【ダイハツ ハイゼットカーゴ&アトレー 新型】フルスイングでやり切った…マーケティング担当[インタビュー]

ダイハツ国内営業本部国内商品企画室主査の殿村裕一氏
ダイハツ国内営業本部国内商品企画室主査の殿村裕一氏全 25 枚

ダイハツは『ハイゼットカーゴ』を17年ぶりに、『アトレー』を16年ぶりにフルモデルチェンジ。その内容は市場からの声も大きく影響したと想像する。そこで、『ハイゼットトラック』の商品改良も含めてマーケティング担当者に話を聞いた。

◆早くしなきゃ

----:殿村さんはこれまでも色々なクルマを担当されてきましたが、今回17年ぶりにフルモデルチェンジしたハイゼットカーゴ・アトレー、そして大幅改良のハイゼットトラック3機種の担当が決まった時にどのように思いましたか。

ダイハツ国内営業本部国内商品企画室主査の殿村裕一氏(以下敬称略):トラックは2014年にフルモデルチェンジしましたが、一方のカーゴはずっとそのままでしたので、個人的には早くしなきゃ思っていました。競合車はその間に2回ぐらいフルモデルチェンジしているのです。もちろんハイゼットもスマートアシストなどを装備して来ましたが、根本的なところ、つまり荷箱(ラゲッジ部分)の形が真後ろから見ると、上に行けば行くほどきゅっと絞って台形で、スクエアじゃなかったんですね。一方の競合車はどんどん四角くなっていきましので、積載しやすい空間を求めていっていたのです。

ですからこの企画が来た時には、よしやるぞっという感じでしたね。とにかくやらなきゃと思いました。まさに、イーコマースで荷物はどんどん増えており、1日分の荷物を全部積みたい。もし1個積めなかったら、そのためだけに拠点に帰らなければいけないという話がすごく典型的な事例です。ですから、とにかく早くやろう。そして大袈裟にいってしまうと、軽規格内パンパンのクルマを作っちゃえぐらいの勢いで始めました。

ダイハツ・ハイゼットカーゴ 新型ダイハツ・ハイゼットカーゴ 新型

◆最適解を探して

----:ではなぜこのタイミングまでフルモデルチェンジを行わなかったのでしょう。

殿村:それは色々ありまして。社内的に開発リソースのタイミングの問題ですとか、FFの可能性もあるかもと試してみたり。色々不満はあるにせよ、必要な人が買ってくれているので、実は台数はすごく落ち着いてるんです。ですので、より良いものをと色々なことを試しながらやってたのです。商品的に様々なことを試して最適解を探した結果、いまになってしまいました。2018年ぐらいから開発を始めて、企画の最中にコロナ禍になり、よりクルマで過ごすみたいな話もありましたから、やはり大きな箱(荷室)がいるということで、そういった追い風もあり進めていきました。

----:そうすると今回1番やりたかったことは、積載スペースの拡大だったのですね。

殿村:そうです。あくまでも荷車なので、販売店からもさんざんいわれていました。基本的にはほとんどが代替えのお客様なので、2回目、3回目と確実に代替していただけています。しかし販売店からも、もう同じモデルの3回目や4回目を代替えさせるようなことはやめてといわれていました。そのときに荷箱をもっと大きくしてくれという話も来ていたのです。

----:実際に完成してみてどうですか。

殿村:完璧です。理想通りのものが出来ました。企画屋としては、すごく気持ちの良いフルスイングをした感じです。ですので、カタログの言葉にも表れているんですけど、「ニッポンにはハイゼットがある」とか、これでユーザーの皆さん、大丈夫でしょうみたいない気持ちで、「働くあなたのいちばんへ」とか、そんな言葉を出しています。

ダイハツ・アトレー 新型ダイハツ・アトレー 新型

◆当初の役割を終え次のステップのアトレー

----:カーゴとアトレーは基本的には同じプラットフォームですが、アトレーでは何かこうしなければ、などの思いはありましたか。

殿村:もちろんあります。実はアトレーは、当初の役割は終わっているのです。それは、ファミリーユースみたいなところで、『ウェイク』なり、『タント』がいまは担っています。ですので、最近買っていただけているお客様は、すごく使い方がはっきりしていて、荷物重視、積載重視の乗用用途というアプローチです。

では、ウェイクと何が違うかというと、乗用ユースで、荷物もちょっと積みたいねという方達がウェイク。アトレーは荷物側から入って、荷物が積めること前提の乗用ユース。もう少しわかりやすく例えると、ウェイクはデイキャンプ。アトレーは泊まるキャンプみたいなイメージですね。荷物の量が違うわけです。そこがはっきり違っていて、なおかつアトレーの方は、例えば日をまたぐ趣味のお客様。釣人であれば夜中の3時になったら釣れ始めるから、とりあえず漁場まで行って、寝て待ってるみたいな方や、リタイヤしたご夫婦が道の駅を巡りながら日本を旅するとか。もうあまり後席には乗らないというご意見が多いので、思い切って空間重視で、アトレーも4ナンバー化して限りなく後ろを使いやすくしようとしています。

----:割り切りですね。

殿村:そうです。ですから、役割がはっきりしてるので、そちらに特化した形にしました。その代り、コンセプトは使い尽くせるマルチボックスですけど、とにかく空間を使い尽くしてもらうイメージです。

例えばキャンピングメーカーや架装業者の方々はハイゼットやアトレーを一切使ってなかったんですね、先ほどお話した荷室の問題で。荷室の左右に棚をつけたら狭くなってしまうわけです。そういう意味で気持ち的には今回アトレーも荷室をスクエアにしたので、私の気持ち的には、キャンピングカーメーカーは全部アトレーベースに変わっていってくれないかなくらいの思いです(笑)。

----:それではなぜ、今のユーザーはアトレーを買っているのでしょう。

殿村:すごいコアユーザーで、それじゃなきゃダメな人だけがいま残っておられるのです。それは、ハイゼットカーゴも同じなのですが、品質重視、品質が高そうなイメージがあるからです。確かに競合と比べて車重が重かったりしますが、それが品質や耐久性に効いているのです。一例でいえば、スライドドアの開閉耐久は乗用車の5倍はやっています。乗用車が1万回だとすれば、ハイゼットカーゴやアトレーは5万回やるわけですね。

----:では走りの面ではどうですか。

殿村:今回DNGAにしてボディ剛性を見直していますので、足がよく動くようになっています。その結果、直進安定性などが非常に増していますし、なんといってもFRのCVTを採用したので、本当に乗用車的になりましたのですごく快適です。いままでは4速ATの変速ショックや、リアデフがそのたびにカコカコいったりなどがありましたが、いまはほんとに滑らかでスムーズです。そのほかにも例えば、フロントウインドウ下端に、いまどきの知見を経てさりげなく空力部品を付けたりもして、これが直進安定性に効いているんです。こういうさりげない工夫もしています。

ダイハツ・ハイゼットトラック 改良新型ダイハツ・ハイゼットトラック 改良新型

◆乗用車ではあたり前装備を

----:ハイゼットトラックの方はどうですか。

殿村:トラックは基本的にはFR CVTを載せるというビッグマイナーチェンジではありますが、工夫としてはそれにリアデフロックを初めて組み合わせました。つまり、働く人が老若男女、多様化していますので、誰が乗っても、誰でも畑の中に入っていけるとか、AT限定免許でもいいとか。またスマートアシストもこれまでホイールベースが短くて積載の時と空荷の時の制御が結構難しいので、少し作動制限をしていたんですけど、今回はようやく、いまのピカピカの乗用車と同じ性能でいけるようになりました。またフル積載した場合や、特装車などは後方が全く見えないので電子インナーミラーをこのクラスとしては初採用しています。

近年、平日通勤、週末農業みたいな人が増えてるんです。ですから日常使いも快適というところで、電格ミラーとかプッシュスタート、キーフリーなども採用しました。

ダイハツ・ハイゼットトラック・ジャンボ 改良新型ダイハツ・ハイゼットトラック・ジャンボ 改良新型

ハイゼットジャンボもすごく台数が伸びていますので、これもきちんとグレード展開(2グレード化)して、日常用途の人も多いので、さらに快適にしています。つまり乗用車であたり前の装備をつけたのが今回のハイゼットトラックですね。

----:3車種ともカラーバリエーションも豊富ですね。

殿村:カラーバリエーションはダイハツが先んじてやっていますので、今回も豊富にご用意しています。徐々に皆さんの指向も分かってきました。例えばトラックのカーキ系の色はものすごい根強い人気を誇っていますので、そこはしっかり採用しています。

実はトラックのアイスグリーンは、去年、ハイセットは60周年でしたので、ミゼットリスペクトのカラーです。本当はミゼットグリーンという名前にしたかったのですが、もともと『タント』で採用していた色なので、名前は変えられませんでしたが、60年の区切りがついたので、街のヘリコプター、ミゼットリスペクトのイメージで入れています。

《内田俊一》

内田俊一

内田俊一(うちだしゅんいち) 日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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