【トヨタ GRカローラ】GRヤリスと何が違う? 開発者が考えるホットハッチ市場の現状とは

トヨタ GRカローラ モリゾウエディション(2シーター)
トヨタ GRカローラ モリゾウエディション(2シーター)全 14 枚

トヨタはGRのラインアップに『カローラスポーツ』をベースとした高性能モデル『GRカローラ』を追加した。なぜカローラなのか、また同じハッチバックの『GRヤリス』があるにも関わらず、なぜあえて同じハッチバックを追加したのか。その根底にあったのは“モリゾー”の想いと、GRブランドならではのマーケティング戦略だった。

カローラ・イズ・バック

「私が自分のお金で初めて買ったクルマがカローラだった。カローラは、誰かのストーリーになるクルマ。そんな多くの方に愛されるクルマだからこそ、絶対にコモディティといわれるような存在にしたくない。カローラはトヨタのブランドを支えてきた大切なモデルだ。私が社長に就任した時に、心に決めたことがある。それこそが“カローライズバック”」とモリゾーこと豊田章男社長はカローラに対する想いを語っている。

トヨタ カローラ1600GT(豊田章夫社長が始めた購入したクルマと同型車)トヨタ カローラ1600GT(豊田章夫社長が始めた購入したクルマと同型車)

そしてGRカローラについては、「開発陣はレーシングドライバーとともにあらゆる改善に取り組んだ。エンジンの出力をアップし、さらなる軽量化を進め、スポーツカーとしての魅力を向上させてきた。そうして乗ってみたい、ずっと走らせていたい、そしてまた乗ってみたいと思えるクルマに近づいたのではないかと思っている」とコメントした。

モータースポーツを起点とするクルマ作り

GRカローラ のチーフエンジニア 坂本尚之さんGRカローラ のチーフエンジニア 坂本尚之さん

1966年に初代カローラが発売され、現在で12代目。GRカローラの開発を担当したチーフエンジニアの坂本尚之氏は「トヨタにとって歴史の長い、非常に重要なモデル。多くのお客様に要望をもらい、それに応えながら、そして時代の変化に合わせながら、カローラは世界中で販売している。それぞれの地域のニーズや、地域ごとのお客様の利便性に配慮した形で変化しながら販売を続けてきたことが、ここまでご愛顧いただいた結果だ」と述べる。2021年には累計販売台数5000万台を迎え、「多くのお客様の笑顔や、大切な人生の1ページを作ることに少しでも貢献できたきたクルマではないか」。

さらにカローラはモータースポーツとも深い関わりがある。トヨタとして初めてWRCで優勝したクルマであり、スパ・フランコルシャンの24時間レースでもクラス優勝を果たすなど、「生産車ベースのレーシングカーとして、モータースポーツの現場で鍛えられてきたクルマでもある。マスタードライバーのモリゾウが言う、モータースポーツを起点とするもっといいクルマ作り、この元祖のクルマだと思う」とその位置付けを説明。

GRカローラ RZGRカローラ RZ

坂本氏はその一方で、「世界中でカローラを販売し、お客様の利便性に貢献してきたことにより、2000年を過ぎたあたりからスポーツ色が薄れてきている」という現状を見据え、「お客様を虜にするカローラを取り戻すというモリゾウの強い想いもあり、12代目カローラは、よりスポーティなモデルとして生まれ変わった」とベースモデルであるカローラスポーツについて解説。つまり、モリゾウの強い想いとモータースポーツを起点にしたもっといいクルマ作りを推し進めることから12代目としてスポーティに生まれ変わったカローラをベースにGRカローラの開発が始まったのだ。そして、「現在セダン、ハッチバック、ツーリングワゴン、カローラクロスとバリエーションがあるが、ここに新たなピースとして、GRカローラを作り上げた」とGRカローラがカローラの新ラインナップであることを強調する。

では、カローラの中でなぜカローラスポーツがベースとして選ばれたのか。坂本氏は、「スポーティ四駆を作るということで、ハッチバックでトライしたいという思いがあった」と明かす。そこには、「ホットハッチを世界各地に届けたい。確かに『GRヤリス』もあるが、カローラとヤリスとではお届けする国が違っており、例えばアメリカに向けてGRヤリスは作っていない。しかし、アメリカのユーザーはホットハッチ好きな人がたくさんいるので、そういった方々にお届けしたい」という思いがあった。「1番デリバリーが多くなるであろうと想定しているのはアメリカで、アメリカのホットハッチ市場を盛り上げたいという想いもある」とコメントした。

GRヤリス派とGRカローラ派

GRカローラについて語るレーシングドライバー、石浦宏明さん(中央)GRカローラについて語るレーシングドライバー、石浦宏明さん(中央)

開発時のテストドライバーを担当したTOYOYA GAZOO Racingドライバーの石浦宏明選手は、「(GRカローラの)ワールドプレミアの後に、SNSなどでGRヤリス派とGRカローラ派でかけ合いのような現象が起きていた。5ドアのGRカローラに乗りたい人もいれば、絶対3ドアのGRヤリスだという人もいる。そういう選択肢が増えたことはすごく良いこと」と語っていた。

GRカローラには「モリゾウエディション」と「RZ」グレードの2種類があるが、ユーザー像はどのように差別化しているのか。坂本氏は、「まずはいろいろなお客様に乗ってほしい。特定のユーザー層を想定してその人たちに乗ってもらいたいというよりも、色々な人に触れてもらい、GRがいま目指してるクルマ作りを感じていただきたい。その間口を広げるクルマ」とGRカローラを位置付ける。RZについては、「通常の利便性を考えるお客様が選ぶだろう」と話した。

セダン市場がシュリンクしている現状で、セダンの「GR化」は選択肢になかったようだ。そのぶん、グローバルでのマーケティング面も踏まえた“ホットハッチ”を選択した。GRカローラ投入でホットハッチ市場は盛り上がるのか。今後に期待したい。

《内田俊一》

内田俊一

内田俊一(うちだしゅんいち) 日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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