【ダイハツ タフト 600km試乗】日常の実用性はバッサリ、だけど遊びグルマとしてイケている

ダイハツ タフト Gターボ FWD。空力特性にこだわる近年のダイハツには珍しく、細部に空力デザインがほとんどみられない。
ダイハツ タフト Gターボ FWD。空力特性にこだわる近年のダイハツには珍しく、細部に空力デザインがほとんどみられない。全 24 枚

ダイハツの軽クロスオーバーSUV『タフト』で600kmほどツーリングを行ってみたのでインプレッションをお届けする。

タフトは昨今日本でも盛り上がっているSUVブームを当て込んだモデルで、2020年6月に発売された。ダイハツは特定のプラットフォームを持つのではなく、エンジンルーム、キャビンの長さや幅、いろいろな形式や容量のサスペンションをブロックのように組み合わせるモジュール工法「DNGA」に移行しており、タフトはスーパーハイトワゴン『タント』、小型SUV『ロッキー』に続くDNGA第3弾。その意味ではベースを持たず、独立色の強いモデルである。

ダイハツは過去にもクロスカントリー4×4の『テリオスキッド』、クロスオーバーSUV『キャスト アクティバ』などの軽SUVを投入してきたが、商売的には敗北続き。ダイハツとしては捲土重来を期するモデルでもある。構造的にはFWD(前輪駆動)ベースの乗用車だが、最低地上高を190mmと普通車SUV並みに取り、スタイリングは無骨な角型。そのうえでグラストップを全車標準装備とするなど遊びゴコロも加えるという力作である。

試乗車はターボエンジン搭載、FWDの「Gターボ」。ドライブルートは東京を起点とした北関東の山岳地帯周遊。群馬の湯檜曽から八木沢ダムをはじめ利根川源流や尾瀬方面を巡り、日光湯元経由で宇都宮へ抜けるというものだった。総走行距離は597.8km。道路種別は市街地2、郊外路3、高速2、山岳路3。1名乗車。エアコンAUTO。

では、タフトの長所と短所を5つずつ列記してみよう。

■長所
1. ドライブ気分が断然上がるグラストップ標準装備。
2. 落ち着きのあるフラットな乗り心地。
3. ラフロードもある程度走れる余裕のロードクリアランス。
4. ロードノイズ、メカニカルノイズともうまく抑えられている。
5. 先行車、対向車を避けて照射するアクティブハイビームを装備。

■短所
1. ステアフィールはダル。ただしクロスカントリー4x4感という観点では面白くも。
2. 後席スライド機構がなく、荷室のアレンジがきかない。
3. ドア開口部の上端が低く、車内への乗り込み性は悪い。
4. 後席は閉所感が強く、着座のタッチも良くない。あくまで前席優先。
5. 高負荷時の燃費の落ち幅が大きい。

日常使いの実用性はあえてバッサリ

ドア全開の図。ドア開閉角度は今どきの軽自動車としてはかなり浅い。開口部の上端が低く、とくに後席の乗り込み性は良いとは言えなかった。ドア全開の図。ドア開閉角度は今どきの軽自動車としてはかなり浅い。開口部の上端が低く、とくに後席の乗り込み性は良いとは言えなかった。
ノリの良い遊び要素をクルマに盛り込むのはわりと得意なのに、クロスカントリー4×4やクロスオーバーSUVについてはなぜか空回り感が出てしまう傾向があったダイハツ。タフトはその借りをいっぺんに返すような、割り切りとノリの良さで作られた遊び専用クロスオーバーSUVというのが、ドライブを通じて抱いた印象だった。

元来、軽自動車は特殊用途を除くとファッション重視モデルであっても実用性や経済性が強く求められるもの。タフトは経済性についてはそこそこ満足の行く水準にあったが、日常使いの実用性についてはバッサリと見切られていた。

ドア開口部の上端が低いため乗降性はお世辞にもいいとは言えない。後席はレッグスペースは広いがヒップポイントが低く、着座姿勢は良くない。荷室は後席使用状態だと非常に狭いうえにアレンジも貧弱で、ちょっと大きな荷物を載せる時は後席の片側を潰すしかない。同じカテゴリーのスズキ『ハスラー』が普通のトールワゴンと同等の利便性を持っているのとは対照的だ。

ところが、タフトをちょっと変わったデイリーユースのクルマではなく、オフローダー気分をちょっぴり味わうスペシャリティカーとしてみると、一転してなかなか魅力的に見えてくる。フロアが高く平べったいフォルム、直線基調の内外装デザイン、迷彩風のシート地など、ミリタリーな要素をちょっぴり加味したものだが、クルマの形が類型化している今日においては結構新鮮に感じられた。

インパネ、ダッシュボードは無骨なデザインで、ちょっぴりオフローダー気分に浸れる。ただしディセンドブレーキなどのオフロード走行用装備はなし。インパネ、ダッシュボードは無骨なデザインで、ちょっぴりオフローダー気分に浸れる。ただしディセンドブレーキなどのオフロード走行用装備はなし。
運転席からの視界も一般的な軽自動車と少々違っている。ドライバーに近いところにAピラーがかなりの急角度で配されており、フロントガラスがドライバーにかなり近い。ロングキャビンモデルの中ではボンネットがかなり長く、ボンネットの稜線もほぼ水平であることも手伝って、フロントウインドウを通したボンネットの見え方はクロスカントリー4×4的だった。

もう一点、タフトの独自性となっているのは全グレード標準装備のグラスルーフ「スカイフィールトップ」。日本ではグラストップの装着率が非常に低いため、とくにベーシックカーや軽自動車では絶滅危惧種だ。そのなかでダイハツ開発陣がタフトにグラストップを標準装備したのは博打における逆張りのような思い切りであったが、実際にドライブしてみると、軽自動車サイズで自分の直上がガラス張りというのは普通車のグラストップ以上の開放感で、気分が上がることこのうえなかった。

もちろん空を見ながら走るわけではないし、スライディングさせることもできない。が、光がたっぷりと車内に射し込み、青空や木々の枝がチラッと視界に入るだけでテンションが全然違うものだとあらためて思った次第だった。

スカイフィールトップはそこそこ面積があり、青空や梢がチラ見えするだけで気分が上がる。スカイフィールトップはそこそこ面積があり、青空や梢がチラ見えするだけで気分が上がる。
実用性は低いが気分を盛り上げる演出に長けているタフトは1、2名乗車でプチ遠出を楽しむような用途にはうってつけだ。2人乗りなら荷物は後席シートバックを倒せばいくらでも積むことができるし、長尺物はあまり重い物でなければルーフレールにキャリアをつけて運ぶことも可能。あまり快適でない後席も狭いというわけではないので日常の短距離ユースであれば十分に使える。そういう割り切ったクルマというのもなかなか魅力的なものだなというのが率直な感想だった。

ちょっとしたクロスカントリー4×4風の乗り味

ダイハツ タフト Gターボ FWD。八木沢ダムの電源開発道路にて。ダイハツ タフト Gターボ FWD。八木沢ダムの電源開発道路にて。
性能・官能の評価に話を移そう。タフトはFWDベースのDNGAアーキテクチャで作られたFWDベースのモデル。サスペンション形式も前がストラット式独立、後がトーションビーム式半独立だ。ということで、ライドフィールは普通の軽自動車と大して変わらないのではないかと予測していたが、乗ってみるとテイスト的にはちょっとしたクロスカントリー4×4風だった。

ハンドリングはダルで、高速道路のクルーズ、山岳路、市街路と、どのシーンでもステアフィールがハッキリしない。このダルさにはいい側面もある。路面の荒れをタイヤが拾ったときにステアリングへのキックバックが弱く、進路への影響も小さい。これがはからずもクロスカントリー4×4的なテイストをちょっぴり感じさせることに寄与している。オフロード車に乗ったことがないユーザーでも、運転すれば一般的な軽自動車とライドフィールが違うなと明瞭に感じられることだろう。

今回はオフロードについては長い距離を走ってはいないが、湧水でマッド(泥濘路)コンディションになっている未舗装路を見つけたので、ちょっとだけ試してみた。今どきのクルマはトラクションコントロールを装備しているので、最低地上高さえあれば前2輪駆動でもちょっと険しいという程度のオフロードなら走れてしまう。

マッドコンディションの未舗装路を行く。本当に厳しいところは降りることができないため写真に収められなかったが、800kg台の車重と余裕のある最低地上高の組み合わせは結構イケていた。マッドコンディションの未舗装路を行く。本当に厳しいところは降りることができないため写真に収められなかったが、800kg台の車重と余裕のある最低地上高の組み合わせは結構イケていた。
果たしてタフトの最低地上高190mmは実際のドライブでもかなり使えるという印象。車両重量840kgという軽さも手伝って、わりと深いぬかるみに片輪を突っ込んでみても思ったよりずっと簡単に抜け出すことができた。オフロードで重要なサスペンションの柔軟性も格上の小型SUV『ロッキー』よりずっと良く、左右輪の高さが大きく違う箇所でも結構よくホールドした。

スズキ『ジムニー』のように巨大なクラックを乗り越えられるような強度はないにしても、これならAWDグレードにA/T(オールテレーン)タイヤくらい履かせれば長いオフも結構行けるんじゃない?と思ったが、残念なことにタイヤサイズが165/65R15とちょっと特殊なサイズで、オフ用のタイヤの選択肢はわずかしかなかった。

乗り心地は結構いい。そこそこうねった路面でもヒョコヒョコとした上下動がよく抑えられ、段差や補修跡などでのガタガタ感、突き上げ感も小さい。ロードノイズもよく抑えられており、前2席に限れば今回の600kmツーリング程度だったら十分快適にこなせそうだった。

長距離走行の多いユーザーはターボが吉

総走行距離597.8kmのプチ旅行。総走行距離597.8kmのプチ旅行。
ターボエンジン+CVTからなるパワートレインのパフォーマンスは車体が軽いこともあって、速さ的には軽自動車としてとくに不満のない水準にあった。高速道路の100km/hクルーズは登坂車線ありの区間も含め、エンジンをガーンと回さなければならないようなシーンはほとんどなし。群馬の山中の急勾配区間でも自然吸気のようにパワー不足でイラつくことはなかった。長距離走行の多いユーザーはターボを選ぶのが吉であろう。

燃費のほうは負荷によって結構大きな差が出た。東京を出発後、高速で北上し、群馬の山岳地帯を巡って栃木に抜けた474.5km区間の燃費は20.8km/リットルと、経済的と感じられるロングラン20km/リットルのラインはきっちり超えた。

ただし、ドライブ中に燃費計の推移を観察していると、シーンによって結構得手不得手がある。ターボの過給圧が低い平地のクルーズではかなりの効率の良さで、燃費をいくらでも伸ばせる感じであったのに対し、負荷が高い山岳路での燃費の落ち込みは軽ターボとしても結構大きいように見受けられた。

素晴らしかったのは市街地燃費で、ドライブの最後に足立区で満タンにしてから車両返却場所までの10数kmをエコランしてみたさいの燃費計値は24.3km/リットル。搭載されているKF型というエンジンは度重なる改良を受けてきているが、エコランすると燃費がガーンと伸び、負荷をかけるとドーンと並以下に落ちるというDNAは変わっていないようであった。

アクティブハイビームは印象よし

ヘッドランプはアクティブハイビームつき。どこまで進化するのか軽自動車という感じであった。ヘッドランプはアクティブハイビームつき。どこまで進化するのか軽自動車という感じであった。
ADAS(運転支援システム)「スマートアシスト」はステアリング介入なしのタイプだが、全車速タイプの先行車追従クルーズコントロールが設定されるなど、数年前の同社の軽モデルに比べて機能は格段に進歩していた。車線の検知なども優秀とは言わないが、こういうのがついてくれていて有り難いと思えるくらいにはきちんと機能する。

不満があるとすれば、親切の押し売りというくらいの道路情報表示。道路の制限速度が変わったり規制標識を読み取ったりするたびにカーナビに巨大な標識が表示され、地図がしばらく見えなくなる。それを表示させない方法があるはずと思って説明書を読んで操作してみたが、コマンドメニューの説明が装着されていたモデルのものと合致しておらず、結局放置しておいた。

安全面で印象が良かったのは、可変配光型のアクティブハイビームが装備されていたこと。ヘッドランプ自体の照度は大したことはなく、照射の均一性もそれほど優れたものではないのだが、夜中に暗い山道を走っていても路肩やコーナーの奥のほうをよく照らしてくれるし、普段も先行車や対向車だけ避けてハイビーム照射を続けてくれるので安全性が高い。

アクティブハイビームの欠点はコストが高く、自損事故不担保の保険でうっかりぶっつけたりすると涙目になるくらい修理代がかさむことだが、ダイハツはLEDを分散配置して回路に熱がたまりにくいようにするなどの工夫でコストダウンを図ったとのこと。修理代が安ければ車両保険の料率も抑えられることになるため、維持費の点でユーザーに大きなメリットをもたらすだろう。

まとめ

ジープのような縦型スロットのフロントグリル。ジープのような縦型スロットのフロントグリル。
デイリーユースの実用性についてはある程度見切って遊び優先主義に作られたタフトは、同じ軽クロスオーバーSUVでもハスラーとはかなり異なった商品特性のモデルになっていた。マイカーにジムニーを選ぶだけの勇気はないが、トールワゴンをSUV仕立てにしたものよりは潔いクルマが欲しいというニッチ志向のユーザー向けといえる。もちろん最大の競合相手はハスラーであろうが、実際にドライブしてみると両者、結構うまく住み分けられるように思えた。

グレード選択だが、まずお得感が強いのは今回乗ったFWDのGターボであろう。自然吸気にも「G」グレードは存在するが、先行車追従クルーズコントロールがオプションで、そのぶんを加味すれば価格差は7万円台になる。カーナビをスマホナビですませるならば、吊るしの車両価格160万6000円は遊びグルマとしてはかなりイケていると言える。圧雪路やフラットダートを走る程度であればAWDも不要だ。行動半径100km、すなわち1ドライブ300km以内という使い方が主体であれば自然吸気のGも悪くない。

ラフロードや深雪を走る機会が結構あるというユーザーであればAWDもいい。駆動システムは生活四駆にすぎず、凝った構造やハイテクも持たないが、最低地上高190mmと軽量ボディで結構楽しめるのではないか。本文でタイヤの選択肢が限られると書いたが、トーヨータイヤがマッド走行も視野に入れたオフロードタイヤをこのサイズで出したりしているので、そういうモデルを履いてライトなアドベンチャーをエンジョイするのにも良さげだ。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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