持続可能な物流の実現
2022年9月、経済産業省、国土交通省、農林水産省の三省は、2024年問題をはじめとする物流の諸問題を解決するため、有識者や関係省庁からなる「持続可能な物流の実現に向けた検討会」を設置した。以降、2024年問題の発生による物流への影響、物流プロセスにおける課題、標準化・効率化を推進するために必要な方策などを議論し、2023年6月16日に開催の第11回検討会をもって終了した。
成果物となる「最終取りまとめ」は、第11回検討会での議論、今後実施される予定のパブリックコメントを経て最終化され、公表に至る予定である。とはいえ、すでに「最終取りまとめ(案)」は開示されており、検討会での議論の内容は「我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議」にて取りまとめられた「物流革新に向けた政策パッケージ」にも反映されている。物流の2024年問題に対する政策の方向性は大筋定まったといっても過言ではないだろう。
4つのキーワードで見る政策のポイント
では、その政策のポイントはどこにあるのか。以下、「法制化」「定量化」「着荷主」「ガイドライン」の4つのキーワードで解説する。
■法制化
2023年6月2日に発表された上述の「物流革新に向けた政策パッケージ」では、「荷主企業・物流事業者間における物流負荷の軽減、物流産業における多重下請構造の是正、荷主企業の経営者層の意識改革・行動変容等に向けた規制的措置について、2024年通常国会への法案提出を視野に具体化する」と明記されている。つまり、来年の通常国会で法律の制定を目指すということだ。
この法制化に向けた動きは、2023年2月8日に発表された「持続可能な物流の実現に向けた検討会」の「中間取りまとめ」からも垣間見える。物流が抱える諸問題を解決するために、「類似の法令等を参考に、規制的措置等、より実効性のある措置も検討すべき」と記されているからだ。
その参考とされる既存法令は「省エネ法(エネルギーの使用の合理化等に関する法律)」である。同法の性質を踏まえると、「物流負荷の軽減」「多重下請構造の是正」「荷主企業の経営者層の意識改革・行動変容」に係る計画策定や大臣への報告・指導等を義務付ける法律となることが予想される。荷主や物流事業者はそうなることを想定しつつ2024年問題対策を検討・実行すべきであろう。
■定量化
「物流革新に向けた政策パッケージ」のもう1つの特徴は、2024年問題の発生により不足する輸送能力と、それを補うための施策の効果を定量的に示したことだ。すなわち、2024年問題が発生すると輸送能力が14.2%(4億トン)不足する。これに対して、様々な施策を実行することにより、「荷待ち・荷役時間の削減」「積載率の向上」「モーダルシフト」「再配達率の削減」を目標どおりに実現できれば不足分を補える。
もちろん、この数字自体は試算・推計の結果に過ぎない。施策効果の実現性は考慮されているものの、再配達率を削減し、宅配トラックのドライバーに余力が生じたとして、長距離トラックを運転するようにならなければ輸送能力を補えないのではといった疑問もある。しかしながら、何を実行し、どの程度の効果を得られれば、2024年問題を乗り越えられるのか、その道筋を定量的に示したことの意義は大きい。仮に「荷待ち・荷役時間の削減」が思うように進まなかったとして、代わりに「積載率の向上」を推進するといった工夫を講ずることもできる。上述のとおり、法制化によって計画策定や大臣への報告等が義務付けられる可能性を考えると、荷主や物流事業者は2024年問題対策を進めるにあたり、政府の数値目標に紐付いたKPIの設定を考慮することが望まれる。
■着荷主
物流の費用は、一般的に荷物の出し手である発荷主が支払う。したがって、物流事業者との運送契約は発荷主との間で結ばれることが多い。では、物流事業者の担うべき作業は、すべて運送契約に定められているかというと、必ずしもそうとはいえない。それどころか、物流事業者との間に直接の契約関係はない、荷物の受け手である着荷主からの指示に対応しなければならないこともある。実のところ、この着荷主からの指示への対応が荷待ち・荷役時間を増加させる原因でもあるのだ。