前橋市が直面する「クルマ社会が進んだがゆえの移動問題」とは【岩貞るみこの人道車医】

意見をその場でイラストにしていく、グラフィックレコーディング。グラフィック・カタリスト・ビオトープ(GCB)による速記。
意見をその場でイラストにしていく、グラフィックレコーディング。グラフィック・カタリスト・ビオトープ(GCB)による速記。全 10 枚写真をすべて見る

クルマ社会が進んだがゆえの移動問題

2021年1月27日、群馬県前橋市で、内閣府戦略的イノベーションプログラム自動運転(SIP-adus)が主催する、市民ダイアログが開催された。自動運転に対して、市民はどんな期待と不安を持っているのか、対話をしながら意見を聞く機会である。東京都をはじめとする府県が緊急事態宣言中ということもあり、開催はリアルではなくリモート。私も、SIP-adusの委員として参加した。

各自治体が抱えている移動問題は、町の規模、年齢構成、気候風土などによってそれぞれ異なる。内閣府SIP-adusの施策としては、国交省道路局が行っている「中山間地域における道の駅等を拠点とした自動運転サービス」があるが、これはどちらかというと、山間部などで住民の高齢化が進み、免許証返納や路線バスの廃止などで移動がむずかしくなった住民に対し、移動手段のひとつとしての実験である。

大口敬氏のSIP-adus紹介大口敬氏のSIP-adus紹介
一方、今回、市民ダイアログを開催した前橋市の場合は、少し異なる。町の規模は大きく、特に問題になるほど高齢化も進んでいない。

前橋市の問題は、クルマ社会が進んだがゆえの移動問題である。クルマで買い物がしやすいようにと、商業施設はどんどん郊外に作られた。広い駐車場が設けられ、クルマで買い物に行くのが便利になったのはいいけれど、住民が高齢化するにつれ、運転に不安を感じて運転を自粛~免許返納という流れになり、郊外にあるスーパーに行けない問題が発生してきたのである。もちろん、スーパーに客をうばわれた近くの店は、閉店しているところが多く、このままだと、多くの市民が買い物難民になりかねないのだ。

人間同様、街も時間の経過と同時に変化する。それに応じた移動手段が必要になってくる。

前橋版MaaSとは

グループAの前半の意見。グループAの前半の意見。
また、前橋市の中心部にある会社は、事務所の家賃よりも社員や客のために確保する駐車代金のほうが高くなるケースがあるという。さらに、市がアンケートで前橋市に住み続けたくないという回答者に理由をたずねたところ、「交通の便が悪い」が半数以上を占めたそうだ。

市民に長く住んでもらい幸福度を上げることは、市の最大のミッションである。前橋市では、2020年9月4日に、交通革命のスタートを宣言した。だれでも移動でき、交通事故を減らす革命である。群馬大学などと連携し、自動運転、AIによる効率運行、乗り合いによるコストカットなどの手法を使って、前橋版MaaS(Mobility as a Service)環境を整えていくという。

具体的には、JR前橋駅を中心としたバス路線が、一定期間乗り放題になるデジタルフリーパスや、指定した区域内なら500円で自由に移動できるオンデマンドタクシー。また、これらふたつを利用する際には、ICカードとマイナンバーカードを連携させていくシステムなどが実証実験中だ(2020年12月21日~2021年3月12日)。

また、群馬大学などは2020年に、自動運転の実証実験を行ったのだが、2021年は2月15日~28日に、だれでも乗れる自動運転バスを走らせる。ここでは、事前登録しておけば、顔認証システムもテストするという。

生活を豊かにするための手段である、ということ

グループBの後半の意見。グループBの後半の意見。
このように、交通版スーパーシティにまっしぐらな前橋市の市民は、自動運転をどう受け止めているのか。

市民ダイアログでは、大学生、シニア層、公共交通事業者、現役世代、主婦など15名に集まっていただいた。さらに、議論をまわすモデレータ役は、未来を作る世代である、群馬県立前橋高校の生徒である。高校生は免許こそ持っていないけれど、彼らが移動する場合は、自転車を利用することが多い。自転車事故率が非常に高い前橋市では、自転車から見た安全対策も、とても重要なのである。

今回の市民ダイアログを通して見えてきたのは、実証実験中の自動運転を見た人たちは、それまでの不安が払しょくされ、期待が大きくなっているということ。やはり人は、オバケといっしょで、知らないものやわからないものは怖いのである。

さらに、強く感じたのは、議論に参加した多くの人が、移動をどうこうではなく、どんな街にしていくかを強く意識していたことだ。改めて、自動運転もAIによる配車システムなども、目的ではなく、生活を豊かにするための手段にすぎないということを強く感じた。

移動には、車両だけでなく道路などのインフラもかかわってくる問題だけに、長い時間が必要なことはまちがいないけれど、強いリーダーシップのもと、市民もいっしょに進めていく意志がすごく伝わってきたのである。

今回、モデレータをしてくれた県立前橋高校の2名の生徒の画面の向こうでは、何人もの高校の仲間たちがサポートしてくれていたという。彼らが大人になったときの前橋市は、どう変化を遂げるのか。とても楽しみである。長生きしなくっちゃ!

参加してくれた市民の方々、前高の生徒さんには、この場をお借りして、改めて御礼申し上げます。

リモート会場。コロナ対策で少人数。パソコンの向こうにいる市民の方と意見交換。モデレータの県立前橋高校の生徒は、リモートという条件のなかすばらしい仕切り。リモート会場。コロナ対策で少人数。パソコンの向こうにいる市民の方と意見交換。モデレータの県立前橋高校の生徒は、リモートという条件のなかすばらしい仕切り。

岩貞るみこ|モータージャーナリスト/作家
イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。主にコンパクトカーを中心に取材するほか、ノンフィクション作家として子どもたちに命の尊さを伝える活動を行っている。レスポンスでは、アラフィー女性ユーザー視点でのインプレを執筆。コラム『岩貞るみこの人道車医』を連載中。

《岩貞るみこ》

この記事はいかがでしたか?

ピックアップ