【VW ティグアン 新型試乗】ほんのわずかな変化が、実は大きな変化だった…中谷明彦

VW ティグアン TSI R-Line
VW ティグアン TSI R-Line全 23 枚

フォルクスワーゲン『ティグアン』には「Active」「Elegance」「R-Line」という3グレードがあり、その中で一番装備的にも上級となる『ティグアン TSI R-Line』に試乗した。

試乗モデルの仕様は値段が車両本体価格で503万円、レザーシートやオプション類等で約50万円プラスされるので550万円ほどの車ということになる。

今回の新型ティグアンは「フルモデルチェンジ」ではなく「ビッグマイナーチェンジ」だといえる。現行型ティグアンは2017年に登場し「MQB」という新しい世代のプラットフォームを採用したモデルであり、『ゴルフ7』や近日登場予定の『ゴルフ8』でもこのプラットフォームを採用しているという事で世界的にも話題となった。

新パワートレインにSUVとは感じさせない形

VW ティグアン TSI R-LineVW ティグアン TSI R-Line
新型ティグアンの特徴は、従来のエンジンが1.4リットルであったのに対し、1.5リットルのTSIターボチャージドエンジンとなったこと。一見するとほんのわずかな排気量のアップに見えるが、エンジン自体は新設計されているため大きな変化となっている。

トランスミッションも従来の「DSG」というフォルクスワーゲン独自のツインクラッチタイプを採用しているが、今回の新型ティグアンは従来の6速に対して7速となったことで、パワートレイン全体としては新しくなったといえる。

デザイン的にはフロントバンパーのルックスが大きく変わり、よりスポーティーでワイド&ローのフォルムになった。遠くから見てみるとSUVとは感じさせない乗用車的な形に見える。

車のサイズとしては、全長が4515mmで従来のものより15mm伸びたそうだが大きく変わってはいない。全幅は1840mmで、国産車でいうとマツダ『CX-5』とほぼ同じサイズだ。ホイールベースや全高もほとんど変わっていないが、フロントバンパーのデザインが変わったことで若干フロントエンドの車高、ロードクリアランスが低くなったように見え、アプローチアングルという悪路での走破性は若干落ちていそうな印象を受ける。

VW ティグアン TSI R-LineVW ティグアン TSI R-Line
僕はどちらかと言うと”SUVでFF車”というのはあまり認めたくないのだが、実は今回導入される新型ティグアンは全てFFモデル。従来は4モーションという四輪駆動モデルもあったが、今回の1.5リットルのラインナップは全てFF車ということを聞いて少々がっかりしながら走らせていた。

今秋には『ティグアン R』という2リットルTSI直噴ターボエンジンを搭載し320psを発揮するハイパワーモデルが登場する予定だそうで、その車には4モーションの四輪駆動が採用される。さらに、リアのアクスルに左右の駆動力配分をするヨーコントロールが可能な全く新しいシステムを搭載しているという事で、登場したらぜひ試乗してレポートしたいと思っている。

高級車としての洗練度を高めた

VW ティグアン TSI R-LineVW ティグアン TSI R-Line
今回の新型ティグアンは、SUVとしては非常に高級感が増し、従来よりも静粛性や乗り心地、サスペンションの動きも非常に滑らかでロードホールティングのいい仕上がりになっている。

元々「DSG」は非常に完成度が高かったが、今回の7速仕様も変速制御が洗練されているような印象を受ける。特に山道を走っていると2速3速を頻繁に変速するが、変速ショックがほとんどなく、逆にターボのトルクピックアップによってトルク変動が感じられるというようなところだ。ただそれによるトルクステア等はなく、走りやすい。

もともとティグアンはミドルサイズのSUVで、世界的にも90万台以上売れている非常に人気が高いモデル。比較的スクエアな四角い角ばったデザインなので車の四隅の視認性や取り回しが良く、非常に運転しやすいため、市街地ユーザーから山岳地が生活圏のユーザーまで幅広い層に受け入れられてきた。その特性は新型ティグアンも継承しており、さらに高級車としての洗練度を高めていると言えるのだ。

コクピットのメーター周りは新世代のものに切り替わっていて、タッチパネル式だが3ゾーンに操作系が分離していて非常に扱いやすい。エアコンのスイッチ類や大型化されたセンターのモニターも見やすく、メーターナセルの中にもナビゲーションがフル表示されるような視認性の高いものになっている。

VW ティグアン TSI R-LineVW ティグアン TSI R-Line
新しい装備である「トラベルアシスト」はアダプティブクルーズコントロールを進化させたもので、ステアリング状のスイッチひとつでアクティベートし0km~210km/hの高速域でも有効なアダプティブクルーズコントロールとなっている。

レーンキープアシスタンスは車線の中央を常に維持するようにセットアップされ、スイッチひとつで起動できるので実用性が向上したと言える。

その他にはドライバーをモニターして、例えば意識を失っていたり、具合が悪くなったようなドライバーに対して警告を発し、それでもドライバーが運転に復帰できない場合は自動的に同一車線内で停止させるという安全機能も備わった。電動化が進んでいる中でこういった電気関連装備も幅広く採用されるようになっていて、一般道や高速道路での日常的な実用性も上がっている。

ヨーロッパ(ドイツのアウトバーン)では200km/hオーバーで走行できるようなエリアもあり、日本では120km/hまでしか使えないが、超高速レンジにも適合させられた装備なだけに信頼性は高い。

四駆の走破力を備えてほしい、のが正直な感想

VW ティグアン TSI R-LineVW ティグアン TSI R-Line
インテリアに目を向けると、非常に広く後席の居住性もかなり高い。後席にもシートヒーターが備わっていたり、BMW『X3』やメルセデスベンツ『GLC』にも匹敵する。今までのティグアンよりも高級装備が充実させられた印象だ。

世界的に見てこのクラスの車は競争が非常に激しいクラスなので、今後4モーションが追加され四輪駆動車として走破性の高いモデルが加われば、個人的にも非常に興味があるモデルになると言えるが、現状FF車ということを考えるとやはり市街地ユースがメインで山岳地帯の悪路等には踏み込まないユーザー向けの車である。

最近はプジョーやシトロエンもFFのSUVモデルが販売面で優れているし、四輪駆動ではなくても装備を充実させ価格を高めに設定しているのでメーカーとしての利益率も高そうだ。車を日々様々なシーンで走らせる我々にとってSUVは四輪駆動車としての走破力を備えていてほしいというのが正直な感想だ。

中谷明彦氏中谷明彦氏

■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★
オススメ度:★★★

中谷明彦|レース&テストドライバー/自動車関連コンサルタント
大学在学中よりレーサー/モータージャーナリストとして活動。1988年全日本F3選手権覇者となるなど国内外で活躍。1997年よりドライビング理論研究会「中谷塾」を開設、2009年より東京大学と自動車新技術の共同研究に取組む。自動車関連の開発、イベント運営など様々な分野でのコンサルタントも行っている。

《中谷明彦》

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