【トップインタビュー】インクリメントPから「ジオテクノロジーズ」へ、データの“宝の山”が生み出す予測可能な世界とは

ポラリス・キャピタル・グループ 木村雄治 代表取締役社長(左)とインクリメントP 杉原博茂 代表取締役社長 CEO(右)
ポラリス・キャピタル・グループ 木村雄治 代表取締役社長(左)とインクリメントP 杉原博茂 代表取締役社長 CEO(右)全 4 枚

インクリメントPが、2022年1月20日にジオテクノロジーズに社名を変更する。

そう聞いても、自動車ユーザーはもとより、自動車産業界に携わる多くに人にとって、ピンと来ないのではないだろうか?なぜならば、インクリメントPが自動車産業界における黒子のような存在であり、一般的に馴染みが薄いからだ。

ところが、インクリメントPはデジタル地図情報の分野では、ゼンリンと共に日本の2トップであり、自動車ユーザーの多くが日常生活の中でインクリメントPの最新技術に触れている。

その上で、最近世間を賑わしているDX(デジタルトランスフォーメーション)において、インクリメントPがこれから、さらに重要な役割を果たす可能性が高いという見方がある。

今回の社名変更の背景には、インクリメントPの資本の変更がある。インクリメントPは1994年、パイオニアのカーナビ向けの地図データ開発を目的として設立された。インクリメントとは、コンピュータのプログラミングで使われる場合が多く、「増加すること」を指す。そしてPとは、パイオニアを意味する。パイオニアは2020年にモビリティ領域における企業価値の創造について新成長戦略を打ち出しているが、そうした中でインクメントPが独り立ちすることになった。

投資ファンドのポラリス・キャピタル・グループ(本社:東京都千代田区、木村雄治 代表取締役社長)との間で2021年3月10日、インクリメントPの全事業を譲渡する最終契約を締結したと発表。同年6月1日に取引が実行されると同時に、インクリメントPの杉原博茂 代表取締役社長 CEOが就任した。杉原氏は、アメリカのシスコシステムズや日本ヒューレット・パッカードの幹部職を経て、日本オラクル社長兼CEOや会長を歴任した、世界のIT業界を知り尽くした人物だ。

今回、ポラリス・キャピタル・グループの木村社長、そして新生インクリメントPの杉原社長に、ジオテクノロジーズへと生まれ変わるインクリメントPの未来に向けた方針についてじっくりとお話を聞いた。

強固な事業基盤とデジタル地図業界における好位置

ポラリス・キャピタル・グループ 木村雄治 代表取締役社長ポラリス・キャピタル・グループ 木村雄治 代表取締役社長

----:インクリメントPに対する出資の経緯は?

木村雄治社長(以下、敬称略):実は、10年ほど前からパイオニアにアプローチしていた。弊社では2007年に東芝からの買収案件で乗換案内と時刻表の検索サービス「駅探(駅前探検クラブ)」に投資したが、2008年に駅探とインクリメントPの間で資本業務提携をしている。その際、パイオニアにインクリメントPへの出資を打診したが話が進まなかった。

それが2020年秋、パイオニアがインクリメントPの売却意向があるとの情報を得たので、インクリメントPを通じてパイオニアに再度打診した結果、今回の契約に至った。

----:投資家としてインクリメントPの魅力とは何か?

木村:大きく2つある。ひとつは、強固な事業基盤だ。カーナビメーカーを通じて自動車メーカー各社に対する事業の基盤がしっかりあること。ふたつめは、デジタル地図業界で2トップであり、トップのゼンリンに対して追いつけ、追い越せという(意欲的な)ポジショニングが良いことだ。今回のパイオニアからの独立で、大きな伸びしろがあると考えている。だからこそ、CEOの存在は極めて大きい。

----:杉原社長との出会いは?

木村:(経営者候補を外部から探す)エグゼクティブサーチを通じて候補者のおひとりとなった。私自身も参加して候補者の皆さんと面談したが、杉原氏の熱いハートと(インクリメントPを含めた社会全体に対する)成長ストーリーに共鳴した。

インクリメントPは莫大なデータ量の「宝の山」

インクリメントP 杉原博茂 代表取締役社長 CEOインクリメントP 杉原博茂 代表取締役社長 CEO

----:では、杉原社長のインクリメントPに対する印象は?

杉原博茂社長(以下、敬称略):これまでの職歴の中で、グローバル展開する自動車産業関連企業各社とお付き合いがあったが、インクリメントPには、IT業界での視点で見ると、圧倒的なデジタルネイティブなデータとして、物凄い宝の山があると感じた。

----:具体的に、宝の山とは何か?

杉原:4200万件もの住所データ、8億アイテム以上の地図データ、40億枚近い画像データ、さらには1日あたり6億データログを持っているのは、グローバルのIT企業から見ても莫大なデータ量だ。20年近くIT業界で実際にデータ(に関する業務)に携わってきた者として、とても面白い商材だと感じる。これを、カーナビオンリーではなく、DX(デジタルトランスフォーメーション)として様々な分野で横展開して利用することが可能だ。
 
----:まずは、様々な検証を進めながら、新規事業を探っていくのか?

杉原:検証してではなく、IT業界の常識としてもっと大胆に行動する。日本ではDX(デジタルトランスフォーメーション)という表現で、デジタルへの移行に柔軟な姿勢を示している。一方で、欧米のIT業界ではデジタル化によって既存のビジネスを壊して作り直すという強い考え方を持っている。

日本は既に、様々な電子決済が日常化するなど、リアルな世界とデジタルの世界が並存している。いわゆるメタバースの領域に入っている。その上で、データを見える化して、人や企業が(時間軸での)先をプレディクション(予測)することで、生活の利便性や労働生産性が一気に上がると考えている。

----:プレディクション(予測)についてもう少し詳しく教えてほしい。

杉原:例えば、ゲリラ豪雨への対応だ。事後での、避難所や物資搬送に対することはもちろんのこと、事前に最新の気象情報と人流(クルマの流れ)を予測した対策が打てる。

または、カーボンニュートラルについての活用もある。CO2を吸収する山間部の位置と、CO2を排出する各種工場や自動車の走行状況を見える化することで、CO2排出権取引に結びつけられる。実際アメリカでは、トウモロコシ畑で収穫後、大麦や小麦を植えることを、CO2のイートアップ(CO2を吸収すること)と称し、これを基に都心の企業などがCO2排出権を購入する仕組みがある。山間部の多い日本でも有効なビジネスに成り得ると思う。

こうした様々な分野に対して、(2022年1月からの)ジオテクノロジーズでは既に保有しているデータと、これから取得する新たなデータを使って事業展開を進める。

既存カーナビ事業を基軸にB2C型ビジネスも強化する

インクリメントP 杉原博茂 代表取締役社長 CEOインクリメントP 杉原博茂 代表取締役社長 CEO

----:つまり、既存のカーナビ向けビジネスを継承すると並行して、新規事業を拡張する流れか?

杉原:その通りだ。B2B(事業者間事業)では、カーナビ事業を基軸で強化しながら、カーナビオンリーではなく、高精度地図に紐づくデータの活用など、自動車産業界と新たなるサービス事業領域を発展的に考えていく。いわゆる、SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)の領域だ。

実際、すでに業界の各方面から新規事業の在り方について具体的な問い合わせが多くある。事業としてはまず日本で足固めを進めた上で、海外戦略を考えていく。

一方で、弊社から消費者に直接提供するB2C型ビジネスも強化する。例えば、2020年10月から、移動するだけでマイルが溜まる無料アプリサービス「トリマ」を提供しているが、すでに600万ダウンロードを超えておりこの業態ではトップだ。

また、マップファンでのリボーン(再生)プロジェクトを進める。会員数は300万人、PV(ページビュー)3000万、UU(ユニークユーザー)670万に達しており、これらを基盤としてよりパーソナライズしたデジタルマップの提供を加速させる。そのほか、物流関連でのアプリも拡充させる計画だ。こうした分野は、サブスク(サブスクリプションモデル)型のSaaSだといえるだろう。

----:ジオテクノロジーズをどう育てていきたいか?

杉原:(大義では)地球に喜んでもらう会社になりたい。それが自然界を通じて、消費者により良い日常生活に結びつくからだ。まずは、いつでもいきたいところに移動できる地図を強化する。それだけではグローバルでの競争に対抗するのは難しいので、ありとあらゆる機会を(自動車産業界や異業種のパートナーと共に)探していく。その結果として、B2N(事業者と人・こと・モノとの繋がり)を経て、クルマ本来のファン・ツゥ・ドライブが実現できると思う。

ポラリス・キャピタル・グループ 木村雄治 代表取締役社長(左)とインクリメントP 杉原博茂 代表取締役社長 CEO(右)ポラリス・キャピタル・グループ 木村雄治 代表取締役社長(左)とインクリメントP 杉原博茂 代表取締役社長 CEO(右)

日本の自動車産業大変革が見える化されるキッカケとなるか

以上、木村社長と杉原社長に、インクリメントPからジオテクノロジーズへと移り変わる背景と将来構想についてお答え頂いた。

ポラリス・キャピタル・グループは投資ポリシーとして、「しがらみからの脱却」と「ビジネスモデルイノベーション(事業の大胆な変革)」を掲げている。今回のジオテクノロジーズはまさに、インクリメントPが持つ膨大なデータと高度な技術力によって、本来のポテンシャルをバネに大きな殻を打ち破る可能性があると感じる。

大きな殻とは、日本発の新たなるグローバル事業という意味合いもある。木村社長と杉原社長が近未来に向けた成長ストーリーとして共感した根拠として、IT業界ではGAFAM(グーグル・アップル・フェイスブック・アマゾン・マイクロソフト)といったアメリカ型IT企業の存在感の大きさがある。製造業を基盤とする日本からは、グローバルに向けたIT業界での革新的ビジネスモデルが育ちにくく、そうした現状に一石を投じたいという強い想いがある。

だからこそ、インクリメントP改め、ジオテクノロジーズに対しては自動車産業界のみならず、異業種からの注目度も極めて高い。

日本では、2021年5月「デジタル改革関連法案」が国会審議を経て成立して交付された。これを受けて、同6月に「デジタル社会の実現に向けた重点計画」を閣議決定し、2021年9月にデジタル庁が発足した。時はまさに、DX(デジタルトランスフォーメーション)の真っ只中である。

ジオテクノロジーズは将来的に国内での株式上場を目指しており、将来ビジョンを踏まえた中期、及び中長期の経営計画を投資家向けに今後、公開していく予定だ。同社の動きが、日本の自動車産業大変革が見える化されるキッカケになることは間違いなさそうだ。

《桃田健史》

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