【MaaS体験記】旅する北信濃における観光型MaaS―デジタル空間における課題

旅する北信濃スタンプラリー
旅する北信濃スタンプラリー全 10 枚

今回の取材は、東日本旅客鉄道株式会社(以下、JR東日本)が2022年4月3日から6月29日まで開催される善光寺御開帳に合わせて、長野県・北信濃エリアで展開する観光型MaaS『旅する北信濃』の取り組みだ。

観光電子チケットやエキトマチケット、交通電子チケットからスタンプラリーまで、長野駅から善光寺、小布施エリアに実際に訪れて体験してきた。

善光寺山門から本堂前の回向柱をのぞむ善光寺山門から本堂前の回向柱をのぞむ

「旅する北信濃」とは

JR東日本が、長野県・北信濃エリアで展開する『旅する北信濃~牛(スマホ)にひかれて善光寺御開帳~』は、7年に一度の善光寺御開帳に合わせて、2022年4月1日から6月30日まで展開する観光型MaaSの取り組みだ。長野県で実施する観光型MaaSは、JR東日本と西武ホールディングズが2022年1月から3月にかけて長野県北佐久郡軽井沢町で実施した『回遊軽井沢』が記憶に新しい。軽井沢町では初のオンデマンド交通も実施した。

今回の取り組みでは、観光電子チケットや飲食・レンタサイクル等を楽しめるエキトマチケット、交通電子チケットからスタンプラリーまで、スマホひとつで楽しめるサービスを展開する。実施エリアは、長野市(善光寺、松代、戸隠)・小布施町・山ノ内町・野沢温泉村・飯山市で展開されている。

長野駅と善光寺を行き来する路線バス長野駅と善光寺を行き来する路線バス

牛(スマホ)にひかれて善光寺参りの体験

東京駅から長野駅まで新幹線だと2時間もかからない。東京駅や新幹線車両内にも善光寺参りのポスター等が貼られているなか、長野駅に着くと改札付近に「旅する北信濃」スタンプラリーの立て看板が設置されていた。早速「旅する北信濃」のウェブサイトから、スタンプラリーに参加して立て看板にあるQRコードを読み取りスタンプを獲得。

今回の体験ツアーで3つは獲得できそうだ、とJR東日本長野支社総務部企画室計画推進グループの北村栄治グループリーダーは話す。スタンプラリーは5月末時点でも1,000人以上が引き換えに長野駅の「駅たびコンシェルジュ」を訪れており、一番人気のオリジナルトートバックはすでに完売していた。

旅する北信濃スタンプラリー旅する北信濃スタンプラリー

善光寺に向かうため長野駅東口ロータリーエリアに移動すると、路線バスなどの乗降場所が多くある。今回の取り組みに連携するARアプリ「XR CHANNEL」をインストールしておくと、路線バスの乗り場などがARで表示できるとJR東日本長野支社総務部企画室計画推進グループの原裕紀係長は説明する。また、今回のキャッチコピーにもある「牛にひかれて善光寺参り」を体現するアニメーションが、実際の善光寺の方向を指し示すデモンストレーションとともに見ることができた。ただし、インストールに加えてコンテンツダウンロードなどにも時間が必要なため、事前に状況は確認しておくことをおすすめする。

ここから「旅する北信濃」ウェブサイトから交通電子チケット「善光寺表参道1日周遊きっぷ」を購入し、御開帳記念ラッピングされた路線バスで善光寺に向かう。この交通電子チケットは、バスを下りる際に運転手にスマホ画面を見せることで利用できるものだ。バスを下りると、縁日のような賑わいの表参道の商店街を通る。ここでも、商店街にある店舗情報を善光寺までの位置関係とともにARアプリで表示することができた。

「ARで看板」で路線バスのりばを見たときのXR CHANNELアプリ「ARで看板」で路線バスのりばを見たときのXR CHANNELアプリ

さまざまな電子チケットサービス

7年ぶりの御開帳ということで、仁王門あたりから人の往来が多くなる。今回は、本堂手前にある山門に登ることにし、観光電子チケット「山門参拝券」を購入し山門を登った。ちょうど本堂正面にある回向柱に向けてお坊さんが通るイベントの時間だったので、山門から拝見し参拝できた。参拝後には、本堂近くにあるスタンプラリーの立て看板を見つけたので、スタンプ2つめを獲得でできた。

今回の加盟店のひとつである「尾張屋そば店」で昼食をとる。特別メニューの「天ざる御膳+そば団子サービス」がエキトマチケットで安く美味しく食べることができた。料金分のエキトマチケットを買うことで支払いできる。

善光寺参りを済ませ、いったん長野駅に戻り小布施エリアのほうへ移動する。ここでは交通電子チケット「長野・小布施フリーきっぷ」で区間が乗り放題になる。長野電鉄の車両「スノー・モンキー」に揺られ、30分くらいかけて小布施駅に到着した。

エキトマチケットでの支払いエキトマチケットでの支払い

エキトマチケットの活用と課題

今回提供しているデジタルチケットにはいくつかの種類があり、そのなかでも注目すべきはJR東日本が提供する「エキトマチケット」だ。商品券のようなもので、このチケットを購入することで購入額に応じてJRE POINTが貯まり使える仕組みだ。

小布施駅に着き、小布施文化観光協会が提供しているレンタサイクルを借りようとエキトマチケットを「旅する北信濃」のウェブサイトから購入した。レンタサイクル利用料金が1,000円/2時間なのでエキトマチケット500円分を2つ購入する必要がある。自転車を借りて小布施エリアを回り、喫茶店「栗の木テラス」小布施店に到着。地元の桜井甘精堂が「旅する北信濃」特典メニューとして開発されたモンブランプレートを、エキトマチケットを購入して美味しく食べることができた。

小布施駅でレンタサイクルをエキトマチケットで利用する小布施駅でレンタサイクルをエキトマチケットで利用する

その後、小布施市にゆかりのある葛飾北斎に関するスポットをいくつか自転車で回った。北斎が描いた絵が天井にある岩松院、さらに北斎の活動が展示品とともに見ることができる北斎館へも行った。どちらもエキトマチケットを購入して入場することができ、岩松院にはスタンプラリーの立て看板もあった。ここで3つめのスタンプを獲得。自転車での移動途中には、シャインマスカットのぶどう畑が至るところにあり、また秋にも来たいと思いながら小布施駅に戻ってきた。今回対象の観光地やお店などの目的地は、北信濃MaaSプロジェクトメンバーがオリジナルで作成したものだ、とJR東日本長野支社長野駅北信濃MaaSプロジェクトのアドバイザー夏目学氏は紹介した。

この小布施駅に着いてからの一連の体験は、すべてエキトマチケットを購入しておくことで楽しめるものばかりだった。それも、レンタサイクルや飲食、施設の入場券など利用範囲は多岐にわたる。今回の取り組みの特長は、観光と交通の電子チケットを揃えたことはもちろん、それ以外のアクティビティをエキトマチケットでまかなった点だといえる。

善光寺表参道一日周遊きっぷ善光寺表参道一日周遊きっぷ

スマホひとつでカバーするデジタル空間

取材当日の5月末まで長野駅構内では、今回の取り組みと並走するように、NTTドコモ・JR東日本・東京海上日動・NTTデータ信越の4社で、ドコモ・バイクシェアを活用した「長野市周遊シェアサイクル」も無料で展開されていた。これまで長野市ではシェアサイクルの展開はなかったが、7年ぶりの御開帳記念に合わせて実施されたとJR東日本長野支社の北村氏は話す。

「長野市周遊シェアサイクル」利用中の観光客「長野市周遊シェアサイクル」利用中の観光客

今回の取り組みは、JR東日本長野支社の率先したリーダーシップが生んだ観光型MaaSのカタチだ。善光寺参りという一大イベントを基点に、周辺の観光に必要な体験をすべてパッケージにしたもので、あらゆる体験が電子チケットおよびエキトマチケットでカバーされている。

一方、「旅する北信濃」ウェブサイトでの電子チケット購入体験は、デジタルリテラシーが比較的高い筆者でも困難な場面があった。数多くのお店をカバーしうる観光電子チケットとエキトマチケットの関係は、すぐには理解しにくいところがあるため、どのメニューを見ているのか元に戻れないということが何度かあった。また、基盤となる「tabi-connect」プラットフォームとの関係など、画面上に見えているメニューと行いたい行動とが合致せずウェブサイト内で迷子になる場面が何度かあった。

観光体験をデジタルでまかなえばまかなうほど、デジタル機器やソフトウェアなどのデジタルリテラシーは直接使い勝手に影響する。今回の取り組みは「スマホひとつで」できる観光体験ではある一方で、デジタル空間の情報の扱い方や、使いやすさ(ユーザビリティ)についての課題が浮き彫りになった。

MaaSプラットフォームを全国展開していくためには、リアルによる観光体験以上に、こうしたデジタル空間での体験をより豊かにしていくことが今後の課題として注目されはじめている。

3つ星評価

エリアの大きさ★★☆
実証実験の浸透★★☆
利用者の評価★★☆
事業者の関わり★★★
将来性★★★

坂本貴史(さかもと・たかし)
株式会社ドッツ/スマートモビリティ事業推進室室長

グラフィックデザイナー出身。
2017年までネットイヤーグループ株式会社において、ウェブやアプリにおける戦略立案から制作・開発に携わる。主に、情報アーキテクチャ(IA)を専門領域として多数のデジタルプロダクトの設計に関わる。UXデザインの分野でも講師や執筆などがあり、2017年から日産自動車株式会社に参画。先行開発の電気自動車(EV)におけるデジタルコックピットのHMIデザインおよび車載アプリのPOCやUXリサーチに従事。2019年から株式会社ドッツにてスマートモビリティ事業推進室を開設。鉄道や公共交通機関におけるMaaS事業を推進。

《坂本貴史》

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