カーボンニュートラルに向けたマツダのマルチソリューション戦略…マツダ カーボンニュートラル統括主査 木下浩志氏[インタビュー]

カーボンニュートラルに向けたマツダのマルチソリューション戦略…マツダ カーボンニュートラル統括主査 木下浩志氏[インタビュー]
カーボンニュートラルに向けたマツダのマルチソリューション戦略…マツダ カーボンニュートラル統括主査 木下浩志氏[インタビュー]全 1 枚

世界的なエネルギー危機がせまるなか、EV以外の選択肢として、「カーボンニュートラル燃料」に注目が集まっている。EVのみのカーボンニュートラルではなく、多角的なマルチソリューション戦略を提唱するマツダは、カーボンニュートラル燃料に対してどのように取り組むのか。

ナカニシ自動車産業リサーチ代表 アナリストの中西孝樹氏がモデレートする連続セミナー『中西孝樹の自動車・モビリティ産業インサイト』第10回は、マツダ株式会社 常務執行役員 小島岳二氏、同社 経営戦略室 カーボンニュートラル統括主査 木下浩志氏をゲストに迎え、9月20日に開催される。セミナーに先立ち、ユーグレナと取り組むバイオ燃料への取り組みや、e-fuelとの関係について聞いた。

バイオ燃料の大きなメリットとは

中西:御社のバイオ燃料への取り組みについてお聞きします。スーパー耐久シリーズにバイオディーエルエンジンで参戦した背景と、マツダの全体戦略とのつながりについてお聞かせください。

木下:今年の6月2日にプレスリリース(*)を発表しました。このなかで、カーボンニュートラルに向けた3つの柱を提示しています。

* https://newsroom.mazda.com/ja/publicity/release/2022/202206/220602a.html

そのなかで、次世代バイオ燃料への取り組みを進めることを公表しました。

スーパー耐久シリーズへの参戦は、ユーグレナの次世代バイオ燃料を使っています。ユーグレナとは2016年頃からの付き合いです。当時からマツダは、ウェルトゥーホイール(*)のコンセプトや、電気だけでなく燃料を変える道筋もあると考えてきました。当時は活動の輪もこじんまりしたものでしたが、藻類が化石燃料の代替となる可能性があり、その中でユーグレナが自分たちが将来の地球を救うと掲げ活動していて、一緒にやりましょうという話になりました。

*Well to Wheel (油井から車輪まで)。自動車の総合的なエネルギー効率を示す指標のひとつ

2020年からユーグレナは次世代バイオ燃料の供給を開始し、産学官の取り組みやスーパー耐久シリーズなど、一緒にやってきました。

中西:6月2日のプレスリリースでは、CO2クレジットも使っていくとあります。どの程度の比率を想定していますか。

木下:現時点では分かりませんが、自力でやるのがまず先で、その次にクレジットの活用です。事業の観点のカーボンニュートラルと、商品の観点のカーボンニュートラルがありますが、6月2の公表内容は事業の観点です。いっぽうの商品の領域でもカーボンニュートラル燃料に可能性があると考えています。

産学官コンソーシアムでバイオ燃料の車両を使ってきましたが、車両側は何もいじる必要がないのがメリットです。FAME(脂肪酸メチルエステル:Fatty Acid Methyl Ester)も既存のディーゼルエンジンで燃やせますが、エンジンに悪影響があり、5-7%を混ぜるのが上限です。

その点次世代バイオ燃料は、今のクルマ、インフラをそのまま使えるからこそ意味があると考えます。コストが課題で、今はリッター1万円ほどと聞いています。

中西:それは今のユーグレナのプラントでの値段ですか?

木下:そうです。これまで10%まぜて実証実験に使ってきましたが、スーパー耐久シリーズでは100%の比率です。それを24時間走らせているので、目玉が飛び出るほどのコストですが(笑)

バイオ燃料の種類とそれぞれの違い

中西:バイオ燃料はエタノールのイメージが強いですが、バイオ燃料についての現状とロードマップをお聞かせください。

木下:まず、ガソリンを代替するエタノール燃料は昔からありましたよね。いっぽう軽油は、バイオ燃料とe-Fuelがあります。欧州ではHVO(Hydrotreated Vegetable Oil:水素化分解油)などのバイオ燃料がすでにありますが、廃食油から作るものでそんなに大きな生産ポテンシャルはありません。エタノールはトウモロコシなどが原料で、北米や南米などが中心です。

中西:エタノール燃料は、ブラジルを除けば、国・政策もそれほど後押ししていないですね。

木下:そうですね。食料競合の問題などもあります。市民の生活を脅かしてまでやるのかと。

中西:次世代バイオ燃料のGHG削減貢献への目途はありますか。

木下:技術はすでにありますが、商業化に課題がありますね。

中西:次世代バイオ燃料は、本当に普及するまでに至るのでしょうか。以前ある自動車メーカーの技術トップと話した時に「次世代バイオは来るよ」と言っていました。水素エンジンもあり、 次世代バイオ燃料、世界的にはe-fuelへの取り組みも活発ですが。

木下:バイオ燃料に関しては、欧州統一規格(EN14214)があり、FAMEは混合率を5%、7%まで。それ以上増やすと噴射系でトラブルが出てきます。いっぽうHVOで生成したバイオ燃料は、より高い混合率で代替できますし、すでに販売しているクルマに使えます。

カーボンニュートラル燃料は大きく分けて、e-fuelとバイオ燃料。e-fuelは水素とCO2反応させる作り方で、ガソリンも軽油も作れますが、トヨタはこちらのガソリンをやっていますね。炭素の結合の長さでCが長ければガソリン、短ければ軽油です。バイオ燃料は、エタノール燃料はガソリンの代替、藻類や廃食油からは軽油の代替です。

木下: 経産省がカーボンニュートラル技術などのロードマップを昨年出しています。カーボンニュートラル燃料は技術的には可能だが、価格が課題で、藻類由来のバイオ燃料は2030年には100-200円という見立てです。

中西:次世代バイオ燃料や水素を使うe-fuelにプレイヤーは多くないのでは。高級車だけの領域ではないでしょうか。

木下:e-fuelはプレイヤーが多いが、バイオ燃料は少ないですね。燃料を使う側は同じ顔ぶれで、航空の用途もあります。

e-fuelは化学であり、安定的で工業化されていますが、バイオ燃料を作るのはアグリカルチャーで、バイオの材料は、作る・育てるプロセスが不安定です。この点が課題ですね。

中西:なるほど。e-fuelはグリーン水素があればできますが、バイオは素材を育てるのが難しいのですね。

木下:そうですね。いっぽうe-fuelは、グリーンな水素をいかに安く調達できるかが課題です。

中西:果たして自動車産業に水素が回ってくるのでしょうか。

木下:航空もSAF(Sustainable Aviation Fuel:持続可能な航空燃料)のニーズがありますからね。

バイオ燃料で内燃機関は残るのか

中西:ここまでの話で、マツダはカーボンニュートラル燃料のどっちにベットする訳ではなく、スーパー耐久シリーズでは、バイオ燃料ディーゼルの旗振り役ということですね。カーボンニュートラル燃料はエンジン技術の延命化につながり、マツダの良さも活かせる。燃料を造ろうとしているわけではないと理解しました。

木下:一度世に出た内燃機関のクルマも大半が残ります。それをカーボンニュートラル燃料に変えていくことも重要です。

中西:2050年時点で、70%の保有車両に何らかの内燃機関が残るだろうと考えています。個人的には2050年の販売台数におけるカーボンニュートラル化は50%も難しいだろうと思っています。分母にもよりますが。カリフォルニア州もZEV規制にカーボンニュートラル燃料を検討する条文が加わるなど、兆しがありますね。VWの次の社長はポルシェ社長で、e-fuel団体に加盟していますし、e-fuel推しのように見えます。

木下:BEV化で社会インフラへの投資がどれだけ掛かるのか等、マクロ・ミクロの視点で見ていく必要がありますね。

中西:マツダのエンジン開発はどこで打ち止めですか。SKYACTIVの進化は続きますか?

木下:SKYACTIVについては、3段階の深化を示しています。第三世代に向けて、電動化は進めつつも進化は続けていきます。

中西:次世代バイオ燃料も使えるようになってくると、エンジンへの認識も変わるでしょうし、ワクワクしますね。

木下:ウクライナ危機で、改めてエネルギー安全保障の重要性が認識されました。できるだけ普遍性が必要です。地政学的にリスクのあるエリアにしかないエネルギーに依存するわけにはいきません。いろいろな方向でマルチエネルギーを考える必要があります。BCPの観点でも同じです。バイオ燃料はエンジン延命につながりますがそれはマツダだけではなく、自動車産業全体への貢献という観点が重要です。

『中西孝樹の自動車・モビリティ産業インサイト』VOL.10マツダは9月20日開催(申込締切は9月15日正午)。詳細はこちらから。

《佐藤耕一》

日本自動車ジャーナリスト協会会員 佐藤耕一

自動車メディアの副編集長として活動したのち、IT企業にて自動車メーカー・サプライヤー向けのビジネス開発を経験し、のち独立。EV・電動車やCASE領域を中心に活動中。日本自動車ジャーナリスト協会会員

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