新型アコードに搭載、進化したハイブリッド「e:HEV」が示すホンダの未来【池田直渡の着眼大局】

ホンダのEV戦略はどうなる?

フィールを大事にするハイブリッドシステム

e:HEVの仕組み…エンジン撤退を考えているように思えるか?

新型アコードは速くてコントローラブルなスポーツセダン

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読者の皆様もすでにご存知の通り、急速なEVシフトの流れはちょっと一息ついた情勢である。すでに世の中の多数派は「EV全振りこそが正義」とは考えていない。むしろEV普及への道のりは長期戦であることが明らかになりつつあり、当然ながら当面ステップバイステップで発展していくEVを数的に補完するモビリティとして、そして同時に自動車メーカーの経営を支える商品として、ハイブリッドに期待は集まる。個人的には世間の風向きと技術発展次第では、ここにディーゼルが加わることもあるかも知れないと思っている。

ホンダのEV戦略はどうなる?

ということで、長期的にはEVはもう少し普及するだろうが、2024年はそこに掛かってきた大きな期待が萎んだ年である。国内メーカーは、自工会の方針の下で、マルチパスウェイを掲げて来たので、予想通りの展開となっており、これまで出遅れだの守旧的だのと批判されつつ耐えてきた戦略が当たって、展開が有利になったように見える。メディアを中心とした世論に袋叩きに遭いながら、折れず、曲げずの初志貫徹はご同慶の至りである。

しかしながら、筆者のところにも「ホンダは大丈夫なの?」という声がちょくちょく届く。これもまたご存知の通り、2021年の三部敏宏社長の社長就任会見で掲げた「先進国全体でのEV、FCVの販売比率を2030年に40%、2035年には80%」、そして「2040年には、グローバルで100%」という発言が、その心配の原因だろう。経過点はともかく、2040年にはグローバルで100%ということは、普通に受け取れば「ハイブリッドも含めた内燃機関完全撤退」と受け取るしかない。

実は筆者は2023年5月のG7広島サミットで、三部社長にそのあたりのことを直接伺ったことがある。その時の三部社長の回答は以下のようなものだった。

「就任時の発表も、色々な地域特性とかを見ながら目標値を設定しています。EVがカーボンニュートラルに対して非常に効率良く働く地域ではEVを早く出していこうということで、たとえばアメリカとかヨーロッパがそうです。では日本はどうかというとなかなか日本のエネルギー事情を考えるとまだハイブリッドの方がCO2削減に効果的であるという部分もあり、日本におけるEV比率というのは、欧米に対して少し低く設定をしています。

われわれの戦略というのは現実を見ていて、ただし2050年にカーボンニュートラルを達成するというゴールは同じ。そこから逆算してマイルストーンを決めています。そういうことで、自工会でずっと言っている通りEVかICEかということではないので、全体的にカーボンニュートラルにできるように考えています。2040年にゼロと言っているのは、非常にラフですけど10年間保有期間を見ています。10年以上乗る人もいるので残っている車両はあると思いますが、そういうものに対してのソリューションとしてはe-Fuelが大きなソリューションのひとつになるだろうと。たとえば古いスポーツカーを大事に乗っている方とかは、ずっと乗りたいわけですよ。そういう方にとってはe-Fuelが少し高くても、週末ドライブしたいと思うんです。そういう保有ということも現実的にはあるわけで、その解はわれわれとしては準備しなくてはいけないので、そこはエネルギー側とタイアップしながらやっていくわけですけど。なので、0か100かと言わずに、大枠の話としてご理解いただきたいと思います。

またブラジルもみなさんご存知のようにE100(バイオエタノール100%)ですでに経済が回っているので、そこを無理矢理EV化するかと言えばそういうことはないでしょう。モビリティをベースに商売をしている我々としては、そういうエネルギー全般にどう対応するかという観点は必ず持っていなければならないと考えているので、多様な選択肢ということを我々繰り返して言っていますし、現実的に考えていると、そういうことです。お前そんなこと言ったってEV100%と言ったじゃないかと言われると、まあ矛盾は感じますが、私の中ではちゃんと整理されているんです」

ということで、三部社長の真意としては0か100かではなく、多様な選択肢であると。筆者の受け止めとしてはあの時はちょっと大袈裟に言っちゃったかなということではないか。

フィールを大事にするハイブリッドシステム

さて、ではクルマの側から見た場合、ホンダの真意はどこにあるかという話に移りたい。ホンダは1997年に同社初のハイブリッドシステムである「IMA」をデビューさせ、以後DCTとハイブリッドシステムを組み合わせた「SPORT HYBRID i-DCD」、そしてこの2モーター方式による「e:HEV」と3世代にわたって独自のハイブリッドシステムを進化させてきた。ホンダのハイブリッドとしては最新世代にあたるe:HEVは、モーターとエンジンという2つの動力源を持つハイブリッドの原点に回帰して、状況に応じて最適な動力源をセレクトする。

そしてそのe:HEVは今回アコードへの搭載を機に、その構造をさらにアップデートさせてきた。高出力化、小型化、高効率化に加え、コストダウンも視野に入れて、従来同軸配置で搭載されていたモーターを平行軸配置に改め、2モーター内蔵電気式CVTを国内で初搭載してデビューさせた。

ホンダのハイブリッドはSPORT HYBRID i-DCDの頃からその傾向が強かったが、今回もまたパワートレインのファンtoドライブ性を重視するシステムとなっている。これまで世界的にハイブリッドシステムの代名詞となって来たトヨタのTHS2と、意図的に狙いを変えてきていると言ってもいいだろう。元祖ハイブリッドであるTHSは、超絶燃費のために開発されたシステムだ。高タンブルのアトキンソンサイクルエンジンを使って、燃焼効率を上げ、その最大熱効率で発生させたエネルギーを回生ブレーキで回収することで無駄なく再利用することが目的である。近年ドライバビリティも相当に向上したが、元々は燃費のためならドライバビリティを犠牲にするシステムだった。

今回ホンダがアップデートした新世代e:HEVは、具体的に言えば「フィールを大事にするハイブリッドシステム」ということになるだろう。ホンダ自身の言葉では「上質・爽快な走り」だと言う。

ハイブリッドというシステムは、低速域をモーターで、高速域をエンジンで駆動する。考えれば当たり前のことで、エンジンはそもそも低速でトルクを出すのが苦手で、発進からしばらく、一般的に2000回転以下はフィールがよろしくないだけでなく、燃費も環境性能も厳しい。ただし、負荷の高い高回転域になるとエンジンの方が優秀だ。

今回ホンダはその基本特性にとことん忠実なシステムを作り上げた。要するに発進時にはバッテリー電力のEVであり、大電力が求められる中間加速域では、バッテリーの電力にエンジンで追い焚き発電してモーターで走るシリーズハイブリッドに変わる。さらに高速の定速巡行では純内燃機関車と、それぞれ最も得意な領域で動力源を切り替えて使い分ける。

e:HEVの仕組み…エンジン撤退を考えているように思えるか?

ではそういうシステムをどう作り上げたのかだ。上で書いた通り、このシステムは、高速の定速巡行という限られたシーン以外では、モーターがパワーユニットである。EVモードとシリーズハイブリッドモードで駆動するのはモーターなので、モーター性能の底上げなしにe:HEVのシステムは成立しない。


《池田直渡》

池田直渡

自動車ジャーナリスト / 自動車経済評論家。1965年神奈川県生まれ。1988年ネコ・パブリッシング入社。2006年に退社後ビジネスニュースサイト編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。近年では、自動車メーカー各社の決算分析記事や、カーボンニュートラル対応、電動化戦略など、企業戦略軸と商品軸を重ねて分析する記事が多い。YouTubeチャンネル「全部クルマのハナシ」を運営。コメント欄やSNSなどで見かけた気に入った質問には、noteで回答も行っている。著書に『スピリット・オブ・ザ・ロードスタ ー』(プレジデント社刊)、『EV(電気自動車)推進の罠「脱炭素」政策の嘘』(ワニブックス刊)がある。

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