日産のコネクテッドカー&サービスの「いま」と「これから」…日産自動車 村松寿郎氏[インタビュー]

日産のコネクテッドカー&サービスの「いま」と「これから」…日産自動車 村松寿郎氏[インタビュー]
日産のコネクテッドカー&サービスの「いま」と「これから」…日産自動車 村松寿郎氏[インタビュー]全 1 枚

1990年後半のコンパスリンク以来、日産のコネクテッドサービスは進化し続けた。そして2022年、コネクテッドカー&サービスのフラッグシップである『アリア』が市場投入された。日産のこれまでの歩み、アリアに実装された最新の機能群、そして今後の方向について、日産自動車 コネクティドカー&サービス技術開発本部 コネクティド技術開発&サービスオペレーション部 部長 兼 ソフトウェア&ユーザーエクスペリエンス開発部 部長の村松寿郎氏に聞いた。

村松氏は7月28日に開催予定の無料のオンラインシンポジウム【日本発!モビリティ変革事例】産官学・モビリティコンソーシアム会議に登壇してこのテーマで講演予定だ。

リーフから蓄積してきたバッテリーのデータ

---:まず、コネクテッドカーとサービスに関するこれまでの日産の取り組みをご紹介くださいますか。

村松:日産自動車のコネクテッドカー&サービスは、1990年代後半、当時はコンパスリンクと呼んでいたものからスタートし、2002年にはカーウィングスというサービスに進化しました。その当時からデータや情報通信サービスと、オペレーターサービスをずっと継続しています。

その後、電気自動車のリーフを世界に出した時がさらなる進化の契機になりました。リーフを使うにあたってお客様に不便を感じさせないことを目的とし、通信機を全部のリーフに積んでEVのサポートサービスを提供しました。これと並行して、おもにバッテリーの品質を継続して見るという品質管理を始めました。

---:初代リーフは通信機を全台標準で搭載していていましたね。

村松:リーフがどんな使われ方をしたかずっとモニターしていて、バッテリーがもし劣化していたり、何か不自然な動きをしていたりしたら、即座にお客様対応をするというのが我々のコンセプトでした。市場ではそんなにクリティカルなことは起きませんでしたが、お客様の使い方のデータは非常に重要で、そのデータが脈々とその後のEVならびにバッテリーの開発に生かされています。

---:リアルワールドでの電池の状態をウォッチしていたわけですね。

村松:走るのにどれくらい電気を使って、1日に何回充電するのかというところも含めて見ています。バッテリーを充電して放電してというサイクルがEVのバッテリー寿命に大きく関わりますので、そういったところも貴重なデータになります。

---:リーフが登場した2010年からデータを積み上げているのですね。リーフについては、バッテリーの火災や発火事故はこれまでありませんね。

村松:まだゼロです。ものすごい品質管理、安全管理をしています。釘を刺しても発火しないことを確認する釘刺し試験もしっかりと行っていますし、かなり安全性を高めています。

---:安全性はこれまでの実績で証明されていますね。

村松:もちろんクルマを出すまでにもしっかり安全は担保するわけですが、市場に出したときにどんな使われ方をするのかは、やはり市場のデータでしか分からないので、使われ方に対するバッテリーの状態も市場に出してからウォッチしています。

---:リーフをきっかけに御社のコネクテッドカーの機能が広がりました。

村松:グローバル展開という意味ではそこが契機ですね。日米欧にリーフを投入したので、それと共にグローバル展開をしています。

---:欧米を走っているリーフのデータも集計していたのですか。

村松:はい。しかしながら欧州には独自のレギュレーションがあるので、データの取り扱いは日本とまったく同様というわけにはいかない現状はあります。データプライバシーの規則で、今はGDPRですが当時はDPAによるものです。

アライアンス統一プラットフォームへ

---:リーフ以降のコネクテッドカーの進化は、どのようなものがありますか。

村松:はい、2019年からアライアンス共通のプラットフォームを作ろうということになり、オンボードシステムをがらっと変えました。日本でいうと2019年発売のスカイラインからです。

---:そのタイミングからシステムの世代が変わったということでしょうか?

村松:そうです。特に変わったのはリモート機能ですね。スマートフォンが普及し始めて、お客様のインターフェイスとしてのスマートフォンが当たり前の時代になったので、スマートフォンからリモートでできることをどんどん増やそうとしました。お客様から見たときの機能としてはそこが一番大きな進化だと思います。

---:車両側のAPIをスマートフォン用に開けたということですか?

村松:車両側と繋がるゲートウェイサーバーがクラウドにあり、このゲートウェイサーバーの先にサービス用のロジックがあるんですが、そこにスマートフォンからアクセスできるようにしています。

---:なるほど。直接ではなくゲートウェーを介してオンライン上で連携できるようにしたということですね。市場の反応はいかがでしたか?

村松:いいですよ。もともとリーフで「乗る前エアコン」というものをしていましたが、それに加えていろいろできるようになりました。外からクルマのドアがロックされているかが分かったり、閉まっていなかったらロックすることができたりと、リモート機能がどんどん増えてきています。

---:これらはエンドユーザー側のベネフィットだと思いますが、アライアンスで統一したことでメーカー側のベネフィットはありましたか?

村松:アライアンスとしてのベネフィットが何かというと、まずはコストですよね。開発コストとオペレーションのコストです。クラウド上にシステムを構築して運用しなければならないので、アライアンスで同じシステムを作れば、ルノーと日産で1つのアセットをシェアすることで、台あたり単価をできるだけ抑えるというメリットはあります。またルノーと知恵を出し合うことにより、日産単独では実現できなかったかもしれないサービスも提供できています。

---:アライアンスで統一したシステムの対象地域はグローバルに広がっているのですか。

村松:そうですね。日産として今のプラットフォームを提供しているのが日本、カナダ・メキシコを含む北米、欧州、中国ですが、中国では現地のシステムと連携しています。

---:かなりグローバルですね。2019年から順次新しいシステムに切り替わっているのでしょうか?

村松:まずプラットフォームを作りまして、安定稼働するまでに時間がかかりましたが、今は安定稼働ができているので、サービスをだんだんとバージョンアップしているところです。

アリアに搭載された最新のコネクテッドサービス

---:そして現在のアリアですが、どのようなことを実現したのでしょうか。

村松:今回アリアで実現したのは、Amazon Alexaを利用して、クルマから家の方に繋ぐというCar to Home(カートゥーホーム)の機能です。家側のIoTとクルマがより連携するようにしたということです。これまでは、家からクルマへの一方通行でした。

---:クルマ側から家に繋ぐ場合には、どのような機能が使われるんでしょうか。

村松:家のスマートスピーカーで、あれやってこれやってと言って、電気をつけたりすることができると思いますが、それをクルマの中からできるようになります。Alexaのスキルをクルマから呼び出せるということですね。

---:スマートホームが進んでいる家庭であれば、それだけいろいろ使えるということですね。そのほかアリアにはどのような機能がありますか?

村松:高度運転支援関連で、実はスカイラインから使っていることではありますが、HDマップ、つまり高精細3Dマップを使ったプロパイロット機能があります。HDマップの地図データはいつでもフレッシュでなければいけませんので、クラウド側からアップデートできるような仕組みを入れて、OTA、つまりオーバー・ジ・エアーでアップデートを常にできるようにしています。

高度運転支援関連でのサービスとしては、緊急停止時のSOS コールがあります。お客様のドライバーモニタリングはずっとしているのですが、例えば手放し運転をしているお客様がいて、ずっと反応がないという場合、もしかすると何か起こったかもしれない、という場合に、まずクルマの中で「大丈夫ですか」と注意を促すためのアラートが出ます。それでも反応がない場合は、自動的に通報されてオペレーターに繋がるというサービスを入れています。これはアリアにも搭載されています。

---:救急車に通報されるということですか?

村松:日本ではヘルプネットセンターに繋ぎます。ヘルプネットセンターのオペレーターがドライバーさんに「どうかしましたか?」と問いかけます。オペレーターに対しても反応がない場合は、通報するという流れになります。

---:なるほど、ドライバーモニタリングシステムとヘルプネットが連携したのがスカイラインからで、同じ仕組みがアリアにも搭載されているということですね。その他に新たな機能があれば教えてください。

村松:もう1つ特徴的なのは、スマートルートプランナーというサービスで、お客様が家にいる時にスマートフォン上で目的地を検索して情報をクルマのナビに送るという機能があるのですが、アリアの場合は、その時点での充電量で目的地まで到達できない場合は、途中に充電地点を自動で入れるという機能を入れました。

お客様がここまで行きたいと目的地を入力すると、システム側で計算して、ここの充電地点に寄ってくださいと教えます。そしてそこまでのルートが計算されてクルマに送られるという機能です。

---:EVならではですね。アリアの納車が始まってしばらく経ちますが、市場からの反応はありますか?

村松:お褒めの言葉をいただいております。どちらかというと走りの方が多いですが、プロパイロット2.0は本当にストレスがないという声もありましたし、インパネの横長の大型ディスプレイもご好評をいただいていますね。

---:あのディスプレイは、アリアからUIが変わったんですか?

村松:そうです。メーター側のディスプレイとナビ側のディスプレイがありますが、できるだけシームレスに見えるようにしました。左側のナビ画面にあるナビ地図をスワイプすると、メーター側のディスプレイにも地図が表示されるなど、メーターディスプレイとナビ画面ディスプレイの連携が非常に良くなっています。さらにAmazon Alexaをエンベデッドして、音声認識インターフェイスの改善もしています。

---:音声認識ではどのようなことができるのですか。

村松:ナビを含めその他いろいろと使えるようになっています。サービスとしてAmazon Musicも使えるようになっていますので、音楽を選ぶのは非常に簡単にできると思います。

---:Alexaの音声認識を使って、声だけでプレイリストを選んで音楽をかけることができるわけですね。それはいいですね!

EVならではのコネクテッドサービスの進化

---:コネクテッドカーとサービスについて、今後の方向性をどのようにお考えでしょうか。

村松:アリアからは家のIoTとの連携を強めたと言いましたが、その傾向はどんどん加速するのではないかと思っています。家側がネットワーク化されることによって機能がどんどん増えていくだろうと思います。

もう1つ、EVと自動運転に関連して、自動運転そのものはやはりクルマ側できちんと制御しないといけませんが、データの提供やモニタリングはどんどんコネクテッドでサポートする部分だと思っています。

またEVのコネクテッドサービスついて、これからもっと強化しなきゃいけないと思っているのはグリッドです。グリッドを含めたエネルギーマネジメントを、我々だけではなく協力しているみなさんとやっていかなければならないと思っています。

今ちょうど電力不足と言われていますよね。でもEVは電気を使って走るわけなので、電力の需給をどうマネージしていくかが大きな課題だと思っています。電気自動車を提供する我々として、どんなことができるだろうかということをきちんと考えて提供していきたいです。

---:イギリスではEVをグリッドに繋いでお小遣い稼ぎ、などというサービスもあるようですが、そういった進化もありますか。

村松:弊社でいうとLeaf to Home(リーフトゥーホーム)という機能をすでに提供していまして、リーフに一度貯めた電気を家でも使うというサービスはあります。それを拡張した時に、グリッドまで戻すかについてはこれからの検討事項だと思います。

---:クルマから自分の家へ、ということはできても、グリッドに戻すところまではまだということですね。

村松:そこにはいろいろな要素があって、技術要素だけではなくビジネス要素も含めて、電力配給側の方々と一緒になっていかないといけない課題だと思います。

---:そのあたりの課題にも取り組んでいるのですか。

村松:実証実験はすでに行っています。需要が少ない時間帯に電気代が安くなるダイナミックプライシングによって、ユーザーの充電するタイミングがどのように変化するのか、という実証実験も実施しています。

---:需要が少ない時に電気代が安くなり、そこで充電ができるようになるということですね。

村松:そうです。そのようにお客様の行動が変化するかどうかが実証実験のポイントですね。

---:実利用の中でダイナミックプライシングによる行動変容があるのかということですね。面白いですね。

村松:また、そういったサービスが今後増えていくなかで、これから重要になってくるのは、クルマのデータをどう活かすかというところです。そしてその上で、お客様のデータのセキュリティやプライバシーも非常に重要です。またサイバーセキュリティについても、業界一丸となって取り組んでいますので、そのあたりを皆様にもご理解いただければと思います。

村松氏が登壇する無料のオンラインシンポジウム【日本発!モビリティ変革事例】産官学・モビリティコンソーシアム会議は7月28日開催予定。

《佐藤耕一》

日本自動車ジャーナリスト協会会員 佐藤耕一

自動車メディアの副編集長として活動したのち、IT企業にて自動車メーカー・サプライヤー向けのビジネス開発を経験し、のち独立。EV・電動車やCASE領域を中心に活動中。日本自動車ジャーナリスト協会会員

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