クルマと充電インフラの両方を手がけるテスラの行く先…スズキマンジ事務所 代表 鈴木万治 氏[インタビュー]

クルマと充電インフラの両方を手がけるテスラの行く先…スズキマンジ事務所 代表 鈴木万治 氏[インタビュー]
クルマと充電インフラの両方を手がけるテスラの行く先…スズキマンジ事務所 代表 鈴木万治 氏[インタビュー]全 9 枚

来たる5月26日、オンラインセミナー「どうなる?テスラの今後~クルマからエネルギー企業へ~」が開催される。

セミナーに登壇するスズキマンジ事務所 代表 鈴木万治氏は、自動車部品の世界的大手デンソーにおいて、宇宙機器開発やモデルベース開発などの全社プロジェクトを担当。2017年から20年まで米シリコンバレーに駐在し、18年からは中国子会社のイノベーション部門トップも兼務。

現在、デンソー 技術企画部 CXとして活動する傍ら、2021年にはスズキマンジ事務所を開業。デンソーの枠外でも価値提供を目指し、その深い見識を発信している。

セミナーに登壇する鈴木氏に、セミナーの見どころを聞いた。セミナーの詳細はこちら

■テスラの高い利益率はどのように実現しているのか

インタビューに先立つ4月19日、テスラは2023年度第一四半期の決算を発表。粗利益率は19.3%と、前期比は下回ったものの、引き続き高い水準を維持していることが判明した。

このような高利益率はいかにして達成されるのか。この背景として、鈴木氏は「安く製造して高く売る」戦略が功を奏していると説明する。

「各社のEVを電池容量と車両価格で比較すると、中国系と日欧系間に大きく分かれますが(中国系のほうが安い)、テスラは中国側に位置しています。それでもなおテスラは高い利益率を実現していますが、これは安く製造して高く売るという戦略が功を奏しているためです。」

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「テスラがどのように安く製造しているかを分析すると、まずギガプレス(またはメガキャスト)を使った一体鋳造が一つの要因でしょう。また、モデルSでは手作業による製造工程が多かったのに対し、モデル3では自動化が進み、今後の車両ではさらに製造方法が変わるとされています。」

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「ここで重要なのが、5つのカイゼンステップです。かつては日本の専売特許でしたが、イーロン・マスクは(同氏が代表を務める)スペースX社の広報動画でこれを紹介しています。彼は、製造工程を極めるために5つのステップが重要だと説明しており、日本のDX企業がHowにあたるステップ4と5(サイクルタイムの高速化とロボットなどによる自動化)に焦点を当てているのに対し、彼はステップ1から3(馬鹿げた仕様の削減、部品や工程の削減、設計の簡素化・高速化)、つまりWhatの部分が非常に重要だと強調しています。つまり彼は「何をするか」が重要であり、「どのようにするか」は最後に考えれば良いという考え方を持っているわけです。」

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「(2023年3月のテスラ・インベスター・デーで)彼らが話したのは、現在の主な製造手法である、モノコックボディを作成し、そこに内部の機器を組み込むような方法ではなく、各部品を個別に持ってきて、最後に一つに組み合わせるという新しいアプローチを取るということです。

また、(高価だと言われる)SiCを早くから導入しておきながら、今回の発表ではSiCを75%削減すると言ったり、自動車業界では、かなり前から検討していた48V化を実現することや、レアアースを使わないモーターや、半導体リレーの開発も進めています。」

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「これらの斬新な取り組みができる理由として、テスラの製品はコントローラーがすべて自社製であり、部品数も圧倒的に少ないことが挙げられます。例えばモデル3では、ティア1サプライヤーから調達したパーツは2100であり、これはエンジン車に比べて非常に少ない部品数です。」

「このようなコンセプトを発表すること自体は誰でもできますが、実際に実現できるのがテスラの強みであり、独自の知識と経験、自社での開発、そして優秀な人材が揃っていることがその理由です。特に、1番目と2番目の要素は他社も真似ができるかもしれませんが、3番目の要素は容易には真似できないため、今後もテスラは他の自動車会社よりも安く、質の高い製品を提供し続けることでしょう。」

■充電のユーザー体験を革新したテスラ

テスラの強みの源泉は、製造手法の革新だけではない。EVを利用するうえで不可欠な”充電”に関する懸念を、こちらも根源的な手法によって大きく下げることに成功していると鈴木氏は指摘する。

「製造手法以外にも、テスラの強みとして、エネルギー供給に対するこだわりが挙げられます。電気自動車が走行するための電気は火力発電などで生成されているという観点から、EVが本当にクリーンであるのかという疑問を投げかける方も少なくありません。しかしテスラは、この問題を解決するために、自社のスーパーチャージャーの供給エネルギーをすべてクリーンエネルギーと契約することでまかなっています。つまり、スーパーチャージャーで充電すれば、火力発電が多い日本ですらクリーンなエネルギーで走行できるのです。」

「テスラは充電インフラの整備にも力を入れています。例えば、大型ショッピングモールのTARGETでは、10台程度のスーパーチャージャーが設置されていることが珍しくありません。また、バイデン政権のEV充電網整備の助成金制度を巧みに利用し、条件をクリアするための最低限のスーパーチャージャーを他社向けに開放しています。これは、テスラが政府の補助金を非常に上手く活用しているという経営戦略の一例です。」

「また、テスラの充電インフラは非常にシンプルで使いやすいという特徴があります。日本の充電器のように、事前の登録や、その場でカード決済する必要がなく、充電ケーブルを挿すだけで利用できます。他社製EVで使う場合でも操作はすべてスマホのアプリで行うため、ユーザーにとっては非常に便利です。同時に、故障しやすい決済端末などが無く、シンプルな構造にしているため、他の充電インフラのように故障して休止することも少ないという強みもあります。」

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■ユーザーの行動変容をうながすデータの力

また鈴木氏は、充電インフラを自ら運営し、ユーザーの充電動向に関する膨大なデータを持っている、テスラならではの強みに言及する。

「自動車と充電インフラの両方を手がけているのはテスラとNIOのみです。これにより、これらの企業は車両の充電パターンを完全に把握しているため、ユーザーがいつどこで、どれだけ充電するのかを正確に把握することができます。」

クルマと充電インフラの両方を手がけるテスラの行く先…スズキマンジ事務所 代表 鈴木万治 氏[インタビュー]クルマと充電インフラの両方を手がけるテスラの行く先…スズキマンジ事務所 代表 鈴木万治 氏[インタビュー]

「これまで深夜電力が安価だったのは、(火力や原子力による)発電量が昼夜一定で、夜間に人々が電力をあまり使用しないためです。しかしテスラの分析によれば、(太陽光発電の増加により)昼間に充電することがより効率的になる可能性があります。このような予測は、テスラがエネルギー供給も手掛けているからこそ可能です。」

「日本を含む他の国や地域では、まだ充電インフラの整備が手探りの段階で、高速道路沿いに急速充電器を設置するという方針が多いです。しかしテスラは、各地に安価なAC充電器を設置する方が、バッテリー、ユーザー、そして設置者にとっても良いという結論を導き出しています。これもまた、テスラが自動車と充電器の両方を製造しているからこそ可能な結論です。」

「多くの人々は朝方オフィスに行き、仕事をしてから夕方に帰るという生活パターンを持っています。このようなユーザーにとっては、昼間に長時間かけて充電することが可能なAC充電器があれば十分です。そのため、高価なスーパーチャージャーではなく、AC充電器を駐車場に設置するという方針が有効です。」

「また、テスラはユーザーの充電行動を変えることも可能です。例えば、混雑している時間帯は充電料金を高く設定し、深夜などの利用者が少ない時間帯は安く設定することで、ユーザーの充電行動を調整することができます。このようなユーザーの行動変容を促す能力も、テスラの大きな強みと言えます。」

■月額30ドルで充電し放題プランの意味は

テスラは、家庭用ソーラーパネルや家庭用蓄電池、そこで発電される電力を使う・売電するなどの管理が可能なサービスも手掛けている。

このようなサービスを活用し、さらに囲い込みをはかるのが、新たに開始された定額制の充電し放題プランだ。このサービスが意味するところを、鈴木氏はこう分析する。

「テスラは単なる自動車メーカーではなく、エネルギー全体を管理し、個人に利益をもたらすビジネスも展開しています。例えば、ソーラールーフとパワーウォールを組み合わせることで、自宅でのエネルギー環境を完結させることができます。余剰の電気は電力会社に売電することも可能で、最初にアプリで設定するだけです。」

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「そして、ユーザーの充電行動を変えるような仕掛けも提供しています。例えば、月額30ドルで無制限に充電できるプランが挙げられます。できるだけ普通のAC充電を利用する方が環境的にもバッテリーにも良いため、このようなプランがあれば、多くのユーザーがAC充電を選ぶでしょう。このような方向性への引き寄せも、テスラの大きな強みとなっています。」

「テスラは、単なる自動車メーカーとしてではなく、エネルギー管理や独自のビジネスモデルを持つ企業として評価されるべきです。その革新的な取り組みとエネルギーに関する総合的な戦略は、他の自動車メーカーとは一線を画しています。」

■テスラの行く先はイバラの道となるか

このように、EVというモビリティを様々な角度から革新してきたテスラだが、これからの成長はイバラの道となる可能性があると鈴木氏は指摘する。

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5月26日開催のオンラインセミナー「どうなる?テスラの今後~クルマからエネルギー企業へ~」では、これまでの経験からテスラに関する深い見識をもつ鈴木氏ならではの、具体的な洞察が聴ける予定だ。お申込・詳細はこちら

《佐藤耕一》

日本自動車ジャーナリスト協会会員 佐藤耕一

自動車メディアの副編集長として活動したのち、IT企業にて自動車メーカー・サプライヤー向けのビジネス開発を経験し、のち独立。EV・電動車やCASE領域を中心に活動中。日本自動車ジャーナリスト協会会員

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