日本発EVベンチャーが目指すエネルギーマネジメントとは…二次電池展【秋】 8月31日開幕

事業を始めたきっかけは東日本大震災での体験

独自開発のアクティブ・インバーターでバッテリーの劣化予測と電力消費の大幅低減を実現

リユース電池の活用も視野に

二次電池展【秋】の最終日には基調講演に登壇

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EVモーターズ・ジャパンの佐藤 裕之代表取締役
EVモーターズ・ジャパンの佐藤 裕之代表取締役全 6 枚

商用電気自動車(EV)のスタートアップ企業、EVモーターズ・ジャパン(EVMJ)は現在、中国企業に委託している最終組み立て工程を福岡・北九州市に建設中の自社工場へ2023年にも移管し、量産体制を構築する。

だがEVMJの代表取締役兼最高技術責任者を務める佐藤裕之氏は「単に商用EVを量販することを目的とした会社ではない」と言い切る。それは2011年の東日本大震災での体験がEVMJ設立につながっているからだ。

事業を始めたきっかけは東日本大震災での体験

EVモーターズ・ジャパンが開発するミニバスEVモーターズ・ジャパンが開発するミニバス

「当時勤めていたインバーターの製造工場が福島県にあって、あの時の福島は3日間電気がこなかった。3月ということもあって暗くて寒い日が続いた。3日間も寒かったり暗かったりということを防ぐような新しい防災システムを提案してくれないかと依頼され、僕らはバッテリーを核にしたEVバスを思いついたというのが、この事業をやろうとした一番のきっかけ」と佐藤氏は振り返る。

ではなぜEVバスなのか。「当時、福島の太平洋沿岸は、とてもJR常磐線が復旧するとは思えないような悲惨な状況だった。それに代わる新たな交通システムとしてはBRT(バス高速輸送システム)という形にせざるを得ないと実感した。BRT構築には当然、相当な投資額が必要だが、僕らはバッテリーをやっていたので、バスをEV化するとランニングコストがエンジン車に比べてどれくらい減らせるということがある程度予想できていた。平時はEVバスを運行することで償却を進めていって、非常時には移動電源車として機能するというコンセプトなら実現できると考えた」からだ。

そのEVMJの商用EVは独自開発のアクティブ・インバーターにより200kmを超える航続距離を実現しているのが特徴。

独自開発のアクティブ・インバーターでバッテリーの劣化予測と電力消費の大幅低減を実現

独自開発のアクティブ・インバーター独自開発のアクティブ・インバーター

「僕は30年以上、インバーターの開発に携わり、リチウムイオン電池をどう制御すれば良いかということをやってきた。電池が劣化する要因のひとつに、ピーク的な使い方がある。EVが一番電流を流すのは、止まっている車両をぐっと動かす時。そこでアクティブ・インバーターが極力ピークを発生しないよう出力制御することでバッテリーの劣化抑制と電力消費低減を図っている」と佐藤氏は解説する。

さらに「僕らのやり方というのは商用EVに向いている制御のやりかた」とも。その理由は「商用車に限って言うと、スポーツカーのような急峻な加減速はむしろ良くない。僕らがバッテリーを制御して長持ちさせようとしているやり方と、なるべく急加減速をしないという商用車の使い方はぴったりベクトルが合う」というわけだ。

その一方で「EVを開発、販売するということはイコール、並列にエネルギーマネジメントを考えていかないと成り立たない」とも佐藤氏は指摘する。

「EVをやるというのは実は、今までの自動車産業とは大きく変わってくると思っている。実際にテスラも蓄電システムを売っている。とくに商用車の場合、車両を事業に使うので、1台や2台分の充電機器を確保すれば良いという話ではない。さらに万博のような大規模イベントでは数百台のバスが集まってくる。そこで一斉に急速充電を行えば、間違いなく電力集中が起きて電源系統の破綻につながる。その結果、カットオフが行われ、充電したくても充電できない事態に追い込まれる。だから系統を使わないでもいける仕掛けを並列で考える必要がある」ことから、EVMJは単にEVを売るのではなく、EVを核としたエネルギーマネジメントシステムの普及を目指しているわけだ。

リユース電池の活用も視野に

車いすやベビーカーを利用する人や、子供や高齢者も安心して乗車できるように車内は低床・フルフラット構造車いすやベビーカーを利用する人や、子供や高齢者も安心して乗車できるように車内は低床・フルフラット構造

その仕掛けとして佐藤氏は「リユース電池」を挙げる。「僕らが福島で経験した3日間電気が来なかったという事態もバッテリーバッファーがあれば簡単に解決する話だったが、そのコストが一番の障壁になっている。今の蓄電システムは1kWhあたり20万円くらい。経済産業省は、これを1kWhあたり6万円まで下げることを目標に掲げているが、EVバスに搭載していた電池を再利用した僕らのシステムなら4万円で提供できる。EV用の電力バッファーとしてリユース電池を活用すれば、EVを普及させることができる」と佐藤氏はみる。

さらに佐藤氏は「これも商用車に限っての話になるが、EVにもう一度リユース電池を搭載できれば僕の試算では車両価格を20%下げられる。日本にはリチウムイオンキャパシタ(LiC)という面白い技術がある。そのLiCとリユース電池を組み合わせることで、商用車なら動かせるかもしれない」とも。

「電池にはパワー的な要素とエネルギー的な要素の2つの使い道がある。リユース電池は何が劣化しているのかというと一瞬で出力を出すパワー的な要素。ところが容量はあるので、エネルギー的な要素では十分使える。パワーが必要な部分をLiCが担当し、だらだらと距離を走らせるエネルギー的な要素はリユース電池で賄うというハイブリッド化ができれば、商用車であれば十分使える。それで20%価格を下げられれば、EVを広めるという意味では非常に面白い」と佐藤氏は期待を寄せる。

EVMJは現在、ヨーロッパを主体にグローバル調達した部品を使って中国の委託先企業が組み立てたEVを日本に輸入し、販売しているが、2023年夏稼働予定の北九州市の工場では最終の組み立て工程を自前で行う計画。

二次電池展【秋】の最終日には基調講演に登壇

「EV化は単純に内燃機関がモーターに切り替わるという話ではないと思っている。今まで日本のやり方は、1から10までグループ丸抱えでやる形だが、それはちょっと重たすぎるので、僕らとしては、なるべくオープンソースでアウトソーシングしていく。ただ日本で型式指定をとるには工場が必要になる。また品質面も含めて少しでも日本製の部品を使いたいということもあって、日本に工場を造る。ただ重たくするつもりはさらさらなくて、いつでも方向が修正できるように持っていきたい」。

そう話す佐藤氏は8月31日に幕張メッセで開幕する二次電池展【秋】の最終日にあたる9月2日に行われる基調講演に「EVバス・商用車普及を支える技術戦略と新型EV電池活用」をテーマに登壇する。

佐藤氏は「EVに搭載する電池の僕が考える方向性や、エネルギーマネジメントという概念がどうしてもEVの場合には必要になるということを知って頂くためのお話をしたい」と語っていた。

本講演の詳細・申込はこちら

■二次電池展【秋】(通称:バッテリージャパン)
会期:2022年8月31日(水)~9月2日(金)10時~17時
会場:幕張メッセ
主催:RX Japan 株式会社

二次電池展【秋】公式HP
二次電池展【秋】招待券申込はこちら

《小松哲也》

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