ヴィテスコとの合併統合はシェフラーの正常進化につなげる…田中CEOが示す具体的ビジョン

シェフラージャパン 代表取締役 CEO 田中昌一氏(左)と、自動車事業部E-モビリティディビジョン バイスプレジデント 齋藤岳士氏(右)
シェフラージャパン 代表取締役 CEO 田中昌一氏(左)と、自動車事業部E-モビリティディビジョン バイスプレジデント 齋藤岳士氏(右)全 16 枚

シェフラージャパンは10月10日、横浜の本社において報道関係者に対しブリーフィングを行い、昨年来進めてきたヴィテスコ・テクノロジーズ社(以下ヴィテスコ)との合併統合を通じての、具体的なビジョンや事業の方向性を明らかにした。日本と東南アジアパシフィックの代表取締役とサブリージョンCEOを務める田中昌一氏と、自動車事業部E-モビリティディビジョン バイスプレジデントの齋藤岳士氏が、説明した。


エンジニアリング上のイノベーションも生み出せる

2社の合併は2023年10月に発表され、以来、双方の株主総会を経て法的な統合が進められてきた。最大株主であるシェフラー家の持分に代表される、議決権付きの優先株の割合が高かった中から、上場企業として踏み込んで一般株の割合を増やす方策が採られたという。

そもそもシェフラーはベアリングやクラッチ、電子制御ユニットやセンサー、エンジンの動弁系といったメカニカル系に強みをもつ会社。一方でヴィテスコはコンチネンタル・グループのパワートレイン部門を担っていた経緯もあって電子電機関連が強く、ソフトウェアを含めたシステムインテグレーションも得意としている。2019年にコンチネンタルから独立して2021年にはフランクフルト証券取引所に上場していたが、シェフラーは2000年代末よりコンチネンタルAGの株式を46%保持しており、そこから派生したヴィテスコ・テクノロジーズの株式公開後は、さらに資本参加の割合を伸ばして49.9%を握っていた経緯がある。規模でいえば、2022年のシェフラーの売上高160億ユーロ(約2兆6080億円)+ヴィテスコ90億ユーロ(約1兆4670億円)=総計250億ユーロ(約4兆750億円)、約100カ所の生産拠点に、社員数にして12万人以上もの巨大統合ではあるが、電動/ICE双方のリバランスを含むパワートレイン事業の巨大再編ともいえるだろう。

田中氏は以下のように、新しいシェフラーのビジョンを解説する。

「双方ともパワートレーンでやってきて、これまでも協業はしており、シェフラーはダブルクラッチ式トランスミッションをはじめ、ヴィテスコもピエゾ効果を用いたアクチュエーターやアルコールセンサーなど、独自開発の技術を発明してきました。いずれもそうした独自性ある文化によって自動車システムに貢献してきた会社ですので、一緒になることでシナジーだけでなくエンジニアリング上のイノベーションも生み出せると考えています」

例えばサステナビリティについても、それぞれが多くの投資をすでに済ませている。ヴィテスコの新しいインド工場では、敷地内に浄水場まで設けて、水を無駄に使わないのはもちろん、最後は浄水して花壇に使っているという。またシェフラーの方は、鉄を多量に使う業種である以上、購買面でグリーンスチールの導入を推進しており、スウェーデンの鉄鋼メーカーから水素で運営される溶鉱炉で作られた鉄を仕入れ、サステナビリティを強化している。

「価値観と統治、長期的視野でのオリエンテーションというのは元々、非上場のファミリー企業であったシェフラーのビジネスに対する考え方です。四半期ごとの株価を見て方針を変えるような運営の仕方はしていません。これから内燃機関と電動化がどうなっていくのかも長期的視野に入れながらやっていくものと、私は思います」

統合後の事業領域、主要な4本柱とは

統合された「新たなシェフラー」は自らを「モーション・テクノロジー・カンパニー」であると定義し、そのプロダクト&サービスのポートフォリオを「ガイドする・伝達する・制御する・生成する・出力する・駆動する・エネルギー効率化する・支える」という8つの各(モーション)領域に大別している。

ポートフォリオ上ではそれぞれ、ベアリング&軸受・トランスミッション&エンジンコンポーネント・電子制御ユニット&センサー・アクチュエーター・パワーエレクトロニックユニット・電動モーター&電動車軸・水素スタック&プレート・修理&モニター機器やサービスに、相当する。これらの領域でエモーション・テクノロジー・カンパニーとして、イノヴェーションを生み出しつつグローバル展開するため、主要な4本柱となるのが、1.E-モビリティ 2.パワートレイン&シャシー 3.ビークル・ライフタイム・ソリューション 4.ベアリング&産業ソリューション という、4つの事業部門だというのだ。

「シェフラーのユニークなところは、自動車部品のみならず産業機械の事業部があることで、通常の乗用車や軽量商用車を扱う部品メーカーよりも、幅広い市場と顧客を見ています」

つまり自動車の範囲だけに囚われない技術領域や要件、トレンド動向をもカバーしていることを、田中氏はほのめかす。飛行機のエンジンのベアリング、あるいは風力発電用の直径3.2mものメインベアリングでも世界的なシェアを有しているほか、鉱山で採掘物を地上に運搬するための、20数kmのベルトコンベアをモニターするためのシステムを、ベアリングに組み合わせた監視システムといったソリューションをも提供している。

「産業ソリューションが売上のおよそ2~3割を占める分、自動車業界が不調な時期にシェフラーではそれを補う要素になっていますが、ヴィテスコはこれまで自動車に特化してやってきました。自動車関連の部門では、ICE系のソリューションと電動化の二つがある中で、両社ともヨーロッパの割合が大きくて、次に中国そしてアメリカなのですが、中国は開発から生産までもう自立していけるほどの規模まで来ています」

いわば今後、強い成長の見込まれるE-モビリティ部門に旧ヴィテスコは貢献しつつ、従来より安定した事業基盤を得られ、2030年に向かってパワートレイン&シャシー部門でICE関連の売上が緩やかに減少するであろうところを補うという見立てだ。


《南陽一浩》

南陽一浩

南陽一浩|モータージャーナリスト 1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。

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