポーネントについても、半導体の部分からシステムに至るまで、幅広く開発しています。自動化や電動化の方向は正しいと思います。これからはバッテリーをベースにした電気自動車が続々と登場してきます。充電の時間を早くするため800ボルトといった急速充電器のトレンドが出てくるでしょう。また、バッテリーのエネルギー効率という面ではバッテリーのサイズや航続距離が議論されるようになります。

----:電気自動車の先にある燃料電池車についても視野に入っていますね。

ハルトゥング:電気自動車の先にある燃料電池車では、個人が所有するプライベートなクルマに代わってフリート契約の企業がたくさんのクルマを抱えて運用するようになるでしょう。そのなかでコネクティビリティなどのマネージメントをフリート単位でやっていくことになりますが、私たちは車両のトレンドを決めることはありません。OEMの方たちに車両のパッケージングやプランなどを決めてもらい、それに対して必要なものを提供するスタンスを取ることになります。狭い視野でなく、ニーズのあるところに幅広く提供したいと思っているのです。

----:内燃機関もすぐには無くならないと思います。

ハルトゥング:電気自動車も増えてきますが、これまでの内燃機関もすぐになくなることはないと思います。だから内燃エンジンについても意欲的に開発を続けています。グローバルリーディングサプライヤーとして、私たちは排気ガスをできるだけ削減した、より安全で、魅力的なモビリティを追求し、提供したいと思っています。エンジンにモーターを組み合わせたハイブリッドシステムも、ストロング、マイルド、そしてプラグインハイブリッドと、すべてを研究しています。

日本の軽自動車には48ボルトバッテリーが適している

ボッシュ 48Vバッテリーボッシュ 48Vバッテリー----:日本では高電圧のフルバッテリーを用いたストロングハイブリッドが主流ですが、ヨーロッパや中国では48ボルトのバッテリーの需要が高まっています。48ボルトの可能性と強みについて教えてください。

ハルトゥング:48ボルトのバッテリーは、それほど高電圧を必要としないものに使え、弱点をカバーできるなど、適用範囲が広いのが強みです。このシステムは4輪車だけでなく2輪車にも使えます。プラグインハイブリッドのように、ハイボルテージのバッテリーを必要とするクルマもありますが、逆に高い電圧を必要としないクルマもたくさんあるのです。2輪車の48ボルト仕様なら、電気の高電圧技術士の免許資格のない人でも扱うことができるし、修理もできます。100kWの製品を必要とする人ばかりではないのです。20kWで足りる人もいるので、それで足りるクルマやオートバイには魅力的だと思います。

メーダー氏:(以下敬称略)48ボルトのバッテリー仕様はパワートレインに装着しやすいなど、簡単に使えるのが魅力です。すべてのクルマとは言いませんし、メーカーさんの考え方次第ですが、日本でも48ボルトでいいと考えるクルマがあると思います。48ボルト仕様で足りるクルマがあれば、電気自動車が主流になる時代までの間、気持ちよく使うことができるのです。これは魅力的だと思いませんか?

----:48ボルトバッテリーが最適だと思う日本車は何でしょうか。

メーダー:日本は軽自動車が販売の3分の1を占めています。スモールカーや軽自動車は排気ガス規制が厳しくなると気筒数や排気量を減らし、その分を電動化に回すことになるでしょう。こういった場面では48ボルトバッテリーのメリットが生きてきます。

----:ボッシュはブロックチェーンを活用した電動車向けの新しい充電システムやバッテリー寿命を延ばすクラウドサービスなど、他社との協業も含め、インフラやサービスの開発も行っています。

ハルトゥング:日本でも将来的には個人でクルマを持つことは少なくなり、フリートに移ってくると考えています。基本的には、タクシーのヘイリングサービスや営業車の配車サービスなど、大きな数のクルマを相手にしている企業のバッテリーカーがサービスの対象になります。フリートだと、バッテリーの状態がどうなっているのかの履歴を知っておく必要があるし、寿命や交換時期などをデータとして持っていることが大切なんです。バッテリーの価格は高価ですからね。これからはフリート単位でクルマを持つ流れになってくるでしょうから、このようなバッテリーに関するサービスは重要になってきます。

メーダー:たとえばタクシー会社がバッテリーベースの電気自動車を、自動車メーカーと1年のリース契約を結んだとします。契約は1年で、満期になったら返却するのですが、クルマの状態やバッテリーの状態によって中古車になったときの価値に差が出てきますね。荒っぽい使い方のドライバーにはデータを見せ、ていねいに乗ってもらうようにアドバイスします。健全な形でクルマに乗り、いい状態で返却することができれば、バッテリーの数が多い企業にとってはうれしいと思います。

----:日本でも、このシステムを導入するのでしょうか?

ハルトゥング:今のところヨーロッパと中国で事業を展開していますが、日本のようにバッテリーベースの電気自動車が多いところは有望な市場だと思っています。

レベル3までは新しい形のクルマとドライバーの協調がある

ボッシュブース(東京モーターショー2019)ボッシュブース(東京モーターショー2019)----:コネクティッドやADAS(自動運転)の分野では、今後、どのような技術開発を行っていくのでしょうか。

ハルトゥング:レーザーとビデオカメラを組み合わせたシステムを重点的にやっていますが、高価なので投資に見合った経済効果が出せるのかを細かく検証しています。また、ADASは制御の仕方についての議論も数多く行っています。荒っぽい運転をしている人だと安全のためにシステムが介入することをお節介だと感じる人もいるでしょう。制御を緻密にし、非常時を含めスムーズに自然な感じで介入して助けてくれるようにしました。これを「レベル2プラス」と呼んでいます。

ハンズオフも、飛行機と違って手を離す時間が10秒以上は危ないと考えています。だから走行中のドライバーの状態を常に監視することによってドライバーとクルマのやり取りをシームレスに、違和感なく行えるようにしたいと思っています。万一のときも、今はセンサーが滑っていることを検知し、これを修正して挙動の乱れを抑え込んでいます。が、これからは滑る前に挙動が乱れることの予測を行い、ドライバーが分からないようにクルマを安全方向に導くのです。

----:急速に進むであろうコネクティッドに関してはどうでしょう。

ハルトゥング:コネクティッドの時代になると、それぞれのクルマのセンサーが周囲の状況までも判断しながら、AIと連動してモーターの制御に介入します。また、ドライバーの気が散ったり、電話をしているときなどは、クルマのほうから注意を喚起することもあります。場合によっては電話を切ったり、オーディオの音量を下げたりします。いつの時代も自動車にはリスクがあるのですが、レベル3までは新しい形のクルマとドライバーの協調があると思っています。

----:ありがとうございました。次の世代の自動車に夢が膨らみます。

《片岡英明》

片岡英明

片岡英明│モータージャーナリスト 自動車専門誌の編集者を経てフリーのモータージャーナリストに。新車からクラシックカーまで、年代、ジャンルを問わず幅広く執筆を手掛け、EVや燃料電池自動車など、次世代の乗り物に関する造詣も深い。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。

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