サーキット走行をするクルマではよく装着されているオイルキャッチタンク。レーシングカーでは必須の装備。ナンバー付きレース車両でもレギュレーションで装着が義務付けられていることもある。では、オイルキャッチタンクにはどんな効果があるのだろうか。
◆オイルキャッチタンクって何の効果があるのか?
エンジンのクランクケース内部は下の方にはオイルが溜まっていて、それをポンプで汲み上げて各部を循環している。
その中ではクランクシャフトが回転していて、コンロッドが接続されてピストンを上下させている。このクランクケース内部は空気が入っているが、クランクシャフトはオイルを撹拌していて、オイルがミスト状になって舞っている。また、エンジンによってはオイルジェットという注射器の先のようなところから、ピストンの裏側に向かってオイルが噴射されて、ピストンを冷やしつつシリンダー壁などを潤滑している。
さらに燃焼室で爆発が起きる際にわずかながらピストンとシリンダー壁の間から混合気や、未燃焼ガス、燃焼済みのガスなどが漏れてくる。そんなカオスな状態になっているのがクランクケース内部だ。
そのクランクケース内部は未燃焼ガスなどが少しずつ入ってくることもあって密閉していると内部の圧力が上がってしまう。そうなると抵抗でエンジンが回らなくなってしまう。そこでクランクケース内部の空気を抜いている。この空気はブローバイガスと呼ばれている。そこには未燃焼ガスや霧状になったオイルが含まれていて有害。このガスを大気開放することは許されていない。
そこでこのガスをインテークに接続してある。これから燃焼する空気にこのガスを混ぜることで、一緒に燃やしてしまえば未燃焼ガスやオイルミストが大気開放されないという仕組みだ。
◆綺麗になったガスだけを戻す事が出来るオイルキャッチタンク!
だが、ここで問題になるのがこのブローバイガスの成分。車種によってはオイルミストが発生しやすいものもある。また、エンジンが疲労してきてピストンとシリンダー壁の間からガスが多く出るようになると、ブローバイガスも増え、そこに含まれるオイルやガソリンによってインテークが汚れてしまう。ときには、それが原因で排気ガスにオイルが燃焼して白煙が含まれたり、エアフロメーターが汚れてしまうとか、インテークやターボ車であればインタークーラー内部にブローバイガス由来のオイルが溜まってしまうなんてことが起きうる。
そこでブローバイガスをインテークに戻す前にオイルキャッチタンクを経由させることで、ブローバイガスから液体を取り除こうというのがオイルキャッチタンクの狙い。内部は隔壁がいくつか入れられていて、ブローバイガスが隔壁にぶつかることでそこに含まれている霧状のオイルやガソリンなどを液体化して溜める。キレイになったガスだけをインテークに戻すのだ。徐々にオイルキャッチタンクにはオイルやガソリンが混じった液体が溜まっていく。それは定期的に廃油などと同様に処分する、というのがオイルキャッチタンクの仕組みである。
レースではエンジン内部にトラブルが起きた時に、オイルキャッチタンクがオイルを受け止めることで、多量にエンジンがオイルを吸い込んでコース上にオイルを撒くのを防いだりする目的で取り付けが義務付けられている。
ハードなチューニングカーでは抵抗を減らすためにピストンとシリンダーのクリアランスを大きく設定して、エンジンを組んでいることがある。そうなるとブローバイガスがある程度出ることを前提にしているので、オイルキャッチタンクで受け止めるようにしているのだ。
すなわちノーマルエンジンで普通に乗っている分には、ほとんどブローバイガスにオイルミストが含まれたりはしない。オイルを多めに入れてクランクシャフトがたくさんオイルを捲き上げていたり、エンジンがお疲れ気味で混合気の吹き抜けが多い場合にはブローバイガスにオイルやガソリンが含まれたりするが、エンジンが元気であればほとんど効果はないのだ。
とはいえ、少しでもインテークがオイルで汚れるのを防ぎたいとか、ブローバイガスの量が増えてきたらエンジンが疲れてきた証なのでそれを把握したいという狙いであればオイルキャッチタンクは有効。
そういった目的であれば装着する意味はあるが、取り付けることで速くなったり燃費が良くなったりに直結するパーツではない。そのことを理解したうえで取り付けるようにしてもらいたい。