罰則強化! 「景品表示法」でアフター事業者が注意すべき点は?…消費者庁に聞いた

24年10月から「景品表示法」が罰則強化、自動車アフターマーケット事業者が注意すべき“広告表示”とは?…消費者庁 表示対策課長に聞いた
24年10月から「景品表示法」が罰則強化、自動車アフターマーケット事業者が注意すべき“広告表示”とは?…消費者庁 表示対策課長に聞いた全 7 枚

2024年10月1日から施行される「景品表示法」の一部改正により、課徴金制度の拡充や罰則の新設が行われる。

直近では、6月7日に都内の内科クリニックがステルスマーケティング規制で初摘発され、注目を集めている。4月には防虫防臭剤メーカーが景品表示法違反となり、3月には車両用除菌・消臭商材の効果について措置命令が出されたほか、輸入車メーカーの特定車種パッケージ・オプション価格について約12億3000万円の課徴金納付命令が出されている。

コンプライアンス遵守の対応強化が求められている今、自動車アフターマーケット事業者がサービス訴求のために作成したチラシやテレビCM、Web・SNSで強調している広告表示は問題ないのだろうか? 自動車アフターマーケット関連サービスの訴求としてよく見受けられる広告表示は違反にあたらないのか、消費者庁 表示対策課長の高居良平氏に話しを聞いた。

取材にご協力頂いた、消費者庁 高居表示対策課長

すべての買取サービスが規制対象

―― 編集部
まずはじめに、中古車の買取サービスが4月18日から景品表示法の規制対象になった件ですが、10月から施行される景品表示法の一部改正と関係があるのでしょうか?

―― 高居表示対策課長
タイミングが同時期のため誤解されやすいのですが、関係はありません。

2023年1月に公表された有識者による「景品表示法検討会」の報告書の中に、昭和52年に定められた「景品類等の指定の告示の運用基準」に規定された中古品の買取りサービスに係る考え方について意見がありました。

近年、買取業者と消費者間によるトラブル事例が国民生活センターに寄せられるなど、古い運用基準が現状に合わないとして見直しが提言され、これを受けて、消費者庁は、「景品類等の指定の告示の運用基準」を見直し、今年の4月18日から、中古車に限らず商品の査定を行い金銭と引き換えるという役務を提供していると認められるすべての買取サービスが規制対象だと明確にしました。

10月から、課徴金や罰則などペナルティが強化

―― 編集部
10月1日から施行される改正景品表示法ですが、課徴金制度が拡充され、罰則が新設されるという理解で間違いなかったでしょうか。

―― 高居表示対策課長
間違いありません。消費者庁や都道府県による調査で、景品表示法で禁止されている「不当表示」と判断された場合は、措置命令となり、対象売上額が5000万円以上の場合は課徴金納付命令が適用されます。10年以内に課徴金納付命令を受けた事業者が違反行為を繰り返した場合は、通常の1.5倍の算定率が適用される規定が新設されます。

罰則規定も新設されます。故意の優良誤認表示有利誤認表示について100万円以下の罰金を科す規定が新設されます。

そもそも景品表示法の目的は、一般消費者の利益の保護です。広告表示は消費者が商品・サービスを選ぶ基準になるため、正しく分かりやすいことが大前提です。実際の品質や価格よりも“著しく”優良または有利と誤認される不当表示を禁止しています。

品質や規格、内容に関する優良誤認表示。価格や取引条件に関する有利誤認表示。消費者に誤認されるおそれがあると内閣総理大臣が指定する、その他誤認されるおそれのある表示の3種類が不当表示となります。

リスクがある広告表示とは?

―― 編集部
自動車関連サービスの訴求としてよく見受けられる広告表示で、気になるものがいくつかあります。不当表示と判断される可能性があるのか見解を伺いたいのですが、例えば『地域で一番高く買い取ります』という表示はどうでしょうか? 

―― 高居表示対策課長
現実と広告の差が判断のポイントになります。本当に地域で一番高く買い取っているのであれば、問題ありません。ですが、立証が難しいためリスクがある表示だと思います。

本当に一番かどうかは、その時点では不確かなため、望ましいとは言えません。中古車の品質は、一台一台ごとに状態が異なり、査定が難しいものです。地域の競合他社と比較して価格差があった場合、実際に返金できる仕組みや保証などがあるなら地域一番という表示も可能かもしれませんが、とはいえ100%問題ないとは言い難いというのが正直なところです。

『◯秒で無料査定』はOK?

―― 編集部
中古車査定サイトで『◯秒で無料査定』という表示が多く見受けられますが、必須項目の入力だけで数分かかるため、◯秒査定という表示はNGだと、自動車業界関係者の間でよく言われているのですが、どう思われますか? 

―― 高居表示対策課長
消費者の認識として、ある程度の誇張や誇大は“広告”として許容できるという前提で、景品表示法は定められており、一般的な消費者の認識から“著しく”かけ離れている場合は、不当表示になるという考え方です。

事実に反するものがすべて不当表示なのか? というと、必ずしもそうではありません。『◯秒で無料査定』という広告表示に対して、実際は数分かかったとしても法律上直ちにNGとはならないでしょう。ですが、◯秒で終わることが少ないのであれば望ましくないと言えるでしょう。

―― 編集部
買取サービスではなく、車検を訴求する整備事業者のサイトで『地域最安値』という広告表示を多く見かけます。これは、最初にお聞きした『地域で一番高く買い取ります』と同様に、リスクが高い広告表示ということでしょうか?

―― 高居表示対策課長
地域一番と同じで、望ましい表示ではないでしょう。

『コミコミ』に何が含まれている? 消費者の認識は?

―― 編集部
カーリースの訴求で、近年『コミコミ』という表示がよく使われています。

追加費用が発生せず定額で車を利用できると思いがちですが、燃料や駐車場代は別途です。中でも分かりづらいのが、保険です。自賠責保険は含まれるが、法人向け・個人向けどちらの場合も任意保険は含まれていないケースもある一方で、自賠責保険と任意保険の両方が含まれているサービスもあります。

追加費用が発生する重要な情報を小さな文字サイズで注意書きする広告表示が多いのですが、正しく理解できなかった消費者に問題があるのでしょうか?

―― 高居表示対策課長
コミコミと表示した場合、消費者がどこまでのサービスが含まれていると認識するかに左右されます。当然含まれていると消費者が認識するサービスが含まれていなかったときは問題になると思います。

昨年、自動車公正取引協議会が、中古車の販売価格を「支払総額」表示に義務化するため自動車公正競争規約・同施行規則を改正された取り組みに通じますが、販売価格の内容が分かりづらいのは問題です。とはいえ、コミコミという表示が直ちに違法になるとは言い難く、ケース・バイ・ケースです。いずれにしても消費者に対して分かりやすく表示をすることが望ましいと言えます。

カーコーティングの「光沢」保証

―― 編集部
新車購入時のオプション・メニューとして、カーコーティング施工を行った際の光沢の保証期間について、昔から疑問に思っています。

保証年数でサービス価格に差があり、5年保証だとして6年目には光沢がなくなるのか? 新車時に施工を行わなかったら、すぐに光沢が落ちるのか? そもそもカーコーティングの光沢保証とは、何を保証しているのか? 消費者の誤認に繋がるのではないかと気になっています。

―― 高居表示対策課長
5年間は光沢を維持できるのであれば、偽りではないので問題ないでしょう。施工を行わなければ光沢が落ちて見栄えが悪くなるが、施工すれば5年間は光沢が維持されるという広告表示だった場合で、施工を行わなくても光沢が落ちないのであれば問題になる可能性があります。

景品表示法の難しい部分として「不表示」があります。当然に表示されるべき情報が表示されていない場合は、例外的に問題になるケースもありますが、デメリットを表示しないことが違反かというと、必ずしもそうではありません。

カーフィルムの『車検対応』は何を意味している?

―― 編集部
カーフィルム施工の訴求で『車検対応』という広告表示が多く見受けられます。施工後の車検に通る可能性が高いという意味合いで、主に施工事業者が消費者に向けて使用している表示です。

―― 高居表示対策課長
車検対応=車検に通るという意味合いで消費者が広く認識し、極端に劣悪な環境で使用したわけでもないのに、車検時に保安基準不適合になる事例が多いとすれば問題になる可能性はあるでしょう。

―― 編集部
『車検対応』とは、数年後(新車への施工であれば通常3年後の初回車検時)に保安基準を満たし、検査に合格することと認識しますが、実際には施工時に可視光線透過率が70%以上で保安基準を満たしていることを指していると思います。

消費者は『車検対応』という広告表示があったから費用をかけて施工したのに、継続車検が通らず、通すためにはカーフィルムを剥がす必要があると自動車検査員から指示された場合、広告表示が原因で不利益を被る結果になったと言えるのではないでしょうか?

―― 高居表示対策課長
結果的に車検を通らなかった場合に、3年前の『車検対応』という表示が不当表示だったということになるのかは判断が難しい問題です。当初の表示をしたときの事業者側と消費者側の双方の認識や、その後の状況も含めて総合的に判断せざるを得ません。いずれにしても将来の不確定な要素を含む場合に断定的な表示をすることが、望ましい表示とは言えないことは間違いありません。

カーフィルム効果の広告表示として『断熱』はOK?

―― 編集部
もう1点、カーフィルムの効果として『断熱』という表示が行われているケースがあります。断熱と聞くと、熱を通さない効果が極めて大きいと過大な期待を持つことがあるのではないかと気になります。

―― 高居表示対策課長
『断熱』と聞いて消費者がどのように認識するかによりますが、施工前と比較してあまり変化がない場合は問題になる可能性はあると思います。

地域の同業他社の広告表示が気になる

―― 編集部
自社では、景品表示法を意識して広告表示を行っているのに、地域の同業他社がルール違反にあたるような広告表示で集客している場合は、どのような対応が適切でしょうか?

―― 高居表示対策課長
消費者庁は、景品表示法違反に関する情報提供・相談の受付窓口を設けています。オンライン(景品表示法違反被疑情報提供フォーム)をはじめ電話やFAX、郵送でも受付けておりますのでご連絡ください。

親族間のクチコミ評価は「ステマ規制」にあたる?

―― 編集部
自動車関連サービスに限らず、近年はあらゆる商品・サービスの選択基準のひとつとして、Web上のクチコミ評価が重要になっています。

消費者が自主的な意思で評価したクチコミは問題ないと思いますが、昨年10月からステルスマーケティングが景品表示法違反になりました。どういったケースが違反にあたるのか? 何を注意すればよいのでしょうか?

―― 高居表示対策課長
ステルスマーケティングは、大きく分けて2種類あり、第三者に依頼するパターンと、自身が第三者になりすまして高評価を行うパターンです。いずれの場合も、それらが広告だと表示していなければステルスマーケティングとみなされます。

―― 編集部
自動車アフターマーケット事業者は親族経営が多く、依頼や指示していないのに家族や親族、近親者、取引先相手が高評価なクチコミを行うケースがあります。こういった場合は問題ないのでしょうか?

―― 高居表示対策課長
家族経営の個人事業主が、依頼や指示しておらず、親族や近親者が自主的な意思に基づき書いたというクチコミは問題ありません。ただし、第三者と当事者の線引きについては議論があります。

家族経営という場合に、親族などがどこまで経営に関与しているのかといった点を確認する必要があり、事業主との関係性がある場合は、個人的に応援したいから書いただけと主張しても、ステマ規制の対象になる可能性があります。

―― 編集部
例えば、自動車整備工場を経営するA氏の長女が結婚して名字が変わり、同工場のフロントスタッフとして高評価のクチコミを多数書き込んだ場合はどうでしょう?

―― 高居表示対策課長
それらのクチコミが事業者としての投稿になるのか、第三者の自主的な意思に基づく投稿なのかを様々な客観的事実に基づいて判断することになります。

より正しい情報提供が重要

―― 編集部
自動車業界では、コンプライアンス遵守の対応強化が求められていますが、景品表示法について理解が進んでいないように感じます。率直なご意見をお聞かせ下さい。

―― 高居表示対策課長
自動車関連サービスに限らず、商品・サービスを提供する事業者と消費者が持っている情報の量や質に格差があることを“情報の非対称性”と呼びます。消費者が知り得る情報量が少ないことを念頭に、適切な情報を提供することが重要です。

景品表示法の規制となる“著しい”誇大・誇張にあたらないギリギリの広告表示を行うのではなく、より正しい情報提供を行って頂けるように事業者の皆様に期待します。

―― 編集部
他の業界と比べて、自動車業界は情報の非対称性が高いように感じます。食品の味の違いなら消費者はすぐにおかしいと気づくことができますが、いま問題となっている自動車メーカーの不正などを消費者が気づくのは困難で、不正の内容もわかりにくい。

自動車業界は人の命に関わるからこそ細かいルールがある反面、情報の非対称性が高く、情報が少ない消費者が不利益を被る状況がうまれやすいからこそ、広告表示も含めて分かりやすい情報開示の必要性を強く感じました。

また今回お話を聞いて、景品表示表法の規制対象となる不当表示の判断の難しさを感じました。10月からの法改正で罰則が強化される中、自動車関連サービスの広告表示で多く見受けられる事例は、直ちに違反にはならないものの、あまり望ましいとは言えず、中でも“地域一番の高価買取”“地域最安値”といった表現はリスクがあるということが具体的に理解できました。また、クチコミ評価のステマ規制についても、利害関係がある近親者の高評価は十分に注意が必要だと強く感じました。

法令違反ではない広告表示を行うことは大前提であり、事業者の倫理観が問われる。そう痛感しました。消費者庁では、消費者から共感を得ることで、経営の成功と顧客満足度の向上を目指す「消費者志向経営」を推進されており、優良事例の表彰も行われているかと思います。消費者志向経営は事業者の社会的な価値を高める取り組みでもあり、消費者目線でのサービス提供と広告表示を行う事業者が増えれば好循環がうまれ、業界全体の活性化につながっていくと思いました。このたびは貴重な機会を頂き、誠にありがとうございました。

24年10月から「景品表示法」が罰則強化、自動車アフターマーケット事業者が注意すべき“広告表示”とは?…消費者庁 表示対策課長に聞いた

《カーケアプラス編集部》

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