今や車載SoCでも主役級のクアルコム、次なるビッグビジネスはBMW…CES 2023

ブースでのデモの様子(クアルコム/CES 2023)
ブースでのデモの様子(クアルコム/CES 2023)全 8 枚

クアルコムCES 2023での展示は、車載SoC(システムオンチップ)の新製品「Snapdragon Ride Flex SoC」が目玉となった。同社はスマートフォン向けのSoC「Snapdragon」で市場を制し、現在でも事業の柱はスマートフォンであることに変わりはない。だがこのところ、新たな事業の柱として車載SoCを育てているのだ。

クアルコムのSoCを搭載したボッシュのボードクアルコムのSoCを搭載したボッシュのボード

実際、ADASやデジタルコックピットに欠かせない先端ロジック半導体で、クアルコムはすでに主役とも言える存在だ。そして今後、車載コンピューターが複雑化・高性能化するにつれ、クアルコムの総合力がますます強みを発揮するものと思われる。

◆自動車メーカーがクアルコムを選ぶ理由

クアルコムのSoCを搭載したコンチネンタルのボードクアルコムのSoCを搭載したコンチネンタルのボード

ではクアルコムの総合力とは何か。CES 2023での取材エピソードとともに紹介しよう。

まず、クアルコムと言えば、消費電力の少なさが特徴だ。クアルコムのプライベートブースを取材した際、クアルコムの車載SoCは、なぜこれほどまでに自動車メーカーに広がったのかを担当者に聞いたところ、開口一番「消費電力の少なさが競合他社に対する強みだ」と答えた。スマートフォンの省電力の要件は、当然のことながら車載の比ではない。小さなバッテリーで高負荷の処理をしながら1日電池を持たせる性能が求められる。クアルコムはスマートフォンでその性能を磨いてきたということだ。

Snapdragon Ride FlexSnapdragon Ride Flex

そしてもう一つ、クアルコムの強みとして“開発のしやすさ”を挙げたい。

ソニー・ホンダモビリティの「AFEELA(アフィーラ)」は、クアルコムの「Snapdragon Digital Chassis」を採用することを発表した。ADAS、デジタルコックピット、コネクティビティ(通信)、クラウドにおいて、一通りクアルコムを採用するというものだ。同社の川西社長にこの件について聞いたところ、開発のしやすさを理由の一つとして挙げた。

Snapdragon Ride FlexSnapdragon Ride Flex

ソニーはスマートフォン開発の経験があり、そのエンジニアを社内に抱えているという事情もあるが、一方でクアルコムが、開発者向けのエコシステムをこれまでずっと育ててきたことも事実だ。充実した開発環境と各種ツール、活発なコミュニティの存在など、開発者が効率よく快適に仕事に取り組めることは、SoCの性能やコストと同じくらい重要なことだ。この点もクアルコムの競合他社に対するアドバンテージになっている。

◆次のビッグビジネスはBMW

Snapdragon Ride FlexSnapdragon Ride Flex

そして、特にクアルコムが存在感を増しているのがADAS領域だろう。スバル アイサイトXのカメラユニットを提供するヴィオニアを2021年に買収して以降、ルノーやGMへの供給が決まり、2022年にはBMWへの供給もアナウンスされている。

プライベートブースでこのことを担当者に聞いたところ、「GMへはSoCと開発環境の提供だけで、彼らはそれを利用して自分たちでスタックを作っている。それよりも我々にとってはBMWが次の大きな顧客だ。ソフトウェアの提供も狙っている。当初はBMWはレベル2+から始まり、レベル3に移行していくだろう」と答えた。補足すると、GMは同社のレベル2+の上級ADAS「ウルトラクルーズ」用にクアルコムの5nmプロセスSoCを採用したことが発表されているが、担当者曰く、そのSoCの上で動くソフトウェアはGMの独自開発で、クアルコムのものではないということだ。

Snapdragon Ride FlexSnapdragon Ride Flex

そしてBMWについては、これまでインテル=モービルアイ連合と深い関係があり、ADASのデバイスはずっとモービルアイを使ってきたが、ここへきてクアルコムに乗り換えるような形になる。

クアルコムとしては前述の強みに加え、「オープンでカスタマイズ性が高く開発しやすい、という特徴もプラスに働いた」という。

Snapdragon Ride FlexSnapdragon Ride Flex

◆アフィーラはクアルコムSoCにより800TOPSを達成

ソニー・ホンダモビリティのアフィーラがお披露目されたプレスカンファレンスでは、クアルコムのクリスティアーノ・アモンCEOが登場した。SDVを象徴するクルマとして世界が注目するアフィーラに、Snapdragon Digital Chassisが採用されたという意義を重視したのであろう。

そのアフィーラは、800TOPsの演算能力を達成するという。これがどれくらい高性能なのかと言うと、能力が高いと言われるテスラHW3チップ(現行車両に搭載されるもの)が144TOPs、まもなく登場すると言われているモービルアイのハイエンドSoC「EyeQ Ultra」が176TOPsということからもその高性能ぶりが分かるだろう。

これほどの高性能なSoCを低い消費電力で動かし、開発環境も整っているとなれば、クアルコムがこの先もシェアを伸ばしていっても不思議ではない。

◆ワンチップでコックピットやADASを処理可能な Snapdragon Ride Flex

そしてCES 2023のクアルコムの目玉は、「Snapdragon Ride Flex SoC」であった。デジタルコックピット、ADAS、自動運転(AD)の機能をワンチップで実現できる高性能なSoCだ。2024年からの生産開始を目指し、現在サンプルが提供されているとのこと。セントラル・コンピューティングやSDVといったコンセプトに対応し、自動車メーカーやサプライヤーの設計を容易にすると謳う。ADASの機能にあたるSnapdragon Ride Visionも含まれており、複数のカメラ、レーダー、LiDAR、HDマップを使用した運転支援が可能だ。

クアルコムの自動車部門シニア・バイス・プレジデント兼ゼネラルマネージャーであるナクル・ドゥガル氏は「ハードウェア・ソフトウェア・ADAS/AD(自動運転)スタックソリューションによって、自動車メーカーやサプライヤーの開発負荷を軽減し、市場投入までの時間を短縮する」とコメントを発表している。

《佐藤耕一》

日本自動車ジャーナリスト協会会員 佐藤耕一

自動車メディアの副編集長として活動したのち、IT企業にて自動車メーカー・サプライヤー向けのビジネス開発を経験し、のち独立。EV・電動車やCASE領域を中心に活動中。日本自動車ジャーナリスト協会会員

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