求められる販社の自立と新しい付加価値、“ハレの日”演出する「おでかけクローゼット」のねらい

カーシェアと一緒にファッションも利用する「おでかけクローゼット」。トヨタカローラ中京は様々なモビリティサービスを提案する
カーシェアと一緒にファッションも利用する「おでかけクローゼット」。トヨタカローラ中京は様々なモビリティサービスを提案する全 11 枚

カーシェアとファッションレンタルを組み合わせた「おでかけクローゼット」というサービスを展開するディーラーがある。旅行や外出に、お出かけ用の服をレンタルするだけでなく、移動の車もいっしょに借りてしまおうというものだ。どういうサービスなのか、またその狙いを取材した。

運営するのは「トヨタカローラ中京」。愛知県の中堅ディーラー(販売会社)だ。同社はCASE車両やモビリティ革命に揺れる業界の中、新しい取り組みに積極的であり、昨年には「モビリティゲート吹上」という車を売ることが第一目的ではない店舗をオープンしている。おでかけクローゼットも、このモビリティゲート吹上で実施されているサービスだ。

試験的な取り組みでもあるため、とりあえず12月以降の展開は未定だが、同じサービス名で次なる展開も考えているという。

どういうサービスなのか

「おでかけクローゼット」イメージ「おでかけクローゼット」イメージ
おでかけクローゼットは、「トヨタシェア」による車両の貸出とファッションレンタルの「EDIST.CLOSET」をいっしょに申し込めるというサービスだ。 EDIST.CLOSETが選んだコーディネートを参考に借りたい服と利用日を選ぶ。ファッションレンタルを申し込んだら、次に借りたいクルマをトヨタシェアで申し込む。あとは予約日にモビリティゲート吹上にくれば、服と車両が用意されているという寸法だ。ホームページには、愛知県の情報誌KELLYの編集部が考案した、車両、ファッションの組み合わせに合う目的地の提案もある。

たとえば、紅葉シーズンのドライブとして、愛知県 稲沢市祖父の江銀杏林にアースカラーのブラウスとワンピースの組み合わせがセット提案されている。コーディネートは現地のシチュエーションだけでなく、運転がしやすい素材を考えて選ばれている。

ドライブや旅行にレンタカーやシェアカーを使うのは、これまでも普通にあったサービスだ。とくに気軽に車を持てない若い人は、旅行やイベントにレンタカーを使うのがむしろ普通になっている。ファッションについてもコーディネートを含めてサブスクリプションサービスが広がりつつある。おでかけクローゼットがターゲットとするのは、30代女性。それもビジネスウーマンだという。

「おでかけクローゼット」イメージ「おでかけクローゼット」イメージ
「おでかけクローゼットは、トヨタシェアとライフスタイルをうまく組み合わせたサービスを考えていたとき、女性の間でファッションレンタルが流行っているということから生まれました。名古屋は車の所有率が高く、シェアカーやレンタカーのニーズが東京などとは異なります。足や荷物を運ぶための日常の車よりは、“ハレ”の車と提案が必要だと考えました。カーシェアは日常の足の確保より、おでかけクローゼットのような体験提案型のほうが芽があるだろうと見ています。」(トヨタカローラ中京 バリューチェーン推進部 モビリティ・ソリューション室 室長 今田陽一氏)

トライアルの中から今後のディーラーモデルを模索

「おでかけクローゼット」で借りることができるトヨタシエンタ「おでかけクローゼット」で借りることができるトヨタシエンタ
たとえば、用意される車両は鮮やかな黄色(エアーイエロー)の『シエンタ』。普段は乗らないような色、所有を考えたら選択しにくいクルマでも、ハレの日の外出や旅行ならばと、あえて特徴のある車とプランを提供している。このように目的とターゲットを絞っているので、サービスコンセプトはわかりやすい。だが、逆にいえば市場がピンポイントになりやすく、新しい挑戦としてはハードルが高くなる傾向は否めない。

実際、申し込み者のアンケートでは「コンセプトは面白いが、新しすぎてハードルが高い」という声もあった。しかし、手応えはあるそうだ。まず協力を仰いだEDIST.CLOSETは、ネット専門でファッションレンタルを展開していたが、WEB企業故にリアルなタッチポイントに課題があったところ、今回のコラボは顧客との新しいタッチポイントを作れると歓迎された。顧客との接点が増えるという点では、ディーラー側も同様だ。

「おでかけクローゼット」イメージ「おでかけクローゼット」イメージ
次の展開として、たとえば釣り、キャンプ、スキー・スノボのようなレジャーと『ランクル』などSUVの組み合わせ、『スープラ』のような尖ったクルマの活用など、おでかけクローゼットの枠組みを広げるというアイデアもある(トヨタカローラ中京 取締役 バリューチェーン推進部長 村木正人氏)という。

メーカーが製造業からモビリティカンパニーを目指すなら、販売会社も新車販売に依存したビジネスからの転換が求められる。どう転換するのが正解かは、現時点ではわからないし、正解はひとつではないとすれば、おでかけクローゼットのような取り組みやトライアルはむしろ必然といえるだろう。

独自性と地域貢献を通じた生き残り策

モビリティゲート吹上モビリティゲート吹上
そもそも、トヨタカローラ中京はなぜモビリティゲート吹上を立ち上げたのだろうか。

「もともとは7年前に今の社長が就任したとき、業界での生き残りをかけて積極的な改革に取り組みました。とくに近年はCASEをはじめ、モビリティに求められる期待が高くなっています。5月には、トヨタの全販社がどの車両も扱う併売が前倒しする形で始まりました。大手販社もさまざまな取り組みを展開していますが、我々のような規模のディーラーこそ、機動性を生かした戦略で改革を進めないと生き残れないと思っています。モビリティゲート吹上は、地域貢献を考えながら、その取り組みを実践していく施設です。」

CASE、MaaS、あるいは社会の車離れによって、新車製造販売メインのビジネスモデルの変革を余儀なくされているのは、メーカーだけではない。販売会社、つまりディーラーにもまったく同じことが言える。トヨタの全車種全販社併売は、そのひとつのメッセージといえる。おそらく将来的にはディーラー専売モデルは統合され、車種による販社の棲み分けは期待できない。トヨタとしては販社・ディーラーの自立を促したいはずだ。

トヨタは、モビリティゲート吹上のような販社独自の取り組みを応援しているという。しかし、このトヨタの理解も、いわば業界の厳しい現実の裏返しでもある。競争が激しくなるなら、ただメーカーが作ったクルマを並べていても販売網が大きい大手にはかなわない。その車両を使って他店舗との差別化につながる新しいビジネスモデルを作れるかどうかが生き残りの鍵だろう。

地域の特性を生かしたビジネス、人々のライフスタイル支援など、ディーラーの新しい機能構築は急務だ。

《中尾真二》

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