真価が問われるテスラ、年間2000万台の目標は幻想か…EV新時代を読み解く 第5回

工場稼働率100%の危うさとは

アーリーアダプターに頼らない状況をどう作るか

一部のファンには許されても…

テスラが今以上の規模のメーカーになるためには、価格設定の見直しが必要

テスラ(参考画像)
テスラ(参考画像)全 12 枚

製品、戦略、開発力、インフラなどさまざまな視点からEVのこれからについて、モータージャーナリストの岡崎五朗氏が語るインタビュー連載企画「EV新時代到来」。今回は、今年3月に「ベルリン・ギガファクトリー」が開所するなど、生産能力を高めているテスラに注目します。2030年までに年間2000万台まで生産台数を増やすと打ち出しており、今後の成長に関心が集まるテスラですが、どのような課題があるのか論じます。

◆工場稼働率100%の危うさとは

テスラのドイツ・ベルリンのギガファクトリー

---:今年3月、欧州初となるベルリン・ギガファクトリーを開設したテスラの動向をご覧になって、率直にどうお感じですか?

岡崎五朗氏(以下、敬称略):EV界のスーパースターですね。最近ではかなり落ち着いてきていますが、一時は株価が1200ドル台まで上がりました。なぜそこまで株価が高かったかのかというと、現状の数字ではなく、将来に対する期待ですよね。しかし、2030年までに2000万台を生産すると打ち出していますが、それについては疑問が残ります。

---:世界トップのトヨタでも1000万台前後ですから、かなり厳しい数字ですね。

岡崎:テスラの成長を見ると、これまでの伸び率は非常に良かったのですが、その伸び率がこの後も同じペースで上がり続けるとは思えません。テスラの特徴は、常に需要が供給を上回り続けて、この成長を維持してきたという点です。生産能力が50万台の工場を1つ建設すると、販売台数もそのまま50万台増える、というように右肩上がりに伸びています。世の中にある自動車メーカーの中で、常に需要が供給を上回っている状態をキープできたメーカーは、フェラーリぐらいではないでしょうか。

---:かなりプレミアムな少量生産のメーカーだからこそできる、ということでしょうか。

岡崎:そうですね。例えば、時計で言うと、ロレックスが欲しいと思っても、今すぐには買えないですよね? これは、ブランドを維持するために生産を絞ってコントロールしているからです。希少性があるからこそ、購買意欲が高まるという仕組みです。これを自動車業界で行っているのがフェラーリです。

一般的な自動車メーカーは、ある一定の販売台数が見込めるようになってから、工場を増やします。これにより、生産能力は向上しますが、販売台数が落ち込んでくると、増強した生産台数の分をどのように販売するべきかで苦労し続けています。

そのため、テスラだけが今後も需要が供給を上回り続け、工場稼働率ほぼ100%を維持しながら販売台数が増えていき、いつか販売台数が2000万台になる、ということはどう考えても無理な話です。

---:ミラクルでも起きない限り、テスラの描くようなことにはなりませんね。

岡崎:常識的に考えて、工場を建ててもいつかは販売台数が落ち着いてくる時が必ず来るはずなのです。その時、テスラはどうなるのか。まず、成長神話がそこで止まり、将来への期待が薄れます。そうなると、株価が下がりますよね? 工場稼働率もこれまでのほぼ100%から落ちてくると、急激に損益分岐点を割り込み、収益が落ちます。

もし本当に可能にしたいのなら、250万円で購入できる『モデル2』の販売を増やしていく必要があったと思いますが、テスラはモデル2の計画をやめてしまいました。やはり250万円では厳しいということなのでしょう。こうなると、台数を増やすことがますます難しくなってきます。

最近の販売は『モデル3』や『モデルY』で、『モデルS』や『モデルX』は新車効果が薄れている分、販売台数も減っています。また、次にモデルチェンジをしたとしても、そこにはポルシェやBMW、メルセデス、レクサスが待ち構えています。そのような状況でこれまでのように販売台数を伸ばすことはそう簡単なことではないと思います。

◆アーリーアダプターに頼らない状況をどう作るか

テスラ モデルX

---:テスラはアーリーアダプター層を取り込むことで販売台数に変えている印象ですが、そうなると難しいのはここから先ですね。

岡崎:そうです。EVが普及する頃には、需要と供給が釣り合います。リーマンショックの頃、トヨタは毎年工場を増やし、基礎体力がないまま生産台数を増やしたので損益分岐点が高かったのですが、販売台数が急落して大赤字になりました。


《佐藤耕一》

日本自動車ジャーナリスト協会会員 佐藤耕一

自動車メディアの副編集長として活動したのち、IT企業にて自動車メーカー・サプライヤー向けのビジネス開発を経験し、のち独立。EV・電動車やCASE領域を中心に活動中。日本自動車ジャーナリスト協会会員

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