DSブランドとDS 4…ライバルは? ユーザーは? 課題は?[インタビュー]

ステランティスジャパンマーケティング部マーケティングダイレクターのトマ・ビルコさん
ステランティスジャパンマーケティング部マーケティングダイレクターのトマ・ビルコさん全 9 枚

ステランティスジャパンは『DS4』の導入を開始。そこでマーケティングダイレクターとプロダクトマネージャーにDSオートモビルの現状やDS4の強み、ターゲットユーザー、そして販売戦略などについて話を聞いた。

◆ドイツ車とはコンセプトが全く違う

----:日本にDSのディーラーが出来てから数年が経過しました。現在日本マーケットでのDSブランドはどのように受け入れられているのでしょうか。

ステランティスジャパンマーケティング部マーケティングダイレクターのトマ・ビルコさん(以下敬称略):認知度はまだあまり高くないのが現状です。商品のクオリティもコンセプトもとても良い商品なのですが、認知度が低いことから、結局お客様にブランド自体が伝わらなくて購入に繋がらないのが1番残念なことです。

実はステランティスジャパンになったことで、DSオートモビルの説明を旧FCAの人たちにもしたのですが、あまり知られていなくて。そこで実際に乗ったもらったところ、とても良いクルマじゃないかといいに来てくれます。まさに認知度の問題ですね。日本全国で12店舗しかなく、生まれてから5年しか経っていませんので、これからチャレンジしていくことは多々ありますが、ブランドのデザインとプロダクトは優秀なレベルですので、そういった面も含めて認知度を広げるための戦略を考えなければいけません。

----:例えば競合としてドイツブランドの壁みたいなものは感じられますか。

トマ:壁というよりもドイツの競合車に対しては、コミュニケーションとコンセプトが全く違うと考えています。ドイツ車はどうしてもまずパワー、サイズ、そしてブランドネームですね。DSは全然違うタイプのコミュニケーションで、例えばエレガンス、快適、フランスのサヴォア・フェールといったコミュニケーションコードですので全然違うんです。その結果として、お客様はドイツ車からDSブランドに来ていただいたとしても、理解しにくいことが多いように感じています。

ステランティスジャパンDSオートモビルプロタクトマネージャーの田村明広さん(以下敬称略):その通りで、ドイツ車はパフォーマンスや機能ありきです。もちろん機能は大切なのですが、サヴォア・フェールの体験、例えば美意識とか、そういったものをぜひ感じてもらいたいですね。そういったところに喜びを感じてもらう、ドキドキしたい方々は、いまドイツ車にお乗りのユーザーにも多くいらっしゃると思っています。

ステランティスジャパンDSオートモビルプロタクトマネージャーの田村明広さんステランティスジャパンDSオートモビルプロタクトマネージャーの田村明広さん

ステランティスジャパン広報部広報マネージャーの英信司さん(以下敬称略):ドイツ車よりも見て楽しむという側面がデザインに対してあると思います。もちろんスペックや、パワー、足回り、燃費というのも大事ですが、それ以外のクルマになかなか見つけにくい、心に感じる芸術性とか、アートみたいなものをとても大事にしているブランドがDSなのです。

◆DSはバリューが高い

----:ではヨーロッパでのDSブランドの評価はいかがですか。

トマ:DSはヨーロッパでも認知度はまだ高くないレベルですが、実際にはとてもバリューがあるクルマというポジショニングです。例えば『DS 9』はEセグメントサイズで、価格はDセグメントベースで競合車を考えています。その理由は、プロダクトのバリューとアピールを考えた結果です。ブランドの認知度を踏まえての、エクストラアピールなのです。つまり、きちんと市場でのボリュームを成長させていかなければなりませんので、ある程度価格面ではテンポラリーボーナスといっていいものになっています。ただし、タバレス(ステランティスCEOのカルロス・タバレス氏)はDSブランドの価格の見直しはそろそろやらないといけないという話が出ていますけどね。

そして、いま欧州で一番ティピカルな販売方法は、お客様がプジョー『3008』を買いに来たとしましょう。そのディーラーは『DS 7クロスバック』をご存じですかみたいな感じで試乗してもらって、そこでお客様はそのクルマが気に入ってもらい購入につなげるというものです。ここでの問題は、プジョーやシトロエンのブランドパワーはすごくありますが、DSの認知度はそれほどでもないということです。従ってディーラーがその3つのブランドを売っていたとした場合、プジョーとシトロエンは頑張って売りますが、DSはあまりプッシュしないパターンが結構多いようです。

ただし、時間は少しかかっていますがブランドのリーチは広がってきています。フランスは贅沢なものを作るのが上手で、例えば、ルイ・ヴィトンのバッグとかもそうですよね。それと全く同じような考え方、価値観でDSオートモビルのブランドを考えましょうとタバレスは進めているのです。すごくロジカルですし、そういうポジショニングは他の自動車ブランドにはありません。単純に自動車に置き換えるとお客様にはわかりにくいかもしれませんが、それは世界中で同じですよね。そのポジショニングはユニークで面白くて、すごくアピールできるでしょう。

いまDSブランドのクルマに乗ってる人たちはアーリーダプターで、その方達にDSのクルマはすごく満足度高いんです。日本の調査でもDSオートモビルのクルマは満足度が一番高いといえます。

----:もう少し詳しくユーザー層について教えてください。どういう人たちがユーザーとして多いのですか。

トマ:ファッション業界とかデザインが好きな人、これまでとは違うタイプのクルマを探している人たちです

田村:建築系も多いですね。そういったところで親和性があって、すぐにその良さわかってもらえることから高く評価してくれます。今後はその間口をもっともっと広げていかなくてはなりません。

◆アーリーアダプターが最も重要だが

----:DS 4はDSブランドの中で半分くらいの割合を目指したいとのことですが、そうなるためにはDS 4の強みなどがあると思います。それを教えてください。

田村:まずデザインでは、手前味噌ではありますが、DS 4は誰もが美しいと評価されています(第37回国際自動車フェスティバルにて世界で最も美しいクルマとして受賞)。クルマを購入する大きな要素を占めるのはやはりデザインです。その部分でまず1つ、大きな商機が生まれます。

では、クルマのデザインは良くても実際に使い勝手はどうなのか。Cセグメントで使い勝手というとSUVになりますが、ハッチバックでもそれなりの使い勝手をしっかりとしなければいけません。その点でもDS 4はしっかりと作り込まれており、さらに装備についても同じセグメントと比較し、しっかりとした装備を奢っており、そして価格も競合と伍する価格帯になっています。これらの3点から十分勝負できると考えています。

----:今後Cセグメントハッチバック市場に投入したDS 4の影響で台数は増えていくと思いますがいかがですか。

田村:現在4つのラインアップ(DS 9、DS 7クロスバック、DS 4、DS 3クロスバック)があって、いろんなライフスタイル、お客様に応じて提案していけるようになりました。さらに現在DSに乗っているお客様、あるいは昔のDSに乗られいたお客様の選択肢が増えることにもなりますので、そこにオポチュニティは絶対にあります。

トマ:またCセグメントハッチバック市場は他よりも大きいのです。プレミアムだからといってもユーザーはあまり変わらないと考えています。市場を分析してみますと、CセグメントプレミアムハッチバックとCセグメントハッチバックとで、ユーザー層はインカムも年齢もだいたい同じです。ということは、その人たちはCセグメントハッチバック市場全体を見て、1台を買うわけです。

----:そういうユーザーもいるでしょうが、DSオートモビルが狙うユーザーは、他を比較しないで決め打ちで来るのではないでしょうか。

トマ:確かにDSはそういうクルマです。そうはいってもCセグメントハッチバックを買いたい人はサイズやボディタイプなどをはじめに考えるでしょう。そこからスタートして、DS 4はそのショッピングリストの中のもうひとつのチョイスになると考えています。そういうお客様は上手に自らのブランドのリーチを広げる方々ですので、DSブランドにも来るんだと思います。

ただし、一番大切なのはやはりアーリーアダプターです。DSブランドが好きで、こちらがファーストウエイブ。次のステップはCセグメントの色々なクルマを見てDS 4もショッピングリストに乗せてもらえるようにしていかなければいけません。そのために認知度を上げていく必要があるのです。

田村:それと同時にこれまでは2モデルしかなく、認知度も低かったので、お客様が商品が良いと思われたとしても、2つしかないとちょっと迷いが出てしまうこともあったかもしれません。ただ、今年、DS 9とDS 4を導入したことで色々なラインナップが用意されましたし、我々もDSブランドをしっかりと日本市場で大切に育てていきますので、そういった面での安心感はここ数ヶ月で醸成されるかなと思っています。

◆現在のプレミアムブランドに飽き足らない方達に

----:DS 4のターゲット層ですが、新たにこういうところに訴求していきたいというところはありますか。

田村:まずプレミアムCセグメントの主な購入層は、50代あたりの男性のお客様が多いという結果があります。ただ、我々としては、もっとお客様の間口を広げていきますので40代、あるいはもっと若い30代に向けてアピールしていきたいと考えています。ただし、なんでもかんでも広げていくということではなく、DSの価値観、世界観をエンジョイしてくださる方がターゲットになるでしょう。

また、Cセグメントハッチバックの購入者はどこから来るかというと、大体3割から4割ぐらいが同じCセグメントハッチバックです。その次がBセグメントハッチバックからのアップサイザー。同じくらいのレベルでDセグメントからのダウンサイザー。お客さんはそれぞれ違いますよね。で、Dセグメントからのお客様でいうと、DSの価値をより感じていただけるのではないでしょうか。

トマ:そうなるとやはり認知度が問題になるわけです。クルマは良いので、どうやってそのブランド価値をコミュニケーションするかがメインの課題になっていくのです。

DSはあまりシンプルなブランドではないので訴求がとても難しい。デザインバランスもすごく良くて、快適も素晴らしいうえに、様々なディテールにポイントがあります。例えばフロントのライトなどが回転することなどについての説明はエキスパートにしかできないかもしれません。DSブランドの営業マンはDSが大好きなんですが、説明しないといけないところがたくさんあるので、伝えきれるかというと難しいかもしれません。コミュニケーションやマーケティングの部署でももう少しシンプルに、ブランドについてのアピールを説明出来るように頑張っていますが、ただ単にシンプルにするために色々と削って、逆にブランドの深さがなくなってしまっては意味がありません。そのバランスが見つけにくいのです。

田村:プレミアムブランドの多くがドイツブランドで、長い間日本の市場で受け入れられており、長い間皆さんそのプレミアムブランドでエンジョイされていますし、その間でお客様も当然徐々に洗練されていきます。そうすると、そのプレミアムブランドに飽き足らない、あるいはちょっと飽きた、違うものを見てみたいと感じる方もいらっしゃる。そういう方達に向けてDSブランドはとてもいい受け皿になると思います。物理的、機能的な価値だけではなく、マインドの部分であぁいいなと思ってもらえるところに価値を感じてもらえる人はこれからどんどん増えてくるでしょう。そういったところにチャンスがあると思っています。

:そういったドイツ車からの流入もある程度あると思っています。DSブランドは細かいところにもこだわりがあり、サヴォア・フェール(フランス流の匠の技)に魅力を感じてくださる方は必ずいるでしょう。

例えばレザーシートの縫い目にはパールステッチを用いています。これは、フランスのオートクチュールでの製法技術を背景としています。また、細いスイッチ1つ1つにはクルド・パリという紋様を使っています。普通はここまでしないだろうというこだわりが、たくさん詰まっているのです。さらに、クルマの屋根の色が違ったとしても、人によっては色が違うだけと思うかもしれません。

しかしDSの場合は実は歴史的背景があって、そういったことを踏まえて作っているというと、さらにそこから歴史や文化を知ることができるわけで、そういった良さがDSにはあるのです。お客様は、昔と比べてこういったディープなところもすごく気にされるようになってきましたので、こうしたエモーショナルなところに惹かれる方は必ずドイツ車のファンの中にもいるでしょう。そこもターゲットになるでしょうね。

DS9DS9DS4DS4

◆あのクルマとの違いは

----:どうしても新規ユーザーのお話になりがちですが、DS 4は2代目ですので初代DS 4ユーザーへのアプローチはどう考えているかについても教えてください。

:ディーラーとしての活動としては、先代のDS 4に乗っていた方には当然ながら全てを見てもらい乗っていただいて、先代と新型とで何が違うのか、どういうところが進化したのかをまず味わっていただきたいと思っていますし、そういった活動は促進していきます。

----:ちょうど全く同じセグメント、同じプラットフォームでプジョー『308』が出ました。デザイン面やブランドとしての違いはとても分かりますが、やはり比較する方は多くいるでしょう。走りの面などでは大きな差異はあるのでしょうか。

トマ:試乗したらすぐにわかるでしょう。DS 4と比較するとプジョーはスポーティで少しサスペンションも硬いですし、ハンドルも小さくてすごくコンパクトな感じがします。運転するとすごくタイトでアグレッシブなクルマに感じると思います。一方DS 4は快適、ソフト、Cセグメントにも関わらずもっと大きなクルマに乗っている感じがして、コンフォートと贅沢さがミックスされたクルマですので、プジョーとは全く違う世界になっています。

----:今回DS 4が導入されたことで、『DS 3クロスバック』、DS 7クロスバック、DS 9を合わせて4モデルになりました。ラインアップはこれで一先ず完成と考えてよいのでしょうか。

トマ:これまでと同じ戦略で、年に1台新しいモデルを導入したいと思っており、そこはこれからも変わりません。いまBセグメントからEセグメントまでクルマがありますので、セグメントのカバレージで考えると一先ず完成といっていいでしょう。ただそのセグメントの中で新しいタイプのクルマとか違うコンセプトのクルマを導入することを予定しています。


《内田俊一》

内田俊一

内田俊一(うちだしゅんいち) 日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

+ 続きを読む

【注目の記事】[PR]

ピックアップ

アクセスランキング

  1. トヨタ『ランドクルーザー250』発売、520万円から…特別仕様車も
  2. マツダ、新型3列シートSUV『CX-80』をついに世界初公開 日本導入時期は
  3. ジムニー愛好者必見! ベルサスVV25MXが切り拓く新たなカスタムトレンドPR
  4. トヨタ ランドクルーザー250 をモデリスタがカスタム…都会派もアウトドア派も
  5. トヨタ堤工場、2週間生産停止の真相、『プリウス』後席ドア不具合で13万台超リコール[新聞ウォッチ]
  6. 日産はなぜ全固体電池にこだわるのか? 8月にも横浜工場でパイロットプラントを稼働
  7. ホンダ『N-VAN』一部改良、急アクセル抑制機能を装備…アウトドアスタイルの特別仕様も
  8. アルファロメオ『ジュニア』がミラノ・デザインウィーク2024に登場
  9. 一気に200馬力以上のパワーアップ!? アウディのスーパーワゴン『RS4アバント』後継モデルは電動化で進化する
  10. <新連載>[低予算サウンドアップ術]“超基本機能”をちょっと触って、聴こえ方を変える!
ランキングをもっと見る