ダイハツ工業『ゴイッショ』の目指す社会とはー香川県三豊市で導入された福祉介護・共同送迎サービス

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2022年6月に香川県三豊市で正式運行を開始した三豊市社会福祉協議会が運営する共同送迎サービスの取り組みを取材した
2022年6月に香川県三豊市で正式運行を開始した三豊市社会福祉協議会が運営する共同送迎サービスの取り組みを取材した全 8 枚

今回の取材は、2022年6月に香川県三豊市で正式運行を開始した福祉介護・共同送迎サービス『ゴイッショ』。通所系介護施設がそれぞれで行っている送迎を、地域全体で共同運行することで、施設ごとの負担を軽減する取り組みだ。

『ゴイッショ』を提供するダイハツ工業(以下、ダイハツ)は、2019年10月に三豊市と連携協定を締結している。今回は、共同送迎サービスを運営している三豊市社会福祉協議会に訪問して送迎車両といっしょにまわり、事業所関係者にも直接話を伺うことができた。

◆三豊市の福祉介護における課題

高齢化が進み市民の移動手段の確保に取り組む三豊市高齢化が進み市民の移動手段の確保に取り組む三豊市

三豊市は、香川県西部に位置している。人口は約6.5万人(2021年1月)、高松市、丸亀市に次いで3番目の人口規模となる。2020年の高齢化率は約36.5%になり、全国平均より8.5%も多い。団塊世代が後期高齢者になるため、全国的にも要介護(要支援)認定者数は増加傾向にある。また、同市が実施した市民アンケート調査では「交通機関が少ない」という意見も多くあり、高齢者だけでなく障害のある人などを含めた市民の移動手段の確保も求められている。

経産省の「将来の介護需要に即した介護サービス提供に関する研究報告書(2016年)」によると、介護職員の業務の約30%が送迎に充てられている。さらに、ダイハツが2020年に実施した調査によれば、介護職員が負担に感じる業務の第1位が「送迎(39%)」だと言う。一方で、介護現場からは「送迎をやるのが当たり前」や「送迎の外部委託にはコストが高い」などの声があがっており、送迎に関する負担や悩みが顕在化していないという課題を抱えていた。

このような背景から、三豊市は2019年にダイハツと共同で、通所系介護施設の送迎の外部委託化や共同化について実態調査を実施した。三豊市内の通所系介護施設は約40施設あるが、そのうち30施設が送迎の外部委託化・共同化に賛同した。

一方で、複数事業所の共同送迎を実現するには、情報連携の難しさや施設ごとの異なったニーズに対応する必要があるなど、業務が複雑化するため人の手では困難だという技術的な課題もあることがわかった。

◆共同送迎サービス『ゴイッショ』の開発経緯

三豊市政策部交通政策課の近藤佳隆課長補佐(左)と三豊市社会福祉協議会 地域移動支援室の野村和弘室長(右)三豊市政策部交通政策課の近藤佳隆課長補佐(左)と三豊市社会福祉協議会 地域移動支援室の野村和弘室長(右)

ダイハツは、2015年から福祉・介護領域で新たなモビリティサービスの取り組みを進めてきた。2018年には、福祉・介護施設における送迎業務をサポートする『らくぴた送迎』の提供を開始、2019年には、三豊市と連携協定を結び、市社協とともに共同送迎モデルの検討を進めてきた。

三豊市政策部交通政策課の近藤佳隆課長補佐三豊市政策部交通政策課の近藤佳隆課長補佐

「実はそれまで交通政策を専門に扱う部署がなかった」と、三豊市政策部交通政策課の近藤佳隆課長補佐は振り返る。そのため、三豊市における交通政策を考える上で、交通事業者や民間企業等と協議を重ねていき、福祉・介護分野についてはダイハツと検討を進めた。

2020年5月には、経産省のスマートモビリティチャレンジで「地域新MaaS創出推進事業」先進パイロット地域として採択され、同年11月に市社協が運営主体となってはじめての実証実験を実施。三豊市内5施設が参加し、利用者25人/日、車両4台で共同送迎を運行した。送迎の外部委託化と共同化による嬉しさ・効果を検証したこの実証実験では、介護現場で1施設あたり平均75分/日の送迎業務を削減し、共同化によって車両台数を20%削減することができた。参加職員の93%が負担軽減を実感した、と三豊市社会福祉協議会地域移動支援室の野村和弘室長は話す。

三豊市社会福祉協議会地域移動支援室の野村和弘室長三豊市社会福祉協議会地域移動支援室の野村和弘室長

実証実験においては施設から1台ずつ車両を借りて共同送迎車両とし、普段送迎をしている介護職員の代わりに市社協が雇用したドライバーによって送迎を行った。共同送迎ドライバーは介護職員ではないため介助接遇の研修を受講いただいた。その上で、介護事業所それぞれから自力での歩行に支障がない方や比較的軽度な方を委託いただき、経験の浅いドライバーでも安全に送迎できるよう実施したと言う。「1カ月間の実証実験時には、毎日利用者に「○」と「×」で評価をしていただき、ドライバーさんと利用者さんとの関係性ができてくるにつれ評価もほとんど「○」になっていった」と野村氏は話す。

その結果を踏まえて、2021年のプレ運行を経て今回の本格運行に辿り着いた。

◆共同送迎の追走体験でわかったこと

共同送迎の様子共同送迎の様子

送迎車両に乗車する際、介助が必要な方であれば手引歩行などをして乗車介助をする。ドライバーは出発前に、その日送迎する利用者の情報を確認する。この事前情報をもとに、送迎車両に乗車いただく際、介助が必要な方であれば手引き歩行などをして乗車介助する。

2020年の実証実験時には、利用者のプロフィール情報や送迎先の情報は紙で配布していたが、2021年のプレ運行からスマホアプリで確認ができるようになった。実証実験時は、車が入れる敷地があるのか、旋回できるスペースがあるのかなど「道の事情がわからないことがもっとも難しかった」とダイハツ工業のコーポレート統括本部新規事業戦略室の小出朗主任は説明する。

「実証実験ではGoogleマップで示す場所が、家の裏側だったり、施設から利用者の情報をうまく引き出せなかったり、行ってみてわかることもたくさんあった。その都度ドライバーさんから聞いて確認していったことで、2週間程度で安定稼働してきた」という。実際、タクシー事業者であれば、経験則で通れる道はわかるが、経験の浅いドライバーはナビに頼ることもあるため、Googleマップで示すルートだけでは難しい場合もある。

この日も3箇所のご自宅をまわったが、途中旋回できそうにない道や軽自動車でないと通れない車幅ギリギリの畦道を通る場面があった。アプリに記載された情報を頼りに走行すれば送迎はできるが、ドライバーの経験則でより効率のいい道を選ぶなど、現場の声も取り入れ運行業務をより良くしていくことができることがわかった。

◆高齢者送迎の課題と今後の展開

生活移動に活用する取り組みも検討生活移動に活用する取り組みも検討

2020年の実証実験と2021年のプレ運行では、参加している施設が異なる。実施エリアが異なることはもちろんだが、コロナ感染拡大による影響も大きいと言う。コロナ禍にともない共同送迎の利用を一時的に休止した施設もあると三豊市政策部交通政策課の近藤氏は話す。

共同送迎は1台に複数人が相乗りになるため、コロナ禍の影響で感染拡大の懸念の声があがるが、三豊市社協の共同送迎サービスでは利用者の乗車前検温や手指のアルコール除菌、送迎車両内に抗ウイルスコーティングを施すなど対策をとっている。

一方で、生活移動(通院や買い物など)のニーズが高いこともあると言う。2020年の実証実験で検証したことだが、要介護者が通所していないときに、買い物に行きたくても行けない、家族に負担をかけられないといった問題があり、ちょっとした移動をしたいというニーズが非常に高い。そのため、共同送迎で利用する車両を、送迎していない時間帯の空き時間を利用して、生活移動に活用する取り組みも検討を進めていきたいと話す。

◆福祉・介護分野におけるDX推進

共同送迎サービスに参加している「とよなか荘老人デイサービスセンター」共同送迎サービスに参加している「とよなか荘老人デイサービスセンター」

「送迎は施設がする」というこれまでの当たり前を見直し、介護送迎に関わる実態調査を経て今回のサービス開始に至った共同送迎サービス『ゴイッショ』。2020年の実証実験から2年で商用サービス化したこの取り組みの背景には、福祉・介護分野におけるDXの推進がともなう。

それまでアナログでしかなかった福祉・介護業務分野にも、デジタルを活用する要素を取り入れて計測を可能にし、常に必要な情報にアクセスできる環境を用意している。共同送迎には複数の事業所との連携が必須となり、情報網も重要な要素のひとつになるからだ。2019年の三豊市とダイハツとの連携協定から2年が経ち、福祉・介護MaaSの取り組みとしてひとつの成果と言えよう。

ただ、今回の送迎に限らず、福祉・介護分野の課題は顕在化しにくいこと自体が問題だと言える。実際、同じような悩みや課題を持っていても、解決しきれていない事業所や職員も多いはずだ。今回の『ゴイッショ』サービスは、そうした問題に“ご一緒に”向き合い、まずは実態を調査する試みからスタートする。共同送迎は、あくまで解決方法のひとつであり、共同送迎ありきではない点が今回のサービスの一番の特長だと言える。

次の記事では、三豊市と同じような福祉・介護の課題を抱えている島根県江津市の調査研究事業の取り組みを取材し、

同サービスについて深堀りする。また、現在三豊市で共同送迎に参加されている介護職員の方やタクシー会社、共同送迎のドライバーになった方にも直接話を聞いてきたので、福祉・介護分野で検討を進めている事業社や自治体の担当者であれば、こちらの記事と合わせてご覧ください。

ダイハツ工業『ゴイッショ』の詳細はこちら


著者:坂本貴史(さかもと・たかし)
株式会社ドッツ/スマートモビリティ事業推進室 室長
グラフィックデザイナー出身。2017年までネットイヤーグループ株式会社において、ウェブやアプリにおける戦略立案から制作・開発に携わる。主に、情報アーキテクチャ(IA)を専門領域として多数のデジタルプロダクトの設計に関わる。UXデザインの分野でも講師や執筆などがあり、2017年から日産自動車株式会社に参画。先行開発の電気自動車(EV)におけるデジタルコックピットのHMIデザインおよび車載アプリのPOCやUXリサーチに従事。2019年から株式会社ドッツにてスマートモビリティ事業推進室を開設。鉄道や公共交通機関におけるMaaS事業を推進。

《坂本貴史》

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