【日産 ノート 3600km試乗】いっそ「e-4ORCE」を名乗るべき!電動AWDはライドフィールが桁違い[前編]

日産 ノート X FOURのフロントビュー。電動AWDはライドフィールのハイテク感が桁違いだった。
日産 ノート X FOURのフロントビュー。電動AWDはライドフィールのハイテク感が桁違いだった。全 30 枚

日産自動車のBセグメントサブコンパクトクラスの乗用車『ノート』で3600kmあまりツーリングを行ってみたので、インプレッションをお届けする。

電動AWDの「ノート X FOUR」で3600km

ノートの第1世代が登場したのは2005年。2012年には第2世代にバトンタッチされるが、そのモデルライフ途中の2016年にシリーズハイブリッドシステム「e-POWER」が搭載されたのを契機に存在感を強めた。2020年末に発表された第3世代では純ガソリン車は用意されず、全車e-POWERのハイブリッド専用車となり、現在に至っている

ハイブリッド専用モデルとなっただけでなく、新興国向けモデルを念頭に置いたプラットフォームを使用していた第2世代から一転、性能重視の先進国モデル用部品セットが採用されるなど事実上車格アップ。そのため装備を揃えた場合の実勢価格は第2世代に比べて大幅に上昇した。

10万円の価格変動でも厳しいと言われる大衆車ビジネスにおいてこの価格引き上げはかなり挑戦的なものだったが、フタを開けてみると売れ行きは好調。ハイブリッドカーという区分けではかつての王者だったトヨタ『アクア』の第2世代モデルの挑戦を退け、ノートと商品性が重なるホンダ『フィットハイブリッド』を蹴散らし、目下トップセールスモデルとなっている。

ノートのエンジンルーム。シリーズハイブリッドシステムがぎっしり詰まる。ノートのエンジンルーム。シリーズハイブリッドシステムがぎっしり詰まる。

テスト車両はAWD(4輪駆動)の「X FOUR」。コネクト機能付きカーナビやADAS(先進運転支援システム)の「プロパイロット」などのオプションが追加されており、車両価格は300万円超となかなか立派なもの。テストドライブルートは東京~鹿児島周遊で、総走行距離は3663.1km。東日本エリアは往路、長野から北アルプス経由で福井に抜ける長大な山岳ルートをセレクト。西日本エリアは往復とも山陰道。道路比率は市街地2、無料自動車道を含む郊外路5、高速2、山岳路1。エアコン常時AUTO。

では、ノート X FOURの長所と短所を5つずつ挙げてみよう。

■長所
1. 素晴らしいパフォーマンスを示した電動AWD。
2. プラットフォーム格上げ効果か、走りのゆとりが格段に増した。
3. “ゼログラビティ”を名乗るだけのことはある疲れ知らずのシート。
4. エンジンの透過音をはじめ静粛性が大幅に向上。
5. ファーストカーユースに十分耐える後席居住性、および乗降性の良さ。

■短所
1. ライバル比較を考えるとロングラン燃費をもっと向上させたい。
2. ハーシュネス(ザラザラ、ガタガタ感)のカットが甘い。
3. AWDシステムにスペースを食われ荷室容量が不足気味。
4. せっかくならもう少し上げたいインテリアの質感。
5. ADASその他のオプション価格が高い。

AWDはライドフィールのハイテク感が桁違い

バックドアにはひっそりと4WDのロゴが。高性能電動AWDであることは伝わってこない。バックドアにはひっそりと4WDのロゴが。高性能電動AWDであることは伝わってこない。

レビューに入る前にひとつ、言及しておきたいことがある。今回の第3世代ノートの論評はAWDモデルのものということだ。同じモデルの場合、たとえばかつて三菱自動車が販売していた『ランサー』と『ランサーエボリューション』のような関係性のものは別として、通常はFWD(前輪駆動)とAWDの間ではそこまで極端に乗り味が違うということはない。が、第3世代ノートの場合、ちょっとオーバーに言えば別のクルマではないかというくらいの違いがある。このツーリングの後、レンタカーでノートのFWD版が回ってきたことではからずも両者を乗り較べる格好となり、それに気づいた次第である。

デザイン、装備などはほぼ共通。荷室容量の違いを除けば除けば居住感や使い勝手も同じだ。違っていたのは動的質感である。FWDとAWDの違いは悪天候下や山岳路における走行性能の向上が主目的という印象が強いが、ノートのAWDのメリットはそれにとどまらず山岳路の連続スラロームのような状況における同乗者へのGのかかりの適正化、市街地における発進時のスクワット(尻下がり)、停止時のノーズダイブ(鼻下がり)の軽減など、快適性の向上にも大きく寄与していた。ドライブ全般においてライドフィールのハイテク感が桁違いなのである。

ノートのAWDシステムはフル電動式で、後アクスルの電気モーターは最高出力50kW(68ps)という強力なもの。Bセグメントカテゴリーでは電動AWDをうたうものでも後輪のパワーはせいぜい5kW程度で、ノートのように本格的な電動AWDを実装した実例は世界的にも稀有だ。しかもドライブしてみると前後輪の駆動力配分だけでなく、左右輪の駆動力も積極制御しているように感じられた。

日産はBEVの『アリア』やSUV『エクストレイル』で四輪駆動力制御をうたう「e-4ORCE」という新システムの展開を開始しているが、それと何が違うのか。ツーリングの後でとある日産関係者にその点をきいてみたところ、やっていることはe-4ORCEと変わらないとの答えだった。

そのようなフル電動AWDシステムをBセグメントにも採用したのは電動化に社運をかける日産ならではのものであろうが、それならいっそノートもe-4FORCEを名乗ってしまえばいいのにとも思った。かりにブランディング戦略でアリアやエクストレイルに初採用を譲ったとしても、その目的はすでに達成している。バックドアに小さく書かれた「4WD」の文字だけでは日産の意図がユーザーに伝わることは期し難い。何らかの工夫を凝らすべきだろう。

進歩幅が著しい後席居住性とシート設計

ドア全開。前後とも開閉角は十分に大きい。後席はドア長こそ長くないが開口部が高く、乗降性は大変優れていた。ドア全開。前後とも開閉角は十分に大きい。後席はドア長こそ長くないが開口部が高く、乗降性は大変優れていた。

ノート全般についての印象だが、全長4m強という限られた車体のリソースの多くを居住空間に割り当てたという点は第2世代と同じ。荷室は狭いというほどではないが広くもなく、あくまで近距離から中距離をゆったりと移動することを主眼とするクルマである。が、遠乗りがダメかというとそんなことはない。ヴァカンスや本格レジャーなどで大量の荷物を積むのに適していないというだけで、ロングロラン自体はFWDであっても十分以上の快適さをもってこなせるだろう。

第2世代からの進歩幅が著しかったのはその後席居住性とシート設計。居住空間はレッグスペースこそ第2世代と大きく違わないが、シート下につま先が入るようになったため着座姿勢が断然楽になった。シートは日産が「ゼログラビティ」と名づけた新しい設計思想のものだが、長距離を走るとこれが実に具合が良く本当に疲れ知らず。Bセグメントでは間違いなく実力首位と太鼓判を押せるものだった。

後席はBセグメントとしては最も広い部類。シートのタッチも良かった。後席はBセグメントとしては最も広い部類。シートのタッチも良かった。

弱点は路盤の段差やカドの立った舗装の破損を乗り越える時の滑らかさがいまひとつ足りないこと。小さいピッチの不整の処理は優秀なだけに落差がちょっと大きく感じられる。もう一点は燃費。AWDだと車両重量が大きいこととパワー半導体2個分のロスが発生することの相乗効果か、筆者が2018年に3500km試乗を行った第2世代ノートe-POWERのFWD(実測21~24km/リットル)を1割ほど下回っていた。

ただ、燃費の満足度はクルマのパフォーマンスとの兼ね合いという要素も少なからずある。Bセグメントでこんなに本格的な電動AWDパワートレインを味わえるならAWDを積極チョイスするのもありと思ったのも確かである。

タイヤを上手く使える、というメリット

要素別に細かく見ていこう。前段で述べたように後アクスルに最大50kWという高出力型の電気モーターを仕込んだ本格的な電動AWDパワートレインはCDセグメント以上のもので、BセグメントではBEV、HEVを問わず世界的に実装例がない。電動AWDの有効性の高さは筆者が乗ったものだけでもテスラ『モデル3』、三菱自動車『アウトランダー』、ボルボ『XC90 PHEV』、今はなきホンダ『レジェンド(米国名:アキュラRLX)』等々、多くのモデルですでに実証ずみ。その威力を全長4m級のクルマで味わえるということ自体がノートAWDの商品力を特徴づけているという感があった。

ロングドライブにおいては実に多様な線形、路面状況の道と出合う。天候も時によってまちまちだ。このドライブでは3600kmあまりのうち約3分の1が雨で、かなりの荒天となった区間もあったが、強い雨の降る中を高速巡航する、長野~岐阜県境の安房峠をはじめ急峻な山岳路を駆け抜けるといった厳しい局面になればなるほど、電動AWDの対応力の高さが大変心強いものに感じられた。

ノートAWDのタイヤは185/60R16サイズのエコタイヤ。これですごい走りを実現する電動AWDの威力には驚くばかりだった。ノートAWDのタイヤは185/60R16サイズのエコタイヤ。これですごい走りを実現する電動AWDの威力には驚くばかりだった。

シャシーの仕様はこのクラスとしてごく標準的なもので、サスペンションは前がストラット式独立、後がトーションビーム式半独立。タイヤは新車装着モデルとしてはごく一般的なエコタイヤである185/60R16サイズのブリヂストン「ECOPIA EP25」。性能追求型とはほど遠いという感があるが、実際に走ってみると4輪の能力をしっかり生かせればこれで相当な走りの性能を出せるのだなと感心させられることしきりだった。

タイヤを上手く使えていることは飛騨山脈や九州山地のような山岳ルートを走ったさい、タイヤの摩耗具合に顕著に表れた。第2世代のFWDはそういう路線では前タイヤのショルダー部に柔らかい消しゴムを力いっぱい紙にこすりつけたようなささくれが発生していたが、第3世代のAWDはそれがまったく発生せず、トレッド面が均一にひと皮剥けるという感じであった。通常のFWDでは前輪に大きな荷重がかかり、下手をするとサイドウォールが舗装面に接触したような痕が残ったりするのだが、それもまったくなかった。

対旧型で前輪の負担にこれほど大きな違いが生まれたのはプラットフォームが高スペックのものに変更され、コーナリング時の過大な接地角変化が解消されたことも一因であろうが、それ以上に貢献度が大きいと思われたのはやはり電動AWD。車速、前後左右の加速度、ステアリング操作量、スリップ量などから細かく演算しているものと思われるが、コーナー進入の初期段階からクリッピングポイント、そこからの加速と相当細やかに駆動力を制御しているという印象で、曲率のかなりきついコーナーでもアウト側の前輪に過大な負担がかかっている感じがない。偏摩耗は起こりにくいし、車体のロールやゼロロールへの復帰も大変スムーズだった。

長野~岐阜県境の安房峠を走る。180度ターンが連続する区間だが、電動AWDが生む回頭性の高さゆえストレスフリーだった。長野~岐阜県境の安房峠を走る。180度ターンが連続する区間だが、電動AWDが生む回頭性の高さゆえストレスフリーだった。

快適性、乗り心地の強みと弱点

電動AWDによって作り上げられたこの操縦性とライドフィールは長距離ドライブのストレスを大いに軽減した。たとえば長野の松本から飛騨高山経由で福井に抜ける200kmあまりの区間。平和な街道がしばし続いたかと思うと急峻なワインディングロードが現れるという山岳ルートだが、後輪に有効に駆動力が配分されるおかげでタイトコーナーでも操縦フィールは終始軽やか。ドライブを楽しんでいるあいだにいつの間にか駆け抜けていたという感じである。

快適性の向上という点でも電動AWDは高い効能を発揮した。前後の駆動力配分と電子制御車両安定装置の合わせ技と考えられるが、ロールのしかたと体にかかるGの間隔のズレがごく小さく、乗員が予想外の動きに体を突っ張らせるというシーンがきわめて少ないのだ。南九州の山岳路を4名乗車でドライブした時など、スラロームが続く区間でも同乗者から疲れる、気分が悪くなりそうといった感想は皆無だった。このあたりは電動化技術だけでなく、どういう動きが人間の疲れの原因になるかという人間工学の追求と、それに基づいたチューニングの煮詰めの賜物と言えよう。

なお、高速道路で水たまりを踏んだりアンジュレーション(路面のうねり)を通過した時のフラットライドなフィールも印象的だったが、これはAWDのおかげとドライブ中に体感で察知したわけではなく、そういう制御が覆面で行われているのだということをドライブ後に聞いたのと、FWDを運転してみたことで悟ったこと。全般的に攻め攻めでの走りを楽しむのではなく、機械は黒子に徹し、厳しい道も最小限のストレスでファミリードライブを完遂できるようにということをチューニングの最大目的としているように思われた。

奥飛騨路は街道沿いにしゃくなげの花が咲く。奥飛騨路は街道沿いにしゃくなげの花が咲く。

乗り心地は大変フラットライドで不快に揺すられたりといったことが非常に少なく、とりわけ良路では滑走感も上々だったが、弱点もある。路盤の継ぎ目が段差になったようなところや舗装が角立った感じで破損しているようなところでは第2世代よりは良くなったものの滑らかさ不足で、ガタつきが出るのだ。これは車体強度、サスペンションの容量といった問題ではないものと推察される。同じモジュールを使うルノー『クリオ(日本名:ルーテシア)』ではそういう問題は皆無だったからだ。

感覚的には柔らかいチューニングのサスペンションやサスペンションマウントラバーの防振対策が甘く、大入力に対する抑えが弱いことが原因であるような気がしたが、この種の官能に関する問題は乗っただけで原因を特定するのは不可能。標準タイヤのエコピアEP25はトヨタの第3世代『プリウス』などにも使われてきた実績あるタイヤだが、もしかするとそれがちょっとしなやかさに欠けるのかもしれない。タイヤもただ柔軟性が高ければいいというものではなく相性というものもあるが、もっと滑らかさを出せる組み合わせがあるのではないかといろいろ試してみたくなった次第であった。

第2世代に対して大きなアドバンテージを示したのは静粛性。ここは見違えるほど良くなった。ロードノイズの車内への侵入は相当に削減され、少々荒れた路面でも静粛性が高いレベルで保たれるようになった。またエンジンコンパートメントと車室を隔てるファイアウォールの遮音も相当入念に行われているようで、巡航中に発電用の3気筒エンジンが起動しても低回転でゆるゆると発電している状態ではかかったことを見逃すくらいであった。

助手席側からダッシュボードまわりを撮影。テカったハードプラスチックだった旧型とは比較にならない高品位ぶりだった。助手席側からダッシュボードまわりを撮影。テカったハードプラスチックだった旧型とは比較にならない高品位ぶりだった。

「ないよりはあったほうが絶対にいい」運転支援システム

ノートには日産のADAS「プロパイロット」がオプション設定されており、テスト車両にはしっかり装備されていた。このプロパイロットのパッケージオプションはデビュー当初は非常に高価なものだったが、現在では後述する通信サービス「NissanConnect」を含まない16万3900円バージョンも提供されている。テスト車両に装備されていたのはナビリンクタイプというもので、ナビと協調して高速道路で半径の小さなカーブを通過する時など、必要に応じて速度も調節してくれるといった高度な機能を備える。日産のナビ情報の利用は歴史が古く、2000年代には高級車『フーガ』の前車追従クルーズコントロールにすでに組み込まれていた。

そのプロパイロットだが、今日のADASの中では十分に良いと言えるパフォーマンスを示した。筆者が初めてプロパイロット装備車でロングドライブを試してみたのは2018年2月、第2世代『リーフ』を駆っての東京~鹿児島ツーリングだが、4年間の進歩はさすがに大きく、車線認識、車線内をふらつかずに巡航させる制御、先行車の速度の変化への合わせ方等々、ほぼすべてのパラメーターについてそのリーフから長足の進歩を遂げていた。ADASの天敵のひとつは悪天候だが、かなり強い雨の中をクルーズしていても車線を失探することはあれど先行車を見失うことはなかった。

自動運転に一歩近づいたかどうかという視点ではまだまだ果てしなく遠いというのが正直なところだが、運転中のミス、見落とし、不意なトラブル発生などにともなって高まる事故リスクを軽減する能力については着実に進歩を遂げている。また、ステアリングアシストが安定していることは長旅の疲労軽減にかなり有効という実感もあった。ないよりはあったほうが絶対にいい。

後編ではパワートレイン、居住スペース&ユーティリティなどについて述べる。

日産 ノート X FOURのリアビュー日産 ノート X FOURのリアビュー

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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