【ホンダ ホーク11 試乗】「自分仕様」に仕立ててこそのカフェレーサーだ…伊丹孝裕

ビッグバイクに特有の「緊張感」がない

極端な鋭さを抑えた、懐の深い旋回力

クルージングかスポーツか、気分次第でどちらにも振れる

与えられたまま乗るのも芸がないから…

ホンダ ホーク11
ホンダ ホーク11全 16 枚

カフェレーサーというジャンルにルールはなく、そこにコンペティティブな雰囲気が盛り込まれていればそれでいい。だから、ベースモデルに制限はない。自由だ。一定の様式美はあるものの、スピードを追求する姿勢があれば、それが自分だけのカフェレーサーになる。

その意味で、素材がスピードからかけ離れていればいるほど、仕立て甲斐があるのだが、ホンダはメーカーカスタムとして送り込んできた。今秋登場する『ホーク11』(発売2022年9月29日/価格139万7000円)である。

ホンダ ホーク11ホンダ ホーク11

ホーク11の原型は『CRF1100アフリカツイン』だ。ビッグアドベンチャーの中でもかなりオフロード寄りのモデルを、オンロード向けに改造したことを意味する。もっとも、ホンダはこれを「カフェレーサー」とはひと言も言っていない。コンセプトの言葉を借りれば、「速くない、でも少し速いスポーツバイク」に過ぎないが、ロケットカウル、セパレートハンドル、存在感を消したミラーといったエクステリアは、カフェレーサーの流儀に則ったものであり、メーターとカウルの位置を決めるステー、スクリーンを留めるビス、FRPの繊維地が見えるカウル内側の処理……といった細部もまた、その雰囲気を高めている。

カフェレーサーとは自己満足の世界である。もとより万人受けするものではなく、実際ホーク11のスタイリングに関しては「賛否両論があった」と開発陣も明言。グローバル展開されない、日本専用モデルという割り切りが生んだある種のプロトタイプ、あるいは観測気球とも言える。ただし、メーカー仕事であるため、乗り味まで自己満足でよしとするわけにはいかない。果たしてそれは、どのような水準にあるのか。

ビッグバイクに特有の「緊張感」がない

ワインディングにおけるホーク11は、コーナー入り口から立ち上がりまで優れたスタビリティを披露。ハンドリングもエンジンも鋭過ぎず、さりとて緩慢過ぎないど真ん中に落とし込まれていた。

車体は長く、それに伴って高さもあるように見えるが、足つき性は良好だ。ハンドルはトップブリッジ下にマウントされていながらもステアリングヘッドの位置が高く、前傾姿勢は緩い。スーパースポーツのハンドルとシート座面がフラットな位置関係にあるとすると、ホーク11のハンドルは10cmほど上方向にあり、安楽と言って差し支えない。

ホンダ ホーク11ホンダ ホーク11

ゆえに、車体の引き起こしにはさほど力を要さず、取り回しも容易だ(車重は214kg)。そこにビッグバイク特有の緊張感はない。こうしたユーザーフレンドリィさは他にもまだあり、クラッチレバーの軽さ、低速トルクに委ねられるストップ&ゴーのしやすさ、特徴的なマウント方法ではあるが振動がなく、クリアに見えるミラーの視界、シンプルなスイッチがもたらす操作の分かりやすさなどが挙げられる。

ハンドル切れ角は、可もなく不可もなくといったところ。フルロック状態でも一定のクリアランスが確保され、通常の片側1車線道路なら難なくUターンをすることができる。

極端な鋭さを抑えた、懐の深い旋回力

ホンダ ホーク11ホンダ ホーク11

ホーク11で最も印象的だったのは、ライダーがコントロール下における旋回力だ。一線級のスーパースポーツのように、体重移動と同時に車体が倒れ込むようなシャープさは抑えられ、少しのタイムラグがある。身体を曲がりたい方向に軽く引き込んだ時、1. 車体のバンク角が深まる→2. リアタイヤのエッジが路面を捉える→3. フロントの舵角がそれを追いかけてくる、といった一連のプロセスが、「ワン・ツー・スリー」のリズムできっちり体感できる。スーパースポーツの場合は、それが「ワン・ツー」、もしくは「ワンツッ」で終わるイメージだ。

これはホーク11が鈍重だと言っているのではなく、スーパースポーツが機動性に特化し過ぎているのだ。走るステージ的にも、ライダーのスキル的にもストライクゾーンはピンポイントかつ、ハイレベルなところにあり、その意味で現代のスーパースポーツこそが真のカフェレーサーだ。

一方、ホーク11のストライクゾーンは、そのずっと手前に、しかも広く設けられているところがいい。車体を切り返す時、右のフルバンクから左のフルバンクへ瞬時に持ち込めるスーパースポーツの俊敏性は神経も体力も削いでいくが、その過程で車体を一度直立させ、サスペンションの落ち着きを感じてから次のアクションへ移る。それが、ホーク11のコーナリングテンポである。

クルージングかスポーツか、気分次第でどちらにも振れる

ホンダ ホーク11ホンダ ホーク11

そのテンポを支えるのが、270度クランクの並列2気筒エンジンが発するコントローラブルな出力特性とトラクションの分かりやすさだ。SPORT/STANDARD/RAIN/USERと4パターンあるライディングモードの内、特にSPORTを選択した時のレスポンスが心地いい。スロットル開度に応じて間髪入れずにトルクが沸き起こり、しかしそれは決して過度ではない。右手の動きと「ダダダッ」というリアタイヤの蹴り出しがきれいにリンクし、エンジン回転数を意のままに上下動させることができる。

加速時のリアサスペンションの踏ん張り、減速時のフロントフォークのストロークも明確で、車体姿勢がしなやかに変化していく。特にダウンヒルの時の、つまり車体が前のめりになった時のスタビリティは素晴らしく、フロントまわりにいくら負荷を掛けてもちょっとやそっとのことでは破綻しそうにない。

ホンダ ホーク11ホンダ ホーク11

1510mmのホイールベースは、スポーツバイクとしては長い部類だ。同じくCRF1100アフリカツインから派生したツアラー『NT1100』のスイングアームを短縮し、キャスターも立てられているが、クルーザーの『レブル1100』より10mm短いに過ぎない。したがって、そのフォルムに緊張感はあまりない。車体に身を任せて流したい時は、その安定成分がポジティブに働き、積極的に旋回力を高めたい時は、ライダーの意識的なアクションによって、それを引き出すことができる。ホーク11のハンドリングは、気分次第でクルージングにもスポーツにも振ることができる境目にある。

与えられたまま乗るのも芸がないから…

ホンダ ホーク11ホンダ ホーク11

ホーク11は、「攻める」気分を味わえる良質なスポーツバイクに仕上がっている。とはいえ、人が作ったカフェレーサーを与えられたまま乗るのも芸がない(繰り返すが、ホンダはカフェレーサーという表現を使っていないが)。

だからもしもホーク11を手に入れたなら、自分仕様に仕立てていく。許される限り軽量スリムなリプレイスマフラーに換え、シングルシートと燃料タンクはFRPで、そしてサブフレームはアルミの丸パイプでワンオフ制作。吸気音はノーマルのままでもキャブレターっぽい音がする領域があるのだがエアクリーナーを交換してそれを強調し、バンク角と剛性を引き上げてくれるステップ、よりきめ細やかなセッティングができるサスペンションに換装する。

より軽く、よりシャープなたたずまいを目指して、少しずつカスタムを楽しみ、でもどうしてももう一歩踏み込みたくなって、ショートタイプのアルミスイングアームをオーダーしてしまうかもしれない。さらには、クロスミッションが組み込めるとおもしろい。そうやってしばし時が経った頃、ホーク11はすっかり自分だけのホーク11になり、走り込んだバイク特有の凄みが出ているに違いない。カフェレーサーの入り口に立つ、ベースモデルをホンダは提供してくれたのだと思う。

ホンダ ホーク11と伊丹孝裕氏ホンダ ホーク11と伊丹孝裕氏

■5つ星評価
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
コンフォート:★★★★
足着き:★★★★
オススメ度:★★★★

伊丹孝裕|モーターサイクルジャーナリスト
1971年京都生まれ。1998年にネコ・パブリッシングへ入社。2005年、同社発刊の2輪専門誌『クラブマン』の編集長に就任し、2007年に退社。以後、フリーランスのライターとして、2輪と4輪媒体を中心に執筆を行っている。レーシングライダーとしても活動し、これまでマン島TTやパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム、鈴鹿8時間耐久ロードレースといった国内外のレースに参戦。サーキット走行会や試乗会ではインストラクターも務めている。

《伊丹孝裕》

モーターサイクルジャーナリスト 伊丹孝裕

モーターサイクルジャーナリスト 1971年京都生まれ。1998年にネコ・パブリッシングへ入社。2005年、同社発刊の2輪専門誌『クラブマン』の編集長に就任し、2007年に退社。以後、フリーランスのライターとして、2輪と4輪媒体を中心に執筆を行っている。レーシングライダーとしても活動し、これまでマン島TTやパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム、鈴鹿8時間耐久ロードレースといった国内外のレースに参戦。サーキット走行会や試乗会ではインストラクターも務めている。

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