【ボルボ C40リチャージ 新型試乗】これが、EVの本質を見極めたプレミアムブランドの姿…御堀直嗣

ボルボ C40リチャージ
ボルボ C40リチャージ全 18 枚

日本市場初となる、スウェーデンのボルボの電気自動車(EV)が導入された。『C40リチャージ』である。基になるのは小型SUV(スポーツ多目的車)として国内でも納車待ちが起こるほど人気を得た『XC40』だ。そのプラットフォームは、あらかじめEVを想定して開発されていた。

運転席に座るだけで発進OK

ボルボ C40リチャージボルボ C40リチャージ

C40リチャージの外観は、後ろ側がクーペのような姿となっていることが、XC40と異なる。荷室の容量は極力XC40水準を保持しながら、屋根の後半をクーペのような姿とした背景にあるのは、空気抵抗の低減だ。そのために、ルーフスポイラーとテールスポイラーの二つを装備している。

室内の様子はXC40と大きく変わらない。ただし、走りだすための手順がXC40と異なる。運転席に座ったら、あとはブレーキペダルを踏んでシフトレバーを動かすだけだ。従来のイグニッションスイッチはない。この発想は、米国のEVメーカーであるテスラと同様だ。クルマを降りる際には、Pへシフトしたあと、ドアを開ければ電源が切れ、イグニッションスイッチでの操作はない。すべてを電気で作動するEVならではといえる。

そもそも、エンジン車の段階から、欧州は安全性向上のため、ドアを開けると電源が切れる仕組みを活用してきた。それを応用したまでだ。

ボルボ C40リチャージボルボ C40リチャージ

完全停止までできるボルボのワンペダルドライブ

試乗車は、前後にモーターを持つ4輪駆動(4WD)で、アクセル全開にすれば猛然と加速し、同乗者を驚かせるほどだ。動力性能に何ら問題はない。当然、EVならではの滑らかな走りや、静粛性にも優れる。そして床下に搭載されたバッテリーの適正な配置により、前後重量配分は50対50であるとされ、ハンドル操作に対する動きも素直だ。

回生を活かした減速については、アクセルペダルだけで加減速から停止までできるワンペダルが採用されている。これを好まない人は、切り替えスイッチで外すことができる。しかしせっかくEVを選ぶなら、ワンペダルを積極的に使うことを薦める。ペダル踏み替え操作が減るだけでなく、速度の微調整においても回生を使えることにより、車載バッテリーの電力の消耗を抑えられるので、安心材料となる。

その回生の効き具合は、まさに丁度よい利かせ方で、EVをよく研究した開発の様子が伺える。

御堀直嗣氏御堀直嗣氏

ワンペダルで停止までさせることに対し、停止にはブレーキペダルを踏むべきとの声もあるが、私はワンペダルで停止までできることに賛成だ。その制御は緻密で難しく、精緻な設計ができなければ実現できない。世界的に安全なクルマとして名高いボルボが停止まで可能としたことは、危険性が極めて少ない証ではないか。

そもそも、エンジン車を含め停車後にブレーキペダルから足を離しても停止し続けるブレーキホールドを装備するクルマが増えている。停車はブレーキペダルで行うべきとの論を張るなら、停車中にブレーキペダルから足を離しても止まっているブレーキホールドの機能はどう判定しているのか?

EVの本質を見極めたテスラ、そしてボルボ

ボルボ C40リチャージボルボ C40リチャージ

EVとは、ハイブリッド車を含めエンジンを持つクルマとは違う次元の移動手段だ。そこを見極め、その理想像を追求し、商品化すべきである。その象徴が、テスラだ。ボルボ C40リチャージは、テスラを模倣したのではなく、テスラと同じようにEVを極めようとして操作や装備を大きく見直した成果とみた。

そのうえで、本革の使用をやめ、合成皮革や繊維を駆使した室内は上質でありかつ快適だ。合成皮革とされるハンドルやシフトノブの手触りも心地よかった。

原理原則を見極め、何が本質か、本物とはどのような姿か、走行性能や質感、そして安全性を含め、概念をしっかり固めてEVを売り出したボルボは、プレミアムブランドとしてふさわしい。

シングルモーター仕様という選択肢も

ボルボ C40リチャージボルボ C40リチャージ

最後に一つ挙げれば、モーター駆動によるEVは、必ずしも諸元として高性能な数値を求めなくても十分な動力性能や、上質な走行感覚は実現できる。その意味で、2輪駆動でありかつ安価なC40リチャージ・シングルモーター(3月18日に日本発表)への期待は高い。またタイヤは、インチアップした偏平ではなく、インチダウンの細身が理想だ。まだシングルモーターに試乗していないが、発表されたばかりの2輪駆動車がお薦めではないかと想像している。

EVでは、廉価な車種がエントリーではなく、価格の高低を含め、単なる選択肢との価値観を持つべきだと思う。そこについてボルボは、『XC90』と『XC60』、そしてXC40を、上下の価値観で語らない姿勢をすでに示してきた。

ボルボ C40リチャージボルボ C40リチャージ

■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★

御堀直嗣|フリーランス・ライター
玉川大学工学部卒業。1988~89年FL500参戦。90~91年FJ1600参戦(優勝1回)。94年からフリーランスライターとなる。著書は、『知らなきゃヤバイ!電気自動車は市場をつくれるか』『ハイブリッドカーのしくみがよくわかる本』『電気自動車は日本を救う』『クルマはなぜ走るのか』『電気自動車が加速する!』『クルマ創りの挑戦者たち』『メルセデスの魂』『未来カー・新型プリウス』『高性能タイヤ理論』『図解エコフレンドリーカー』『燃料電池のすべてが面白いほどわかる本』『ホンダトップトークス』『快走・電気自動車レーシング』『タイヤの科学』『ホンダF1エンジン・究極を目指して』『ポルシェへの頂上作戦・高性能タイヤ開発ストーリー』など20冊。

《御堀直嗣》

御堀直嗣

御堀直嗣|フリーランス・ライター 玉川大学工学部卒業。1988~89年FL500参戦。90~91年FJ1600参戦(優勝1回)。94年からフリーランスライターとなる。著書は、『知らなきゃヤバイ!電気自動車は市場をつくれるか』『ハイブリッドカーのしくみがよくわかる本』『電気自動車は日本を救う』『クルマはなぜ走るのか』『電気自動車が加速する!』『クルマ創りの挑戦者たち』『メルセデスの魂』『未来カー・新型プリウス』『高性能タイヤ理論』『図解エコフレンドリーカー』『燃料電池のすべてが面白いほどわかる本』『ホンダトップトークス』『快走・電気自動車レーシング』『タイヤの科学』『ホンダF1エンジン・究極を目指して』『ポルシェへの頂上作戦・高性能タイヤ開発ストーリー』など20冊。

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