【トヨタ GR 86 新型】ゼロからしっかり作りたい…デザイナー[インタビュー]

トヨタGR 86
トヨタGR 86全 29 枚

トヨタは新型『GR 86』をメディアに公開。そのデザインは『86』をしっかりと研究し見つめなおした結果、ゼロから作り上げたものだという。そこで、デザイナーにその思いなどについて話を聞いた。トヨタ GAZOO Racing Company GRデザイングループ長の松本宏一さんトヨタ GAZOO Racing Company GRデザイングループ長の松本宏一さん

愛される86なのでプレッシャーは大きい

----:松本さんはこれまでどんなクルマを担当されてきましたか。

トヨタ GAZOO Racing Company GRデザイングループ長の松本宏一さん(以下敬称略):入社した時は7代目『カローラ』をやりまして、その流れで『カローラFX』など、カローラシリーズを結構長くやりました。その後、『クラウン』や『マジェスタ』を担当し、『ターセル』や『コルサ』などもやりました。それから、先行開発や、社内の新コンセプト、モーターショーの出展車両など、例えば東京モーターショー2015に出展したFRコンパクトスポーツの『S-FR』もデザインしました。

また結構長くブランディングの仕事も行っていて、2005年にレクサス国内投入の時のレクサスのブランディングや、その後トヨタのブランディングも行っています。トヨタ S-FR コンセプト(東京モーターショー15)トヨタ S-FR コンセプト(東京モーターショー15)

----:結構多岐に渡ってご担当されて来たのですね。そんな松本さんがGR 86のデザインの担当になることが決まった時、どう思いましたか。

松本:結構複雑な気持ちでした。当時ちょうどS-FRをやっていた最中だったのですが、S-FR(の市販化が)がなくなって、そしてこのGR 86の話が来たのです。スポーツカーを連続してやれるというのは非常に嬉しい、素直に嬉しかったですね。

しかし、冷静に考えると、トヨタ『86』はほぼ10年選手のようなクルマですから、いま乗られているオーナーにとっては、本当に愛車として、大好きなのです。実はデザインが始まるタイミングでユーザーの方に話を聞く機会があったのですが、“ぶっちゃけ別に変えなくていいよ”という意見が9割ぐらいありました。その中で新しい86をやらなければいけないというのは結構プレッシャーでしたね。

奇をてらったりオマージュはしない

----:その時にどういう86のデザインにしようと考えられましたか。

松本:軽量コンパクトなFRというクルマと本当に素直に向き合って、スポーツカーの本質をしっかり追求して作っていけば、絶対にトヨタ86のユーザーにも受け入れてもらえるであろうと信じていました。ですから、あまり奇をてらってガラッと変えたりとか、あえてトヨタ86をオマージュしてみるとかいうことをせずに、本当に素直に冷静にこのサイズの、このクラスの、この価格のスポーツカーはこうあるべきだよねというところでスタイリングして行きました。

----:なぜ奇をてらったり、オマージュしたりしなかったのでしょう。

松本:多分、オマージュしたらオマージュしたで、こんなのだったらモデルチェンジする意味はないだろうと文句いわれたでしょうし、ガラッと変えたらガラッと変えたで何で変えたんだといわれるでしょう。どちらにせよネガティブにいわれるだろうなと思っていましたので、それであればゼロからしっかり作りたいというのが一番でした。

----:トヨタ86は当時、軽量FRスポーツをイメージして究極の形になるぐらいに突き詰めてデザインされていたと思います。それと同じ考え方で変えるというのはすごく難しいと思うのですがいかがですか。

松本:それをやるためにはトヨタ86というクルマを、しっかりとデザイン的に研究、分析、勉強していかなければいけないなと思いました。そうすることで、反面教師ではないですが、もしも自分だったらここはこうするのにな、もしも僕だったらここはやっぱり86の良さだから残しておくべきだとか、この考え方は良いからもっと増幅させて見せた方が良い、などが見えて来ました。その結果として、形は多分違って見えると思うのですが、パッと見た時の雰囲気は86に見えるようになったと思います。

----:いまお話にあった、ここは良いよね、増幅させようね、あるいはここはちょっと違うかなとは、具体的にどういうところだったのでしょう。

松本:一番気になったのは、実は富士スピードウェイでピットの上のところからビットレーンに入ってくるトヨタ86を上から見ていて、色々やってはいるのですが、何となく薄い、四角いクルマだなと感じてしまったので、もっと凝縮感や塊感を見せたいというのが一番変えたいなと思ったところのひとつです。トヨタ・86 GT Limited 6AT

一方で、トヨタ86らしさとしてここは残すべきだなと思ったのは、サイドウィンドウのグラフィックスです。結構これが86らしさを表現しています。実際に新旧で離れて見てもらうと違うのですが、基本句形は同じような形にしています。

また、ロッカー(サイドシル)のところに大きなサイドスポイラーがありますが、これも実はトヨタ86にもうっすら入っています。これはキャビンをぐっとコンパクトにとらえるキャラクターラインとしても、ものすごく有効です。広いところなどで走っているクルマを見ると、意外と小さくて細いキャラクターラインは見えなくなってしまうのですね。しかし、このくらいしっかりしたものを入れると特徴的に見えて来ますので、そういうところは現行が持っている良さをもっともっと増幅させるというような意味で意識しました。トヨタGR 86トヨタGR 86

こだわりの機能美

----:さて、GR 86のデザインコンセプトはどういうものだったのですか。

松本:凝縮と機能美とFRプロポーションの3つです。凝縮はイメージだけではなく、(キャビンなどを)絞り込んでマスを削っていくことによって、重心の位置をセンターにぐっと凝縮させています。これは意のままの走りを実現させたいといっている機能、走りにもしっかりとデザインとしても貢献したいということもありました。トヨタGR 86トヨタGR 86

機能美で大きいのは左右のエアアウトレットです。これはしっかりと穴が開いていて、操安性にすごく効いています。この機能をしっかり造形としても表現しています。これがあったからこそサイドシルスポイラーへの流れも作れるようになったわけです。このエアアウトレットを使うことで、フロントフェンダーを通常のすり鉢状のフェンダーではなく、ブリスターフェンダーのような造形にしました。トヨタGR 86トヨタGR 86

また体幹を鍛えようといういい方をよくしていたのですが、低い位置に水平にしっかりとビシッと塊を通すということは意識して、体幹を通しているようなイメージを持たせています。

----:それはフロント先端からドアパネルのピーク部分を通ってリアに流れていくボリューム感ですか。

松本:そこで感じさせています。

----:今回ディテールにも細かくこだわってデザインされているようです。特に、空力と操安性に対してデザインがどう応えているかがポイントのようですが、これはデザイン側からの提案だったのでしょうか。あるいはエンジニア側からこれは出来ないかということだったのでしょうか。

松本:例えばサイドのエアアウトレットは、もともと企画が始まった当初からアイテム候補としてはありました。これはスーパー耐久などでテストして効果ありと評価が出ており、スバルも独自でエアアウトレットは先行開発をしていました。実際に採用するかどうかは、かなり早い段階でみんなで乗り合わせをして、これは効果があるという話になったのです。

僕も参加をしたのですが、デザインとしても結構目玉になる、造形していくデザインのポイントになりうるので、是非つけましょうとお願いしてつけました。どっちがどっちというよりも、もともと持っていた様々な考えから取り入れていったのです。トヨタGR 86トヨタGR 86

また、フロントバンパー左右についている空力シボも、元を正せば昔から鮫肌効果、禁止になってしまった水泳選手の水着とかでいっときよく流行ったああいう技術はもともとあったのです。クルマではスバルがレースでボディに鮫肌加工をしてテストを繰り返して、今回の採用に至りました。トヨタGR 86トヨタGR 86

運転に集中させたい

----:インテリアのデザインコンセプトはどういうものですか。

松本:インテリアは、水平基調にして運転に集中させたい、目に入るエリアを極力ストイックにしています。またガチッとしっかりと水平の骨格にしたいというのがひとつと、空調系のダイヤルやシフト、また今回9インチナビを国内ではオプションで入れようと思っているのですが、そういう操作系をしっかりともう一度最適に再配置しなおしています。

その結果、手を動かす範囲や、視線を動かす範囲があっちにいったりこっちにいったりしないように、考えてデザインしました。手の動きの少ない、目線の動きも少ない中でしっかり操作ができるように意識してやっています。トヨタGR 86トヨタGR 86

当初、BRZもほぼ共通だったが

----:最後に、スバル『BRZ』と差別化ですが、その辺はどういう意識だったのでしょうか。

松本:そもそもの開発のスキームが、企画デザインはトヨタでしたので、僕はGR 86を考えてGR 86のデザインをしました。もともとの企画の中では、BRZも86も、例えばバンパーなども、一緒で行きましょうというくらいの考えでした。それはアフォーダブルに価格も抑えてという86の企画として考え着くことです。そんな中で僕は純粋にGR 86を考えて作っていきました。

それをスバルが見ていて、さすがにこのGR 86ではBRZとはいい難いという話になり、そこからスバルが手を入れていったのです。変更部位についてはBRZの変更部位であり、どのように変更するかは全然関わっていません。どのように差別化するかに関しては彼らが考えてやっていったのです。GR86(左)とSUBARU BRZ(右)GR 86(左)とSUBARU BRZ(右)

《内田俊一》

内田俊一

内田俊一(うちだしゅんいち) 日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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