旧車に乗る若者…オーナーは18歳、1984年式スズキ『ジムニーSJ30』

中学生の頃からの憧れていた「ジムニーSJ30」の納車を心待ちにしていた <撮影:中込健太郎>
中学生の頃からの憧れていた「ジムニーSJ30」の納車を心待ちにしていた <撮影:中込健太郎>全 9 枚
千葉県にある日本自動車大学校に通う18歳の若者、杉浦竜翔(すぎうら・りゅうと)さんは、ずっと心待ちにしていた、1984年式スズキ『ジムニー SJ30』の納車を迎えました。


ここ最近、旧車に乗る若者が増えています。中高年顔負けの知識と現代ゆえのネット情報網で、維持の方法やパーツ調達などのハードルを乗り越える若者は少なくありません。

しかし、そういったムーブメントの中で『ジムニー SJ30』を選んだわけではない、と杉浦さんは言います。愛知県一宮市にあるジムニー・スペシャルショップ「カービートイズミ」でSJ30を購入した杉浦さんに、2サイクルジムニーへの想いを伺いました。

18歳の若者が購入したのは、2サイクルのジムニーSJ30


◆雪道を駆け回る動画を見て、心奪われた少年時代

「実家で所有していた軽自動車の車検のタイミングで、買い換えよう、という話しになり、せっかくなので楽しいクルマにしようと家族に進言したんです。

そのとき興味を持っていたのは、まだデビューから時間が経っていないホンダのS660とスズキのジムニーSJ30でした。動画サイトで雪道を駆け回るSJ30の姿を見て、その魅力に取り憑かれてしまったんです。実はその時、今回お世話になった一宮市のカービートイズミさんにお邪魔して相談しました」

動画サイトをきっかけに興味を持ったという、その経緯は現代の若者らしいエピソード。それだけでは終わらず、免許もない少年だった杉浦さんがSJ30を家族に薦め、めぼしい専門ショップに訪問までしたというのは、なかなかの行動力です。

カクカクした「ジムニーSJ30」子どもの頃に動画サイトで雪山を駆け回るSJ30に、心奪われたという

◆専門ショップとの出会い

「地元が愛知県なので、県内でジムニーのSJ30を扱っていて、気になる在庫があるお店。という条件で探していたら、一宮市の専門ショップさんに行き着きました。

ジムニーならではの魅力はあれど、旧車なSJ30はイマドキの車とは違う。乗りにくさや癖もあることを、専門ショップさんはしっかり教えてくださって。

どうしても乗りたければ、免許を取ったあとで“自分のクルマ”として買う方がいいかもしれない、とある種の厳しいこともきちんと伝えてくださる誠実なお店だったのです。

結局そのとき、両親はハイトワゴンの購入を決めたんですが…。カクカクしたジムニーSJ30は、僕の中で色褪せない憧れのクルマになっていました」と杉浦さん。



◆どうしても、諦めきれず…

杉浦家では、次の車検のタイミングで、杉浦さんのプッシュもありハイトワゴンから「S660」に買い替えたそうです。

やがて杉浦さんは免許を取り、実家を離れて千葉で暮らすようになったとき「S660」を譲り受けマイカーとして乗ることに。


「実はそのS660、ぶつけられてしまって。そこで、次は何にしようかというときに…。諦められなかったんですね、SJ30を。数年前に一度お邪魔した専門店さんに連絡し、何台か見せてもらおうとお店を訪問したときに薦めてくださったのが、いま所有しているこのクルマなんです」

「若葉マーク」がキャッチー。若者の審美眼にこそ、大いに学びたいと最近感じることが多い


◆ルーフトップのみFRPで覆われた真紅のSJ30

杉浦さんの元に納車されたのは、真紅のジムニーSJ30。適度にリフトアップされていたりはするものの、エンジンや内装などは基本的にはオリジナル。コストをふんだんにかけてカスタムされたハイスペック車ではない点が、とても貴重なのだというのです。

「シフトレバーの付け根あたりの樹脂のカバーのようなものは、たいてい破けていたり、なかったりします。あと、ソフトトップ・モデルのオリジナルはルーフが幌(ホロ)なんです。ですが、この真紅のジムニーSJ30は、ルーフトップのみFRPで覆われていて。実用性と見た目に、とても惹きつけられました」


ソフトトップモデルベースながら、ルーフがFRPに。機能面でもスタイルの面でも気に入ったポイントの一つ

アンダーフロアの樹脂の表皮。説明のタグも含めて、綺麗に残っているクルマはかなり少ない

シートの弾力も表皮の状態も決めてだったそうだ

ステアリングをはじめ、室内のドレスアップは最小限。旧車のSJ30でオリジナルを保っているのは、むしろ尊いこと

「どうしても、調べると千葉でも房総方面が多いのですが、山道なんかをガンガン走ってみたいですね。茨城方面とかの方があるかもしれませんが」と杉浦さん。

数回アクセルペダルを踏んだ後にキーをひねれば、乾いた、そして小気味よいビートを奏ます。少し暖まったところで徐々に動き出せば、杉浦さんが少年時代に動画で見た、雪山を駆け回るSJ30が、令和のいま、たちまち蘇ります。

杉浦さんが愛車のSJ30でやってみたいことや、楽しみは尽きない。それこそが新たにクルマを迎え入れる喜びの本質と言えるでしょう。


◆18歳、SJ30オーナー「将来の夢」は

こんなにもコンパクトで、高機能。実に日本的というか、便益のために働いてくれる自動車の本分を究極的に追求した一台だと思わせてくれるジムニーSJ30。

前のオーナーから注がれた愛情の深さも含め、クルマとの出会いはそれ自体に感謝したくなる、そんな素敵な一台に出会った18歳の杉浦さん。将来はどんな夢を持っているのか、聞いてみました。


「実はもともと、レーサーに憧れがありました。自動車を専門に勉強する学校は地元(愛知県)にもあったのですが、モータースポーツに照準を合わせたカリキュラムがあったので、今の学校(NATS)を選んだ面は強いです。将来は、こだわりのクルマを扱うメカニックになりたいと思っています。クルマを愛する人のため、そういう人が喜んでくれるような人になりたいんです」と杉浦さん。



筆者が最近あちこち立ち寄る自動車プロショップで聞こえてくるのは「どこかに若手のメカニックがいないか?」という話ばかり。日本各地の自動車関連ショップは、杉浦さんのような人材を首を長くして待っているのではないでしょうか。


杉浦さんからお話を伺って、筆者が印象に残ったことを最後に少し。旧車の2サイクルジムニーに憧れる若者に安易な購入を薦めなかった専門ショップの存在。そしてその数年後、律儀にその専門ショップの扉を叩いた若者がいて、素晴らしい出会い(一台)があった。こういった話を聞くたび、クルマっていいな、クルマの縁は人の縁だな、としみじみ感じます。


中学生の頃からの憧れていた「ジムニーSJ30」の納車を心待ちにしていた

《執筆・撮影:中込 健太郎/編集︰カーケアプラス編集部@金武あずみ》

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