1年半前の2023年12月、ダイムラーやボルボ、ジーリー(吉利汽車)にいすゞとマツダ、ウーブン・バイ・トヨタに加えてNVIDIAなど、自動運転やAI関連領域の主要プレーヤーと目される企業から1億3500万ドルを調達したことで、にわかに注目を集めたForetellix(以下フォーテリックス)。自動運転開発ツールチェーンを提供する大手プロバイダーの同社。CEOおよび共同設立者のジブ・ビニャミニ氏とマーケティング担当副社長のロジャー・オルドマン氏、そして日本支社のセールス&ビジネス開発ディレクターである岡照治氏が5月中旬、都内でインタビューに応じた。
自動運転の観点で日本市場を重要視する理由
米カリフォルニア州とイスラエルのテルアビブを拠点とする同社が注目を集める理由はどこにあるのか? それは自動運転スタックを訓練すること、すなわち実走行データを走行シナリオとして自動抽出し、統合的シナリオを補強する独自のデータ自動化ツールチェーン「Foretify(フォーティファイ)」を開発したことによる。AIが生成するデータの妥当性を検証するプロセスを、自動化しつつ多用性と精度を向上させるソリューションだ。
より平たくいえば、自動運転の自律性を高めるためのAIドライバーのテストと学習は恐ろしく複雑にならざるを得ないが、安全性を評価しながら数百万以上ものシナリオを効率的に検証できるようになる、そんなツールだというのだ。
そんな同社がなぜ日本を重要な市場と位置づけているか? ビニャミニ氏は「日本はただ有力なOEMが数多くいるのみならず、人口動態的に老化が先んじて進行しているため、自動運転がもっとも早く、安全なカタチで実現することを必要としている」と指摘する。AIというテクノロジーの開発においてアメリカや中国の後塵を拝してはいても、OEM各社が車両起因の事故ゼロを開発目標に掲げる以上、自動運転を正しく安全な方向に導いていくための重要なチャレンジが継続的に起きるであろう市場、そう見なしているというのだ。

日本代表の岡氏は「無論それは、PL法(製造物責任法)に起因する考え方です。が、衝突安全性のように規制による基準が定められて、そこをクリアすればOKという対応の仕方だった自動車業界の開発ロジックが通じないのが自動運転でもあります。開発側の想定するケースやルールでは検証し切れないものを検証して制御上で対応できるようにする、それが我々のソリューションの担うところです」と捕捉する。

どういうことか。これまで自動運転におけるAIといえば、カメラやレーダーやLiDARやGPSといったセンサー類で集めたデータを、知覚情報として認識するために用いられてきた。だが認識AIの単一利用からさらに進んで、安全なシナリオの計画化と現実の制御までを担い、複合的なエンドツーエンドとして3次元の世界を理解する物理AIニューラルネットワークであることに、同社のシステムの特徴があるという。
安全性評価に必要な独立データ駆動型の手法
AIドライバーは究極の安全性を達成するために、あらゆる運転シナリオを処理・実行できるよう効率的に学習と検証をすることが求められる。ところが従来型のAIには課題への対処プロセスにおいて、“ハルシネーション”と呼ばれる、不正確な回答を雪だるま式に積み上げていく“幻覚症状”、それがなぜ起こるか分からないブラックボックス問題や不安定性が見られた。ゆえに都市部での運転のための自動運転スタックを構築するのに、AIを用いることは必須でも、安全性を評価するには独立したデータ駆動型の手法が要るというのだ。